「12月に大阪に飲み行かへん？」

 

唐突といえばイカ。
イカといえば唐突。

 

2016年の11月も終わり頃、イカから唐突にLINEが届いた。

 

大阪はかれこれ13年前に行ったきりだった。
その時は、当時付き合っていた彼女とUSJや通天閣、大阪城に上った後は海遊館でデートしたり……。昔、そんな事をイカに言ったら「お前、アホちゃうか」と何故か言われた記憶がある。

まぁいつかは大阪に詳しい人とも行ってみたいと思っていたのでイカと急遽、『大阪酒場めぐり』をすることにした。

 

 

 

 

 

数週間後──。

 

 

 

朝9:00。
私とイカは大阪・難波にいた。

 

久しぶりにみる大阪の町並み。
子供の頃、”大阪人は全員そろばんを持って歩いている”と聞いたことがあったが、今のところ2人しか見かけていない。

 

しかし”食い倒れ”とはよく言ったもの。
こんな時間からも酒場を含む多くの飲食店が営業している。たこ焼きやお好み焼きをはじめ多くの食べ物が溢れ、どれもこれも美味そうだ。

しかも今回は大阪に詳しいイカも同行してるので、どんなおいしい店を紹介してくれるのかと期待に胸が膨らむ。

 

 

 

 

 

 

 

難波から散策すること40分ほど経った頃──。

 

「ちょっとスーパーに行くで」

「え？スーパー？」

 

イカが街を案内してくれたのだが、結局どこの店にも寄らず、突如、スーパーに行くと言い出した。
辺りを見ると、どうやらここは”西成”という地域のようだ。

スーパーって……何か飲み物でも買うのだろうか。初めて訪れる町だったので、すべてをイカに任せるしかなかった。

 

 

 

「ここやで」

「え……？パチンコ屋じゃん」

 

 

 

『パーラー出玉』

 

もとい、『スーパー玉出』

 

外観、ネーミングからしても完全にパチンコ屋にしか見えないが、歴としたスーパーマーケットらしい。
しかし、ただのスーパーマーケットがいくら何でも派手過ぎやしないか。薄暗い商店街だけに余計に目立つ。

 

「ここで惣菜買ってくで～」

「惣菜？なんで？」

「まぁ、ええからええから」

 

何故か謎のパチンコ屋……いや、スーパーで惣菜を買うことになった。
うーむ、もしかしたらこのスーパーのたこ焼きとかが地元では評判だから……とか？

 

 

店の中もこれまた派手。
まあ、派手なだけで他はどこにでもあるような感じの──……。

 

 

 

「えっ！？」

 

久しぶりに声が出て驚いた。

 

 

 

 

 

 

なんだこの値段は……！？

 

 

 

「ち、ち、ちょっと！！みてこの値段！！」

 

 

 

「ん？　ちょっと高いかぁ？」

 

逆、逆！

どんな価格設定なんだこのスーパーは？殆どの惣菜が百円以下か百数十円だった。ここだけまるで東南アジアの物価の様だ。

 

 

 

「よっしゃ！ワイが寿司奢ったるでぇ！」

 

奢るって、4貫で100円じゃねえか。
100円回転寿司でも2貫なのに……。

 

 

 

 

 

『542円』

 

ワンカップ2つと惣菜3つの合計金額である。
というか、一体こんなものを買ってどうするつもりなのか。

 

 

 

「ほな……公園にいこか」

 

公園……？。

まあ、難波駅からここまで何も食べてないし、”公園飲み”も嫌いじゃないからいいのだが。

 

 

 

＊＊＊＊

 

 

 

暫く歩いていると、大通りに面した大きなパチンコ屋があり、そのパチンコ屋の横にある小道へと入った。

 

 

「うわ、なんかここの道汚くない？」

「……味論、ここからあまりキョロキョロしたらアカンで」

 

あの”大声のイカ”がとんでもなく小声で呟いた。
そして、何故かこのイカからは”緊張感”を感じる。

ただ、”大阪の公園で酒を飲みながら安い惣菜食べました”っていう記事を書くんじゃないのか……？

 

 

 

（……ここ曲がったらその公園があんねん）

「えっ？何？」

（声でかいんじゃアホ！）

 

 

 

周りを見ると、新宿西口公園にも沢山いる”特殊先輩“が大勢いた。

そして謎の作業着を着た集団がゴミの回収ボックスの様な物を引きずって道を歩いている。

 

「え？何ここ？」

「……」

イカは無言のまま、目の前に見えてきた公園へと入った。

 

 

 

 

 

 

『萩之茶屋南公園』

 

そこは通称”三角公園”という場所だった。

13年前にも”三角公園”に行ってたこ焼きを食べたが、こんなところではなかったはず……。

それどころかこの公園は、何十……いや、何百人と”特殊先輩”が住むまるで小さな町のようだった。

 

 

 

（そこの空いてる席で飲もうや）

 

“席”ってどこだよ。
ただの公園の地ベタじゃないのか？

 

妙な緊張感のまま、私達は地面に惣菜を広げ、大阪に来て初の乾杯をするのだ。
勿論、周りからは完全に奇異の目で見られる……いや、お互いに奇異の目で見ていた。

 

 

 

 

（あ！見てみ、これタコさんウインナーやん！）

 

イカは酒場ナビでシリーズを作るほど”タコさんウインナー”が好きだ。理由は”かわいいから”だそうだ。（タコさんウインナー巡礼 残り83軒）

そんなことより、さっきから私の目の前を、まるでゾンビのような歩き方の”特殊先輩”が”何度も行き来しているシリーズ”が始まりそうだ。

 

 

 

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（この人らも、色々な事情でここに来たんやろなぁ……）

 

と、遠い目をして酒を啜るイカ。

この時は、まったく何も知らずにここへ連れてこられたが、後日いろいろと調べてみると”とんでもない地域”だったことに肝を抜かれた。
しかしある意味、この”特殊先輩”の本当の”後輩”にならないように”日々生きる”ということ考えさせられる経験をした気がしないでもない。

 

 

 

 

（あんな薄い上着で寒くないんやろか……？）

 

確かに、そんな高くもない私達の上着が高級毛皮コートに見えるほど、中には薄着の先輩がいる。

 

 

 

 

（見てみ味論、　あのおっちゃん、左右の靴バラバラやでぇ……）

イカが哀しい目で見つめ……

 

 

 

 

お前もやん！！