そこにあったか!我らが〝使い勝手のいい〟酒場たち
先日の記事で〝ボルシチ〟で一杯飲りたいということを書いた矢先、彼の〝某国〟が、この現代において他国へ侵略などという、時代遅れも甚だしい暴挙に出た。
思えば私の地元の秋田県沿岸部は、その某国と姉妹都市になるほど親しい存在で、町には当たり前に某国人が居た。美男美女ばかり、気さくで明るい人ばかりだったのに、これではイメージダウンだ。某国の大将は、過去に秋田犬をプレゼントして喜ぶような好好爺だったのに、いつからこんな好き勝手で自分勝手な爺さんになってしまったのか……あまり言い過ぎると、このサイトにサイバー攻撃をされるかもしれないので、この辺で止めておこう。
勝手といえば〝使い勝手のいい〟酒場っていうのをよくSNSで目にするが、私はこの表現があまり好きではない。まぁ、身近で愛されている意味を込めてなのかもしれないが、酒場に対して軽々しくて、ちょっと失礼な気がする。
なんかもっとこう、しっくりする言葉があると思うのだが……
この日は、吉祥寺で酒場を探していた。〝まん防〟が始まったり、延長したり……何だかよく分からん日々が続いている。やっと終了したと思って酒場へと行ってみれば、どこも大混雑。まぁ、呑兵衛の考えることは同じということだ。
何軒か回ってみたが、やはり入ることができない。さて困ったが……ふふん、ここは私のホームグラウンドの吉祥寺じゃないか。新コロが始まる前から、私には〝あの酒場〟が付いている。
それは『ハモニカ横丁』にある。新宿の『思い出横丁』にも似た闇市跡の飲み屋街に、こちらは学生の街らしく、お洒落な酒場が目立つ。
その一角に『美舟』があるのだ。パッと見では、ごく普通の赤ちょうちん。ここは吉祥寺に詳しいという人でも、実は知らないという人が結構いる。その理由に、店の入りづらさがある。
戸を引くと、数人だけ座れるカウンターのみ。店内は薄暗く、大抵は常連先輩ら数人でしっぽり飲っている。「あっ、どうも……」と思わず尻込みしてしまうが、この酒場の真骨頂は〝二階席〟にある。マスターに「上にどうぞ」と言われて、二階へと進む。
「ほんとに、ここで合ってる……?」と、不安になってくる狭い階段を登っていくと、そこには──
渋広いっ!! あの入口からは想像もできないような、広い畳張り席があるのだ。私はこの二階席がほんとうに大好きで……斜めの煤けた天井、茶色い換気扇、そして謎の木彫り仕切り板がタマランのである。
緑の折り畳みテーブルに座ると、なんとなく斜めになっている。それこそ同じく吉祥寺にある、建て替え前の『いせや 公園店』を感じさせる。これだよこれ、素晴らしい!
ベタベタと張り付けられた、紙の統一性ゼロ、好き勝手、自由に張り付けられた壁メニュー。いつも来るたびに、どれにしようかとワクワクさせてくれる。
ここでいつも始めるのが、芋焼酎のお湯割りだ。まるで、自宅で適当なグラスに淹れて飲むような、そんなユルさがいい。
ユルッ……イモッ……ユルッ……、ぱぁぁぁぁちょうどいいぃぃ! テーブルの肘掛け高さもドンピシャだ。さーて、今日の料理は何からいこうか。
元々『つぶ貝刺し』は好物だが、ここのつぶ貝でうれしいのが〝肝〟をしっかり添えてくれるところだ。ブリュンパリュンの肝を醤油に溶かし、そこへツヤツヤなつぶ貝をネトリと付けてひと口──うんまっ!
コリシコのつぶ貝に、肝の苦みがマリアージュ。やっぱりね、肝は嘘をつかない。
それと『キムチチャーハン』がお気に入りだ。キムチでザっと炒めたライスに、玉子焼きの掛布団がオムライス風でうれしい、そしておいしい。洋食のようで中華でもなく、キムチでもチャーハンでも、もちろんオムライスでもないこの独特なB級飯感が舌に心地よい。
しばらくすると客で埋まってきたが、そのほとんどが学生グループだ。ただ皆、ここではバカ騒ぎなどはしない。若者の心にも、どこか勝手のいい、落ち着きの良さを感じているからかもしれない。
必ず〝珍味メニュー〟を頼むことを忘れないで欲しい。〝オーストラリア産〟のカンガルーの唐揚げなんて、ネーミングセンス抜群だ。どうやって仕入れているのか、気になってしょうがない。その珍味の中で、いつも頼んでいるのが……
『ぽこ天』だ!
すばらしい……こんな下品なジョークが大好物だ。肌色のソーセージの先に衣で〝頭〟を模り、それを輪切りにしたソーセージで挟んで〝玉〟を形成。最後にカイワレ大根で〝毛〟まで表現するこだわり。連れてきた女子に「キャー!」と何度か叫ばれたことがあるが、実は味の方も結構イケるのだ。甘めの衣とソーセージがいいバランスで、軽く塩を振りかけるととてもにおいしい。色物としてだけではなく、しっかり食えるところがヤラシイねぇ。
「ぽこ天、ヤバくね?」
クスクスと、隣の学生らの視線がはずかしい。でも……酒場で、こんなバカバカしいことで、ずっと笑っていたい。もう何度ここへ訪れたか覚えていないが、いつだってこの〝ユルさ〟がこの酒場の魅力なのだ。
「あっ……そういうことか」
気軽に入れて、何でもあって、我が家のような居心地さ……もはや、この表現しかない。ここはまさに〝使い勝手のいい〟酒場だったのだ。その〝勝手〟の意味には敬意しかなく、そんな酒場を持っているということは、呑兵衛としてとても幸せなことだろう。
だから誠に勝手ながら、これからはここを〝使い勝手のいい酒場〟と呼ばせてていただこう。
あとは好き勝手や自分勝手のない、みんなで仲良く酒が飲める、平和な世界であるようにと願うばかりだ。
美舟(みふね)
住所: | 東京都武蔵野市吉祥寺本町1-1-2 |
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TEL: | 042-221-1460 |
営業時間: | 17:00~翌0:30 |
定休日: | 無休 |