
餃子を一度も成功させたことのない男が夢中で食らう!中目黒「味の宝来」のパーフェクト餃子
自分で言うのものなんだが、世の中のある程度のことは〝それっぽくする〟自信がある。その作業工程を見聞きしていると、なんとなーくそれらしく仕上げることができるのだ。ポイントを掴むのが得意というか……例えば普段の仕事。もともとパソコンすら持ってなかった私は、なぜかガッツリパソコン知識が必要な職に就くのだが、当時はインターネットすら開き方が分からなかった。それからパソコンの構造を理解し、ネットワークやアプリの使い方を憶えて、今ではサーバー設置からプログラミング、SEOやインサイト管理までが出来るようになった。
他にも、絵を書いたりDIYをしたり、実はスポーツも得意。広く浅くではあるが〝それっぽいモノ〟に仕上げられる自信がある。
ただひとつ、料理に関しては、まったく上手くできない。理由は大体わかっている。そもそもの根底に〝料理なんか食えりゃいい〟があるからだ。よくそれで〝味論〟なんて名前を謳ってるなと言われそうだが、これがまたややこしくて、食べたものの味わいを表現することは〝それっぽく〟出来るのだ。
焼いたり、茹でたり、味付けしたりの調理センスがまったくない……特に『焼き餃子』だ。スーパーで100円くらいで売ってる生餃子ってあるでしょう? あれ、見つけるたびに買っては「今日こそキレイに焼き上げる!」と意気込んで、これまで800皿分くらいグチャグチャにしている。毎回「なんだこれ!?」と発狂し、ただの一度も上手く焼き上げたことがないのだ。それでもやはり〝食えりゃいい〟なのだが、こいつに関しては〝いつかは上手くできる〟という謎の自信があり、その度に悔しい思いをする。
餃子で悔しい思いをすると、後日必ず町中華へ訪れることにしている。
その日もフライパンにガチガチに焦げ目を付けて、ビリビリに皮の破けた焼き餃子らしき残骸を食べて悔しい思いをした。数日後、辛抱たまらず中目黒のとある町中華へ行くことにした。
狙うはもちろん焼き餃子で、その鬱憤を晴らすべく前から目を付けていた人気店である。
出たっ、『味の宝来』だ! 赤いレンガ調の外壁と雷紋が入った赤いテント屋根には店名が黄色で大書されている。店先の立て看板と赤ちょうちんが、中目黒の街の雰囲気といい意味で反比例している。噂によると、芸能人のファンも多いという、さすがは成り上がりの街。
店に入った目の前で、もしも吉岡里穂がラーメンをすすっていたりしたら、それこそ焼き餃子のことなんて一瞬で忘れてしまいそうだが……いろいろな期待を込めて、暖簾をくぐろう。
「いらっしゃーい」
おほっ、まさしく町中華! 脂の染み込んだ壁や天井、花柄のビニールクロスが敷かれたテーブル。カウンターには数人の客が丸椅子に座って飲っている。うふっ、うれしい光景ですねえ。
空いていた二人掛け席に座り、しばし店の雰囲気を堪能していると……
「餃子、今ちょうど焼き始めますけど?」
女将さんのひとりが、当たり前のように餃子を催促してきた。いいですねえ、これはまさしく餃子に自信がある証拠。もちろんお願いすると同時に、その〝相方〟もお願いした。
結局、瓶ビールが一番似合う〝ステージ〟は町中華なのだ。フル規格の大瓶の重みを腕に感じつつ、グラスに黄金を注ぐ。
ぐびりっ……ぐびりっ……ぐびりっ……、冷たくておいひぃ! グラスから雫をポタポタ垂らしながら飲む酒の旨さよ、完全に町中華の喉に仕上がった。
ビールのオマケの『冷奴ニラ』がまたおいしい。ねっとりとしたニラ漬けは、見た目よりかなり塩っぱい。ただ、それは絹豆腐とまざるとちょうどいい塩梅になる。これのおかわりが出来るものなら、すぐにでもお願いしたい。
やってきました『焼き餃子』! いや、もうね、見た目が素晴らしい! ムチムチに膨れた皮は均一に、そして完璧な焦げ目模様で、もはや芸術の域だ。甘さも含まれた湯気の香りもたまらない。
これを赤坂『珉珉』と角野卓造が広めたという〝酢コショウ〟でいただく。コショウは『天下一品』アンバサダーのSUGIZO兄さん風に言わせてもらうと〝バシがけ〟で。
うま──いっ! これですよ、これこれ! ムチムチの皮を破ると中からは大量の肉汁が溢れて、口の中が旨味と熱さの溺れそうだ。ピリリと効いた酢コショウが正解で、ひと口するたびに幸せな気持ちになる。
「いらっしゃいませ~」
「ありがとうございま~す」
おそらく、店先には結構な人数か並んでいるのだろう、満席になっては客が瞬時に入れ替わる。こういうときは「早く選手交代してあげなきゃ」とは思うが、いかんせん、まだまだこの店を堪能し足りないのだ。
メニューを見て「これは絶対!」と決めていた『茄子牛挽肉辛煮』がやってきた。テリテリの餡が天井の蛍光灯の光を反射させる、おいしい湯気の香りを放っている。なんちゅう、旨そうなビジュアルをしているのか。
レンゲでドップリとすくい上げ、火傷なんかは気にせずガブリ──うまいっ! ジュルジュクのナスとプリコリな牛挽肉が、濃い味でトロトロの餡と完璧にペアリングしている。名前通りちょっと辛く、じんわりと全体を辛さが包み上げている。
この店で一番人気という『モヤシソバ』もいってみよう。正直いってもやしのラーメンなんて舐めていたし、頼もうと思ったこともなかった。茶色の脂鏡に麺肌が美しいのは分かるが、予想通りシンプルだ。はたして本当においしいのか……
う・ま・い!! スゲーうめえ、なんだこれは一体……! 麺にはトロリとしたスープが絡み、それがまたちょうどいい絡み具合。コクたっぷりのスープがツルシコの麺と絡み合い、時折もやしが食感にアクセントを加える。えー、もやしのラーメンがこんなに旨いことってあるのか?……ドラゴンボールのOP曲より摩訶不思議。
正直に言えば、夢中で食べている時はすっかりと焼き餃子のことを忘れていた。
〝大満足〟のひと言に尽きる。先日グチャグチャに失敗した餃子は、これで成仏したのだろう。いや、成仏だけではなく、新たに冷奴ニラや茄子牛挽肉辛煮というおいしさにも出逢うことが出来た。
モヤシソバなんか家でも作ってみよう。おそらく、失敗するのだろうがいいじゃないか。またここへくればいいのだから。
味の宝来(あじのほうらい)
住所: | 東京都目黒区中目黒1-4-18 |
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TEL: | 03-3791-7057 |
営業時間: | 月・火・木・金・土 12:00 - 14:30×18:00 - 22:30 日 12:00 - 21:00 |
定休日: | 水・祝日 |