江古田「てんほう」男なら立って食え!!江古田天ぷらの新常識
ご無沙汰となっている『メンバーに行って欲しい酒場』シリーズに、久しぶりに着手するきっかけとなったのが、とあるインスタグラムのフォロワーさんであった。
〝男苦手〟の私が個人インスタグラムで唯一、フォローしている男性のアカウントなのだが、この方の投稿で〝この人、この店に住んでるんじゃないだろうか?〟と思うくらいに投稿の多い酒場があるのだ。
もちろんその酒場は、『みんなの行って欲しい酒場』でも確認できるので紹介する。
店名『てんほう』
小さな小さな立飲みカウンターの『天麩羅屋さん』です。
ビルの老朽化で、残り8ヶ月で移転と聴いてます。
100円~の天麩羅は、注文を受けてから揚げるのでサクサクで美味しいですよ。
おすすめは『舌平目』 を酎ハイで流し込む!たけらら♂ さん
かなり前から依頼をいただいているのだが、なかなか『江古田』という土地に訪れる機会がなく、だいぶ時間が経ってしまっていたのだが、この方のインスタグラムから伝わる余り有る『てんほう』という酒場への愛に心打たれ、単独訪問することにしたのだ。
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『てんほう』
出たっ!
その酒場は池袋駅から電車で数分の『江古田駅』から目と鼻の先にあり、店の近くまで来ると揚げ油のいい香りがこんもりと漂ってきた。
一見、ただの天ぷら屋のようだが、特筆すべきは『立ち飲み』であり、それはまるで江戸時代の〔立ち食い天ぷら〕を思わせるかのような庶民派スタイルなのだ。
「いらっしゃいませ」
店内は極小L字カウンターのみで、立ち飲めても5、6人くらいの広さであった。客は男性が二人、カウンターの内側にはには若い店員さんが二人で切り盛りしている。
……どうでもいい事だが、白衣の店員さんは『武豊』に激似である。
さっそく天ぷらを揚げてもらう……その前に、まずは依頼者から別途で伺っていたおすすめの酒を注文する。
『酎ハイ』と『カットレモン』
ンま酸っぱいっ!!
依頼者によると、プレーン酎ハイに別途で注文したカットレモンを絞るのがおすすめだという。自分の好きなレモン濃度にして酎ハイを飲む事ができるのだが、私は絶対に酎ハイにはレモンを絞りたいタイプなのでこれは嬉しい。
さらにカットレモンもビッグサイズで絞りがいがある。
そしてここで主役の『天ぷら』……ではなく、酒場M男である私は〔舌焦らし〕の為にまずは『煮込み』を注文する。我が卑しき発情舌を、そう簡単に悦ばせないのも酒呑みのテクンニックなのだ。
『牛の八丁味噌煮込み』
今さっき〝そう簡単に舌を悦ばせない〟と発言していたのだが……その蕩けるような牛肉の舌触りに、どろり濃厚な甘辛い八丁味噌が『発言撤回』を要求してくるので、酒場M男である私は承知せざるを得ない。まさか天ぷら屋の煮込みがこんなに凝っているとは……。
さらに嬉しいのは〔量の丁度よさ〕だ。ひとりで訪れることの多い立ち飲みでは、料理の量バランスも重要なポイントだ。
先日、とあるオープンしたばかりの立ち飲み屋に行ったのだが、値段こそ安いが料理の量が尋常じゃないほど少なく、一瞬〔インコのエサ〕かと見紛うほどだった。
「ナスとエビの天ぷらくださいっ!」
遂に、主役である天ぷらを注文する。依頼文に『舌平目』がおすすめとあったが、残念ながらこのときはなかったので次回にチャレンジ。
じュォわァァァッ!!
と、『武豊』がナスとエビを目の前のフライヤーにディープインパクトさせる。泡でブクブク鳴っている音と揚姿を観ながら飲む酎ハイは、それはそれは格別である。
『ナスとエビ』
揚げたて0.3秒の天ぷらなど、前歯に触れるか触れないかで〝カリッ〟と意図せずとも〔クリスピー音〕が鳴り、その音は嚥下を待ちわびるように奥歯に響き、口蓋垂に打つかって落下、食道をトップスピードで通過した後に胃全体を突如として振るわせる。
驚いた胃に間髪を入れず待ち受けるのは、ナスのモシュっとした独特の食べ味にある〔ナス揚衣〕の香ばしい風味と、それらをしっとりと抱擁する天つゆの甘み……そして、立て続けに太エビのブリュンとした身とその甲殻類特有の濃い味が、幸福ならぬ〔幸腹〕をもたらすのだ。
たまに自分でいっちょまえに天ぷらなんぞを揚げてみるものの、その下手糞な出来上がりに、一瞬〔ウ○コなエサ〕かと見紛うほどだ。
『紅しょうが・春菊のかき揚げ』
ナスとエビのウマさに思わず五体投地した私は、食べている間に天ぷらでは特に大好物である『紅しょうが』と『春菊』のかき揚げを注文していたのだ。
紅しょうがのかき揚げは、紅しょうが一本一本とかき揚げの繊維が複雑に絡み合った、それはまるで美しいペルシャ絨毯模様のようで、口に入れるとその繊維がハラリラリハと解け、口に広がる──その渾然一体感がたまらない。本場関西の紅しょうがを丸ごと揚げたものも好きなのだが、やはり千切り状態の紅しょうがのかき揚げも捨てがたい。
春菊もやはり衣とは仲良しこよし、春菊のほろ苦さがカリッカリッとした衣の食感と〝旨が合う〟。
さらに持ち前の《酒場閃力》を使い、先ほどの煮込みの残り牛汁をかき揚げで拭って口へ放り込めば、一瞬、眩暈がするほどのウマさなのである。
『バイスサワー』
天ぷら達のウマさに推され、残っていた酎ハイが底を突いたため、これも依頼者のおすすめであるバイスサワーを注文。また、さらに持ち前の《酒場閃力》で、酎ハイで使っていたレモンを全投入。これをすることでバイスの酸味がよりフルーティーになるのだ。
爽やかなバイスのナイスな酸味に、思わず〔どっしり〕したアテが食べたいと催し、最後にこいつを注文した。
『豚の角煮』
ブッタァァンまいっ!!
おそれ入谷の鬼子母神、当たり前だが角煮が不味いということはありえない。もしも不味かったとしたら、それは作ってくれた料理人、あるいは嫁や彼女がお前のことを嫌いだからワザとそう作っているのだと〔酒場の神様〕が夢枕で仰っていた。
さらに、この角煮を〔育てられた〕天ぷらつゆへ潜らせることで、天ぷら屋ならではの特別な角煮として楽しむこともできるのだ。
「会計してー」
「はい! ありがとうございました!」
しばらく残っている役者たちで愉しんでいると、先にいた男性客二人が会計をして帰り、私と店員さんたち三人のみの、ゆっくりとした時間が訪れた。
新旧ランダムなJ-POPが流れる店内で、
カシャカシャと食器を洗う音、
天つゆを補充する作業風景──
後壁にもたれかかりながら、ほろ酔い気分で想う。
〝いやー、いいところ教えてもらったな〟
〝……そういや、今日は普通に呑んでるだけか〟
〝客もいないし、店員さんに話でも振ってみるか──〟
いや……
たまにはこの雰囲気だけを楽しんでおこう──というか、このマッタリ空間を揺さぶるのは勿体ない。
すっかりここを気に入ってしまった私は、ここを『メンバーに行って欲しい酒場』で紹介しなければならないことを忘れ、悠長に──そして優遊と酒を飲むのだった。
たまには、酒場で〔何も起こらなかった〕酒場ナビの記事ってのもいいだろう……いや、
なんなら、誰にも教えないで、このまま私だけの秘密酒場にし──
ボンッ!!
ぬわ──っ!?
え!? 真っ暗!?
「お客さんすいませ~ん! ブレーカー落ちちゃいました~」
……やはりだ、
やはり〔何も起こらなかった〕は、酒場ナビでは起こらないという宿命なのである──
『たけらら♂』さん、ご依頼ありがとうございました!!
因みに……
2018年1月28日を以て、〔移転〕されたとのこと。
移転先、移転日が分かる方がいらっしゃいましたら一報ください。
『メンバーに行って欲しい酒場』の依頼はこちら。
【移転】てんほう(てんほう)
住所: | 東京都練馬区旭丘1-76-8 |
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TEL: | - |
営業時間: | 12:00~14:30 17:00~23:00 |
定休日: | 無休 |