【特別企画】街が巨大な酒場になる!?酒場ナビ的「高円寺阿波踊り」の楽しみ方
「おい、起きろって!」
……死んだんじゃないかと思えるほど、二人が起きる気配はなかった。
去る、2016年8月──。
8月と言えば”祭り”、”祭り”と言えば『高円寺阿波踊り』である。
毎年8月最後の土日の2日間行われる『高円寺阿波踊り』には、酒場ナビメンバーも毎年欠かさず参加する。
“参加する”といっても少し違う。
“連(れん)”による迫力の踊りを観るのもいいが、酒場ナビでの楽しみ方といったら”はしご酒”なのである。
『そんなもん、お前らいつもやってるじゃねーか』と言われそうだが、この祭りでする”はしご酒”はひと味違ったものなのだ。
普段、飲食店をやっている店舗はもちろん、高円寺という土地柄『美容室』や『古着屋』という普段はまったく飲食に関係ない店舗までが店先に屋台を出し、あたかも高円寺全体が”超巨大な酒場”と化す。
そんな雰囲気と交わってする”はしご酒”は普段のものと比べものにならないほど楽しいのだ。
昨年も例外なく気絶寸前まで酒を飲み、初日の次の朝、私は高円寺の自宅の部屋で床にうつむせ状態で目覚めた。
なぜなら、ベッドはメンバー二人に占拠されていたからである。
前述の通りまったく起きる気配がなかったが、何とか二人を午後には追い出し、やっと一人の時間が出来た。
私は飲みに行った次の日は、可能な限り一人でゆっくりしたい性分なのだが……。
「2日目は、東高円寺から攻めよかー」
初日で浴びるほど酒を飲み、二日酔いもまだ収まらないその日の夕方、イカから信じられない電話が入った。
“いや、今年の2日目は止めとくわ”と私が断る前に、既にカリスマジュンヤも誘って店へ向かわせているとのことだったので、渋々私も東高円寺の『満州王』という中華屋へ向かった。
今回は、2016年『高円寺阿波踊り』の酒場ナビ的”はしご酒”の様子を書き記したいと思う。
『満州王』
この店は『きたなシュラン』でも紹介された店でもあり、メンバー内でも行ってみたいと前々から思っていた店でもある。
噂に違わぬ、強烈な店内。
昨夜からの二日酔いもあり、気を張ってなければ咽そうになるほどであった。
まずは、メンバー三人が揃ったところでビールとツマミを頼んだ。
酒飲みの方は共感してもらえると思うが、物凄い二日酔いでもビールを一口飲むと『あれ?なんかまた飲めるかも……』と思ってしまう。
『餃子』
“並べる気ゼロ”の餃子は、見た目と反して味は良い。やはり中華料理屋の餃子はどう転がってもうまいのだと再認識する。
『酢豚』
カリッカリに揚がった豚肉と、ざく切りピーマンの苦味、それを甘酸っぱくて少し辛い餡かけが全体を調和させる。
“甘味、酸味、塩味、苦味、うま味”の五味一体となった最強の料理。二日酔いだろうが、酢豚はどんな時でも裏切らない。
「あれ!?それ何食うてはりまんのどすえ!?」
京都・福知山弁でおなじみの、カリスマジュンヤが隣にいたカップルに話しかける。
毎度、彼の『思ったこと、感じたことをすぐ言うポリシー』はある意味さすがといったところだが、そのおかげで親切なカップルのご厚意で、メンバーに一口ずつラーメンをすすらせてもらえたのだ。
『特製満州王ラーメン(隣のカップルより)』
んまいっ!
カップル曰く、ここに来たら必ず注文するという一品。見た目に抵抗はあるものの、黒いスープはゴマを溶いたもので独特の香ばしさは確かにクセになる。
料理もうまかったし、これくらいで解散ならいいのだが……そんなワケにはならないのが酒場ナビ。
次に行く店は決めてなかった私たちは、『満州王』を出て近くの環状七号線沿いを、祭りの中心地である高円寺駅に向かって歩いた。
するとイカが「ここがええやん!!」と叫んだ。
『大公』
“また中華かよ!?”という私の問いも空しく、イカの「看板がかわいいやん」という理由で店へ入ることになった。
私たち以外に客はおらず、店主がひとりでノンビリとテレビを観ていた。阿波踊りで活気立つ高円寺駅前の喧騒とこの店は無縁のようだ。
二日酔いからのムカムカを抑えるため、『トマトハイ』を注文。
「ジュンちゃん、これみてみ!!」
「わーお!!お好みやないかい!!」
中華料理屋には珍しく『お好み焼き』がメニューにあった。
生粋の関西人であるイカとカリスマジュンヤは、”お好み焼き”というワードだけで熱狂し、「おっちゃん、ブタ玉ちょうだーい!」と誰もが想像する”関西人らしい注文文句”を披露してくれるのだ。
『お好み焼き(ブタ玉子)』
「ハッ!ハフッハフッ!ウマイッスね!」
「ハフッ!ホンマやッ!イケるやん!」
二人がむしゃぶりつく理由もわかる。生地のふんわり感、それに紅しょうがとキャベツが豚肉と相まり、頬張っている時だけ二日酔いを忘れるほどのうまさであった。
「ちょっと中華以外のとこ行こかー」
私は”まだ行くのかよ……”と思いつつも、二人の足は次の酒場へと歩き出していた為、付いて行くしかなかったのだ。
『パル商店街』や『純情商店街』などの阿波踊りメイン通りで、しばらく踊りを見物しながら屋台をつまむ。
その後『大和町商店街』という、祭りの開催地から少し外れた静かな商店街へと入った。
この商店街には私の酒場ナビ処女作でもある「民生食堂 天平」もあるのだが、この時間にはすでに閉まっていた。
「ここがええやん!!」
静かな商店街に、またもやイカの声が響く。
『灯火』
渋いっ!!
いつもはしっかりポーズを決めて撮る”暖簾引き“も、ここに関しては”ガチ店内確認”の為の”暖簾引き”をする。
どうやら営業をしているようだったので、入ってみることにした。
「いらっしゃ~いっ!」
店内は70年代アイドルの曲が大音量で流れており、カウンター奥の厨房には”個性的な雰囲気”の女将がひとりで迎えてくれた。
そう、その雰囲気はまるで……
「林家パー子やん!!」
慌ててカリスマジュンヤの口を塞ぐ。店内には大音量の音楽が流れていたため女将には聞こえていなかったようだが、私とイカはもはや女将を『パー子師匠』にしか見えなくなってしまった。
とは言ってもパー子師匠本人同様に、なんとも可愛らしい女将。早速、酒とつまみを注文する。
『チューハイ(濃い目)』
チューハイを頼んでレモンの輪切りがあるかないかで店の印象が大分変わる。かなり厚切りのレモンは、パー子師匠の人柄の良さを感じる。
『なす生姜ごま油炒め』
パー子師匠……いや、女将さんの”家庭の味”満載の一品。その町の片隅にある小さな酒場では、こういった”優しい味”に出会えるのだ。
「昔はねぇ、いつも奥の座敷までお客さんで埋まってたのよぉ~」
現在はもう座敷は使っておらず、カウンター数席と小さなテーブル席が二つだけ。
女将が一人で切り盛りしているのだが、自分の好きな植物を店内に飾ったり、好きな音楽をかけながら仕事する姿はとても楽しそうだった。
なんだか、最後にゆっくりと時代を感じる酒場を過ごせたなと思いきや、さらにもう一軒行くと言うイカとカリスマジュンヤ。
夜も深まり、高円寺に平静さが取り戻り始めた頃、二人が選んだ酒場とは……。
『福龍門』
中華やないかいっ!!
なんなら今日一番の”中華感”満載の店じゃねーかよ……。
もはや二人のネタ的選択なのか、酔っ払い過ぎて頭がおかしくなったのかは分からないが、ここまできたらこの二人に付き合うしかないのだった……。
祭りの余韻を楽しむため、あえて店の外にある席に座り、ビールで”喉洗い“をする。
ゆっくりするのも束の間、すぐにメニューを見たカリスマジュンヤ絶叫する。
「激辛麻婆豆腐があるるるぅっ!!」
辛いものが大好きで”超辛党”のカリスマジュンヤは、すぐさま外国人の店員を呼んだ。
「これどんだけ辛いんですか!?」
「アー、カラサ、エラベルネ」
「最高やないかい!!この店で一番辛い麻婆豆腐にしてや!!」
「スゴイ、カライネー、ダイジョブー?」
「OK!OK!!カラーッシャッシャッシャ!!」
もう彼は気が狂ったんじゃないかと思ったが、本当に狂っていたのはこの『麻婆豆腐』の方だった。
『麻婆豆腐』
辛アァァァァラァァァァァァッ!!
見た目は普通なのだが、さすがは店で一番辛いだけあり、その辛さは常軌を逸していた。
ただでさえ辛い物が苦手な私は、ひと舐めで速攻ダウン。イカやカリスマジュンヤでさえも口に入れる度、通行人が振り向く位に絶叫していた。
気づけば午前0時……いや、多分それくらい。
実はこの後、さらに数件はしご酒をしたのだが、『激辛麻婆豆腐』と極度の泥酔状態のおかげで写真はあってもエピソードの記憶が殆どないので割愛させていただく。
しかし凝りもせず、十数年もこの調子で祭りの二日間をはしご酒をしているのも、この『高円寺』という独特な町の『人』と『文化』があるからこそだと思う。
今年もまた、あの『雑貨屋』さんはフランクフルトを出すのだろう──
あの『不動産屋』の女の子も、またあの居酒屋の手伝いをするのだろう──
いつもの『ラーメン屋』さんの”屋台版ラーメン”、今年もうまいんだろう──
本場の徳島ではなく、ここでしか味わえない独特な阿波踊り祭り。まだ参加したことのない方は是非お勧めしたい。
……もちろん、”はしご酒”で。
今週末、2017年の『高円寺阿波踊り』も、もちろん酒場ナビは”はしご酒”です。
今年もまた乾杯しましょう。
高円寺阿波踊り(こうえんじあわおどり)
TEL: | - |
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営業時間: | 2017年8月26日・8月27日(17時~20時) |
定休日: | - |