常陸多賀「ひかり食堂」魅力度最下位を返上せよ!茨城大衆食堂の部
ネットニュースは毎日欠かさずチェックしているのだが、去年の暮にこんな見出しを見つけた。
〝都道府県魅力度ランキング2019〟
おっ、いいねぇ。こんなタイトルは大好きだ。東京に住んですでに二十年以上経つが、未だに地元を応援するという気持ちは変わらないものだ。どれどれ、私の地元の秋田県は何位くらいか……と、記事を開いてみる──、えっ!?
〝茨城県が7年連続の最下位〟
地元のランキングより先に目に飛び込んできたのは、〝7年連続の最下位〟という結果だ。〝7年連続〟といえば、20年前に私と酒場ナビメンバーのイカと一緒にバイトしていた新宿の漫画喫茶のビルが、新宿で一番不衛生なビルとして当時7年連続目だった(どれだけ不衛生だったかはここでは書けない)
完全に殿堂入りじゃないか……。というか、茨城よりもっと魅力がない県はあるだろ……いや、そんなことは思ってはいけません。そもそも、茨城には色々あるじゃないか。例えば、『納豆』が有名じゃないか。納豆なんて、日本人の心そのものと言っていいくらい必要不可欠な食べ物だ。『水戸黄門』だって有名だ。誰でも知っている水戸黄門のテーマソングや、「控えおろう!」の名台詞も子供の頃から知っている。
さらにだ……
さらに……
あれ……? えっと、さらに、あれだよ。
えーっとね、……うーん、と──
出てこないぞ。
ちょっと待て、おかしいな……まだ何かあった気がするのだが、全然出てこない。あっ、親戚のおばさんの出身地だったな……いや、そんなのはどうでもいい。
〝7年連続の最下位〟
気になる……。これは是非とも確かめに行ってみたい。もちろん私の場合、それは〝酒場をもって〟である。
『水戸駅』
茨城の中心地は、どこにでもある地方都市の風景だ。しかし、今回はあくまで〝観光〟ではない。おそらく、〝7年連続の最下位〟という不名誉な称号は、少なからず事実なのだと思う。そこは仕方ないとしても、私は茨城酒場が最下位であって欲しくはないのだ。
そうなると、本当に行ってみたいと思った茨城の酒場へ行こうと思う。ここはあえて、中心地の水戸を離れ〝大衆酒場通〟から静かに人気のあるという町へと行くことにした。
『常陸多賀』
水戸駅から電車で25分。降りたどころか初めて聞く駅。さらに、何て読むのかも分からない駅。私が初めての町でまず最初に押さえておくのは『大衆食堂』だ。どんな小さな町にもあるし、昼間から酒が飲れる。なにより、そこの住人の老若男女問わず誰でも訪れる場所なので、町の雰囲気を感じることが出来るのである。そんな大衆食堂に、珍しく夜に訪れてみる。因みに、今まで食堂の記事は山ほど書いてきたが、夜の食堂ははじめてである。
『ひかり食堂』
駅から歩いてすぐ、なんともいい面構えの外観が現れた。昭和全開の雑居ビル、文字看板のペンキの剥がれ具合、店先にある申し訳程度のショーケース、それらをキリっとまとめる白無地暖簾……いいですねぇ、夜でも分かる実にいい食堂構えだ。辛抱堪らず、さっそく白暖簾を割る。
「うっひょぉ」
中へ入ってまた驚き、思わず変な声が出てしまった。とにかく〝内壁〟の渋み! 茶色に煤けた立て板でびっしりと囲われ、見上げれば天井に同じ施し。床のタイルがいいコントラストだ。
それに装飾品は、年代物の冷房やポスター、黒板に台所と冷蔵庫……垂涎の光景に立ち尽くしてしまう。店の外と中、かなり理想的な大衆食堂だ。
「いらっしゃいませ」
というマスターの言葉で我に返り、一度席についてヨダレを拭おう。さて、こんな具合のいい食堂での酒は何がいいかメニューに目をやると、珍しいものを発見。
『カップワイン』
冷蔵庫から取り出したばかりで、キンキンに冷えている。カップワイン自体をあまり見ないのに、まさかこんな食堂で見つけるとは。
カポリとフタをめくり、人差し指にフタを付けたまま、クイー……。ひんやりとした大口ガラスの口当たり、赤ワインの芳醇な渋みが、店内の渋みと溶け合ってンまい。こりゃ、料理を早く試してみたい。
「すいません、マスター手が空いたら注文お願いしま~す」
どうやら、今の時間はマスターひとりで接客調理をしているらしい。他に客もほとんどいないし、ここはこちらもノンビリと飲るか。
『ハムカツ』
おおっ、これは極厚だ。ハムカツはいつからかみるみる市民権を得て、厚さや製法にこだわる酒場が多くなった。しかし、必ずやらなければならない〝儀式〟はただひとつ。
そう、ハムカツのワレメに、ソースをたっぷり〝ドロォ~〟である。特に、こんな分厚いハムカツにはしっかりとブッカケてやる。衣のカリッ、厚肉のブリリンッ、ソースの甘酸っぱさがジュワッ、この三点バーストが極厚ハムカツの醍醐味だ。これを読んでいるあなたも、さぁ〝ドロォ~〟っと。
『野菜炒メ』
なぜか炒めの〝め〟をカタカナにしているはさておき、長旅で少々腹が減っていたところにこの超ボリューミィ。キャベツ、もやし、カマボコ、豚バラ、ヤングコーン……野菜炒めに入っているヤングコーンてのが、またウマいんだよなぁ。他の野菜のしなっとした歯触りにカリコリとちょうどいいアクセントになる。全体をまとめるのは、年季の入ったフライパンから移る独特の風味。あゝ、ライスが食いてぇな……と、メニューの中にこれまた食堂では変わったものを見つけた。
〝まぜそば〟
オススメとあったので思わず頼んでみたが、食堂でまぜそばとは、此れ如何に。まぜそばは好きなのだが、正直、どこの店も大差がないと思っている。だが、この〝安定してウマい〟というのは凄いことで、例えばカレーライス、カップヌードル、ハムエッグなど、いつ何時でもウマいというソレと同じ部類なのだ。
届いてみると、やはりどこにでもある『まぜそば』のようだ。うむ、まさに安定だ。
まずはこいつの黄身へ、ズボリと優しく箸を挿れまして、
一気に掻き回すッ!!
良きころ合いに、割箸のキャパ限界で麺をムンズと掴み上げ、一気にすすり上げる……!!
ズルルルルゥゥルル……
……ん? あれ、これメチャメチャウマいぞ!?
ピリッと心地いい辛味、肉味噌の旨味、ニラネギの香味……いや、これはきっと麺のウマさじゃないだろうか。味のしっかりと沁みた太麺が、クセのある薬味らをドンと受け止め混然一体とする。ウマい……とにかくウマい! うーん、まだ何か口惜しい、これは是非とも実際にすすって体験して欲しい逸品だ。
ひたすら、興奮気味に麺をすする音だけが、渋い店内に響き渡る。そして、ふと周りを見渡す。
大衆食堂というのは、いつも三角巾を被ったお運び女将が店内を駆け巡り、「日替わり一丁!」という掛け声で厨房の大将が鍋を振り、瓶ビールと枝豆冷奴で飲る先輩で賑わっているものだ。
ここも昼間はもっと賑わっているのだろうけれども、夜の静かな食堂で飲るというのも実にいいものだ。もしかすると、外へ出ると誰もいないんじゃないだろうか、まるで異次元で飲っているかのような不思議な夜の大衆食堂。
ここではきっと、あの不名誉な称号が、良い意味での効果なのかもしれない。
〝魅力度7年連続の最下位〟
いや、
いいじゃないか、茨城大衆食堂。
酒場において、これを返上する〝ひかり〟はここにあったのだ。
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ひかり食堂(ひかりしょくどう)
住所: | 茨城県日立市千石町1丁目11-24 |
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TEL: | 0294-33-1028 |
営業時間: | 11:00~14:30 17:00~20:30 |
定休日: | 月曜日 |