
「近すぎる…」駅徒歩数秒、これぞまさしく駅前酒場!/京王稲田堤「酉将2号店」
我々酒場ナビでは〝陸の孤島酒場〟なんて企画があって、主にメンバーのイカがその美学を体現している。電車からバス、さらに数十分も歩いてやっと現れる酒場を目指し、下手をすればその酒場での酒代より交通費の方が高くつくことのある陸の孤島酒場。
しかも、読者の中にはわざわざそれを追ってその酒場へ訪れるという奇特な方もいらっしゃるようだ。詰まるところ、我々が紹介した酒場をきっかけに訪れるというのが、なによりありがたいことなのだ。
その逆もある。例えるなら〝駅前酒場〟とでもいおう。雑居ビルのテナントや代々その土地で営む酒場など、最寄り駅を出て数分で入れる酒場の方が多いだろう。目的の酒場のある最寄り駅で降りて、サッと近くの暖簾をくぐる。調子に乗って飲み過ぎても、駅前酒場ならすぐに電車に乗って帰ることができる。
苦労して我慢して、やっとたどり着く陸の孤島酒場は、登山やサウナ的な魅力に似ている。とにかく気軽に、生活のルーティンとして駅前酒場を愉しむのもいいだろう。一般客からしたらナンノコッチャだが、酒場好きからすればどちらも決め兼ねる〝魅力〟のひとつなのだ。
さて先日、その〝駅前酒場〟を偶然発見したのだ。場所は京王線とJR南武線が交わる『京王稲田堤駅』にある。京王線側のホームを降りるか降りないかのところで、おや、なんとも旨そうなやきとんの香り。
と、その香りを辿ると提灯が並ぶ『酉将2号店』があった。ここ、駅からどれくらい近いかというと……
駅を出て約5メートルの目の前! 駅から徒歩数秒、近すぎるっ! 改札を出たくらいから「ホッピーセット、白で!」って叫んだら、注文が通るじゃないかと思うほど近いその酒場、これぞまさしく〝駅前酒場〟だ。
小さな雑居ビルの一階部分に〝酉将〟と大書された赤暖簾と藍暖簾が揺れている。テイクアウトがすぐできるように店先に焼き場がある。旨そうな香りの元は、ここからだった。
〝2号店〟というからには本店があるのか? 2号店でこの距離なら、本店はどれだけ駅近なのだろうか……と思いきや。調べると本店は閉業していた。ホッとしたような、残念なような気持ちで、2号店の暖簾を潜る。
「いらっしゃいませ」
店に入ると〝扇状〟に広がっており、カウンター数席とメインフロアにテーブル、奥には小上がりがあり、外観から想像できない広さだ。
シブすぎるほどではないが、壁や天井、テーブルや照明が全体的に茶色で味わいがある。
となると、ここは茶色の酒から始めよう。『白ホッピーセット』が注がれたシュワシュワ炭酸の弾ける音が、私を拍手喝采して迎え入れてくれてるようだ。
シュワッ……シュワッ……シュワッ……、ジュワァァァァっとうんめえっ! 酒場が近かろうと遠かろうと、ホッピーはどうやったって旨い。今日、特においしく感じたのは、店内に漂う煙の香り。
そう、駅から匂っていた『やきとん』を頼まないわけにはいかない。大好物の『レバタレ』は、肉肌が美しくエッジの効いている。
サクッとした食感と甘すぎずしょっぱ過ぎないタレが絶妙。時折歯に当たる焦げ目がまたいい。
ただそこにあるだけで「カリッ」という吹き出しから見えそうな、その名も『ササミクリスピー』をひと口。
「クリスピッ!」と衣が弾ける快音が鳴る。ササミ自体に脂なんてほとんどないのに、この重厚で濃厚な味わいが不思議でおいしい。コンビニでも似たようなものがあるが、色々な食材の脂が混じるこの味は酒場でしか出せない。
たっぷりめの塩で豪快に焼き上げた『赤エビの塩焼き』の登場だ。こういうビジュアルって、BBQでしか見れないと思っていた。バリバリと皮をはぎ取り、食らいつく──旨い! プリンプリンと弾ける食感と、ジュワッと染み出るエビ汁の旨味。ほんのり炭火の香りがして、やはりBBQ的なおいしさが味わえる。
ふっと、席から出入口を見ると、内暖簾の先には駅の改札という安心感よ。店の出入口のギリギリで独酌している先輩なんて、ほとんど駅構内で飲んでるのと変わらないだろう。ちなみにこの京王稲田堤駅は、『JR稲田堤駅』と徒歩3、4分しか離れていない〝駅近駅〟だ。
ナマモノも負けてはいない、『マグロ刺身』がやってきた。一瞬、イラストなんじゃないかと思うほど均一な鮮紅色に魅了される。
ベロリと舌に乗せると、赤身のしっとりとした旨さがシュクシュクと舌に伝わる。至極、あたり前のことを言うが、おいしいマグロは本当においしい。
もともと『センマイ刺』が苦手だが……これは、旨い! センマイ刺の何が苦手かって、とにかく〝水っぽい〟食感だ。ところが、このセンマイ刺はそんな水気はゼロ。
コリシコの歯ざわりにごま油の香ばしさ、そして特製の味噌ダレの甘じょっぱさが見事に絡んでおいしい。決して見た目のいい料理とは言えないが、旨ければそれでいい。
改めて、席から出入口を見ると、やはり駅が近い。この風景があれば、何時間でも飲み続けられそうだ。それにしたって、ここより駅近酒場なんてありえるんだろうか? あるとしたら、もはや駅の改札の中にある酒場くらいだろうな……なんてことを考えつつ、そろそろお開きの時間だ。
「あがとうございましたー」
店を出て目の前の駅。そして横を見ると、「嘘だろ?」ってくらいにセブンイレブン同士も近いことに気づく。前から思っていたが、同会社で店舗を近づける意味ってあるのだろうか……?
えっ、結局お前は〝陸の孤島酒場〟と〝駅前酒場〟のどっちがいいのかって?
断然、駅前酒場です。ベロベロに酔っぱらって何十分も歩いて駅に戻るなんて……無理!
酉将2号店(とりまさ)
住所: | 神奈川県川崎市多摩区菅4丁目2-1-102 |
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TEL: | 044-945-9859 |
営業時間: | 「水・木・金・土・日」16:00 - 22:00 |
定休日: | 月・火 |