大衆食堂のルーツ 高円寺「民生食堂 天平」
私は「食堂」が好きだ。
なぜなら食堂は呑み屋と違って大概、朝昼から営業していて酒を飲むことが出来るからだ。
食堂と言ってもただの食堂ではない。
正直、佇まい「9」の味「1」で構わない。接客だって、頼んで持ってきてくれるならそれでよし。
「朝食亭」というドラマを知っているだろうか。
ちょっと前に、なんとなく観た1話完結ドラマで内容は何でもない日常の話なのだが
この舞台となる食堂はかなり理想に近い。
何かしらの理由で、朝食を独りで食べないといけない老若男女が毎月いくらか払って
毎朝この食堂に集まり朝食を食べるだけの内容なのだか、本当に存在したら是非参加したい。
まぁ、この食堂は酒を絶対に飲ませないって設定なのだが。
民生食堂「天平」というところへ行ってきた。
「民生食堂」とはなんぞや。
調べてもらったら分かるが、食堂としては歴史があり、この名前を謳う食堂はもう殆どないらしい。
そんな食堂が、家の近所にあることを知ったのは今年のこと。
例の地震でよく潰れなかったなと思う佇まい。
「潰れなかったな」っていうのは経営としてではなく物理的にということだ。
梅雨時だっていうのに妙に快晴で茹るような暑さの中、
穴だらけの暖簾をくぐり、中へ入るとこの店にはおよそ似合わない若い女性が一人だけで定食を食べていた。
(え、うそだろ?)
と、思いつつもガラガラの店内の一番奥へと座る。
「何にします?」
かなりの高齢とみえる店主に注文を促され中瓶ビールを頼む。
すぐに、大きめのお盆でビールを持ってくる店主。
どうやらこの店は店主一人で切り盛りしているのだろう。
ビールはそんなに好きではないのだが、この暑さ。ぐいと一杯目を飲み干す。
「アジフライと肉じゃがを単品でください」
奥の厨房から中々出てこない店主へ身を乗り出して注文をする。
店主は「はい」とだけ言い作り始める。
しばらくして、
肉じゃががまた大きなお盆で届けられた。
お盆を使うほどの料理の量でも、距離でもないのに必ずこの大きなお盆で持ってくる。
しかもこのお盆、奥にストックが山ほどある。
「本当に熱いから器を触っちゃだめだよ」
と、言われても大きなお盆ごとテーブルに肉じゃがを置いてかれたので、そんな訳にはいかず、
お盆から出そうと触ってみると
なるほど、器はチンチンに熱されており一切触ることは出来なかった。
そういえば、実家で次の日に電子レンジで温められた肉じゃがも
こんな風に熱かったなぁと思い出しつつ食べる。
中々甘めの味付けでおいしい。
堅さも丁度よい。
続けてアジフライも揚がり、また大きなお盆で持ってくる。
見た感じのまま、色も味は少々濃いが
これはご飯と一緒なら丁度よいのかもしれない。
腹は満たしたのだが、もう一品ほど欲しいところ。
では定番のハムエッグを単品で頼んでみようと、また身を乗り出して店主に告げる。
そしてまたしばらくすると、店主自慢の大きなお盆でハムエッグを持ってくる。
店主よ、もう私のテーブルの上はお盆だらけなのだが。
残りの料理とビールを平らげ、さて出るかと腰を上げた瞬間、
何かが横切った。
目をやると、そこには首輪を付けた猫が一匹。
こんなに古い店、一人でずっと仕事してるなんてさみしいな、と思っていたが
どうやらそうでもなかったようだ。
そして、また穴だらけの暖簾をくぐり、店を後にした。
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【閉店】民生食堂 天平(てんぴょう)
住所: | 東京都中野区大和町3-10-14 |
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TEL: | 03-3337-2488 |
営業時間: | 11:00~20:40 |
定休日: | 金曜 |