西成「大寅食堂」関西ふしぎ発見!大阪の酒場ですごく気になること
「帰って来たでぇ……西成ェェェ」
2017年11月も終わろうとしている、ある早朝──
ここ、大阪府西成に酒場ナビメンバーのイカと、またもや訪れていた。
〝またもや〟というのは、昨年の2016年にもイカとこの西成に訪れているのだ。
その時に初めて『西成』という地区に訪れたのだが、秋田県という比較的温厚な地域出身の私は、当時、カルチャーショックと同時に剣呑を食わされたものだ。
『また今年も西成に行こや!』
今年の秋くらいであったか、そんなことをイカがぼんやりと言っていたのだが、気が付けば大阪行きのチケットを予約して、気が付けば西成にいたのだ。
〝いったい、今回はどんな出来事が……〟
そんな、諸般の思い入れのある町で、朝飲みをする為にまずはこの食堂へやってきた。
『大寅食堂』
ド派手な鮮黄色にして、浪速のシンボル球団の配色にして、その渋い暖簾は眠い早朝にチカチカと映える。
ガラガラガラッ
「二人いけまっかー!?」
引き戸を開け、いつもの大声と一緒に店へと入るイカ。それはこの大阪でももちろん変わらない。
「ここええよー」と店主がテーブルを拭きだす。
「ほんまやなぁ!」
「そらアカンでぇ!」
席に座るなり、客同士の『関西弁』の合唱が聞こえてくる。
東京に二十年いるイカも、普段から関西弁なのだが、やはり地元民は〝迫力〟がまったく違う。そういえば、私も秋田を離れて二十年経つが、たまに帰郷して秋田弁で喋っているつもりでも「それ、志村けんだから」と一蹴されるようになってしまった。
「なに食べはる?」
「ほな中瓶くれまっかー」
とはいえ、この大阪でのイカは、東側の人間の私にとっては外国旅行での〝通訳者〟であり、心強い〝添乗員〟と同じなのだ。
直ぐに届いた中瓶ビールを中年添乗員が注いでくれる。
冒頭に「帰って来た」と言っていたが、瓶ビールを注ぐイカの色褪せた肌色と表情、その風貌に思わず〝その言葉に偽りなし〟と頷いた。
〝酒ゴング〟を、久しぶりに訪れた西成へ捧ぎ、舌も〝大阪モード〟にするべく、例のモノを頼んだ。
『ホルモン煮込み(350円)』
出たっ!!
大阪のホルモン!!
豆知識……という程でもなく、大阪人なら誰もが知っていることなのかも知れないが、そもそもホルモンという言葉は『方言』だという話がある。昔の大阪では内臓肉のことを方言で〝放るもん(ほおるもん)〟すなわち〝捨てるもの〟と言われていて、その名残で『ほおるもん=ホルモン』と呼ばれるようになったらしい。
根本的に調理方法の歴史が違うのか、私も東京でも何軒かはホルモン煮込み、ホルモン焼きと書かれた酒場に行ったが、少なくとも大阪のホルモン煮込みとはまったくの別物である。
その違いは肉の〝扱い方〟である。東京でホルモンやモツの感想といえば『硬い』か『柔らかい』の二択だが、大阪では『柔らかい』の一択しかない。そんな扱いのいい柔肉に、階調のない鮮緑な難波葱のシャキリとした歯ざわりが合い、それに関西特有の甘じょっぱい味付けがなんともウマい。
〝じゃがバターウインナー〟
と聞いて、どうイメージするであろうか?
単に『じゃがバター』といったら、蒸かしたジャガイモからは湯気が上がり、イモの割れ目からはバターが蕩けているイメージなのだが、これにウインナーは……割れ目にでもブチ込むのか?……いや、そんなスケベなじゃがバターウインナーなどないだろう。
『じゃがバターウインナー(300円)』
そうくるかね!!
それは、ジャガイモの輪切りをウインナーというか『魚肉ソーセージ』の輪切りと一緒にバターで炒めるという、およそ想像もつかなかったものだった。「大阪でじゃがバターウインナーはこれが当たり前や!」と大阪の方に言われるかもしれないが、試しにイカに訊いても初めて見ると言っていたので一般的ではないのかもしれない。というか、私は38年間生きてきて、初めて見たどころか、初めての材料の組み合わせと調理法であった。
そんな生まれて初めて食べるじゃがバターウインナーは、ボリューム感満載のほくほくイモとソーセージをケチャップに付けて食べるのだが、ビールの後に頼んだ酎ハイの炭酸とはベストマッチ。私には目新しい不思議な料理だったが、お気に入りのおつまみが増えた。
「あー、天気よくてええわぁ」
11月の後半の早朝となればかなり寒いが、幸いにもこの日は見事な快晴で、暖かそうな日差しがゆっくりと店内に差し込んでくる。イカもそれを感じ取ってか、ぬる燗なんぞを頼みゆっくりと酒を楽しんでいるようだ。
活気ある大阪の街でも、こんな天気のよい朝は呑気に静かに……
「なんも釣れへんかったっ!!」
うわっ!!びっくりした!!
ガラガラガラッ!!と、入り口の引き戸を引くと同時に入ってきた男性客の大声が、ゆっくりとしたこの時間を打ち消した。
そしてその男性客は、右手に剥き出しの釣竿を握りながら、私の後ろのテーブルにドカりと座った。
「何食べるん?」
「刺身でメシ付けてやー、いやホンマ釣れんかったでぇー!!」
店主は特に驚いた様子もなく、まるでごくありふれた様に注文を訊く。どうやらこの男性客、釣りをしてきた帰りにここへ立ち寄ったらしい。
──ホルモンの歴史にじゃがバターウインナー。
今日も既に二つ、大阪の酒場に来ると、いつも何かしらの『発見』や『不思議』と遭遇するのだが……
東側の人間として、どうしても気になることを言わせて欲しい。
関西人は喋りながら店に入ってくるッ!!
これは、昨年の大阪酒場に来たときから思っていたことなのだが、この男性客のように、何か喋りながら店に入る客がとにかく多い。実は今回もこの後、数十件の大阪酒場を巡るのだが高確率でこれと同じ場面と出くわした。
「別にいいやん」と言われたらその通りなのだが……もちろん、ある程度は馴染みの店なのだろうが、店の中に誰がいるかわからないことに躊躇したりはしないのだろうか?と疑問に思うのだ……。
私なら、例えそれが自分の家だったとしても、そんな入り方はしないだろう……まあ、親が危篤だったとしたら……いや、それでも普通に入るか。
その男性客は、料理を食べながらも「なんも釣れへんかったっ!!」「体冷やしに行っただけやったで!!」と何度も店主に喋りながら十数分でそれを完食し、そしてまた右手に剥き出しの釣竿を握り、喋りながら店を出て行ったのだ。
……ここまでくると『不思議』でしかならない──いや、たまたまこういう客ばかりの店に居合わせているだけなのか……?
もはや、そのことばかりが気になってしょうがない私は、これもイカに訊いてみたのだ。
「別に普通やん!!」
と、この関西人は大声で言い、ぬる燗を飲んだ。
……そういや、
コイツもこの店に入ると同時に喋ってたな……。
大阪の呑兵衛のみなさま、
これって普通──?
参考文献: サカペディア「のれん大声」より
大寅食堂(だいとらしょくどう)
住所: | 大阪府大阪市西成区萩之茶屋1-6-16 |
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TEL: | 06-6631-0071 |
営業時間: | 5:00〜13:00 17:00〜21:00 |
定休日: | 不定休 (夜は 水曜 日曜 休み) |