新宿「番番」新宿三大酒場 その1
「リュウジン さくら通りの番番って店ええらしいで」
リュウジンというのは僕のこと
「今度行こうや リュウジン」
17年前に僕を番番に誘ってくれたのは
当時お笑いコンビを組んでいた
相方のタケちゃんだ
二人で上京してきて
お互い高円寺に住んで(本当は野方だが)
お互い新宿でバイトをしていた
ネタ作りや打ち合わせは
どちらかの家でやっていたが
時々はバイトの終わりの時間を合わせ
新宿の居酒屋で飲みながらやることもあった
「タケちゃん なんか怖ない?」
番番を前にして僕はビビっていた
なぜなら場所は歌舞伎町
そして雑居ビルの地下である
「大丈夫や いくぞリュウジン」
上京したての田舎モノ二人は
ちょっとドキドキしながら階段を下りていった
「うわぁ めっちゃええ雰囲気やん・・・」
変形コの字カウンターだけの客席だが
集客力は凄い
オジサマ達がギチギチにひしめき合い
30人ぐらいは座ってるだろうか
「わぁ 全員足したら2000歳超えるなぁ」
などと言いながら二人はカウンターに座り
安い250円のチューハイをすすり
旨い100円のもつ焼きをツマんだ
「ここええなぁ・・・」
二人は一晩で番番の虜になり
頻繁に通うようになった
新宿でライブがあれば
終わりでこのカウンターで
「今日はウケたなぁ」
「エンディングもっと前出なアカンなぁ」
「あのキャラやり続けたら浸透すると思うねん」
など反省会や作戦会議と称して
安いチューハイをすすった
安いといっても金のない若手芸人
もつ焼きは4.5種類頼み
大将の
「何本ずつにするー?」
の問いに
「1本ずつで・・・」
とお願いし
串から外してひと皿を
二人でチビチビつまみ
チューハイ4杯分ぐらい
もたせる
のが僕らの飲り方だった
時には
「あそこでネタ飛ばすなやっ!!」
「何やねん フォローしてくれてもええやんけっ!!」
と
笑顔のない日もあったが
番番のカウンターは
そんな二人をどっしり見守ってくれていた
解散を決めたのも番番だった・・・
「もう俺続けていかれへんわ」
「ホンマやな ボタンの掛け違いやな」
あんなに仲の良かった二人はいつのまにか
変な感じ
になっていた・・・
騒がしい歌舞伎町の
賑やかな居酒屋で
一組のお笑いコンビの夢がひっそりと終を告げた
あれから10数年・・・
先日
久々にタケちゃんと番番で飲んだ
タケちゃんはお笑いの世界を辞め今は別の仕事をしている
共通の知り合いが多いので
時々酒の席で一緒にはなるが
サシで飲むのは何年ぶりだろうか
番番でとなると
あの解散した日以来だ
もつ焼きを注文すると
大将が聞いてきた
「何本ずつにするー?」
僕は咄嗟に
「2本ずつでっ!!」
と言ってしまった
別にあの頃より財布に余裕があるという理由ではない
ただあの一皿を二人でつつく感じが
照れくさかったからだ
お互いの現状の話
将来の展望の話
あの頃より少し年をとった二人は
番番を楽しんだ
隣の50歳同士ぐらいのカップルが絡んでくる
「お兄ちゃん達 聞いてよ コイツ全然やらしてくんないんだよ」
「アタシ抱く気だったら もっといい店連れていけよー」
流石番番
いい意味で下品だ・・・
タケちゃんは
「お姉サマ ポケモンやってます? あそこのホテル街レアキャラいますよ」
いいパスを出していた
気づくと・・・
僕のジョッキには7枚のレモンスライスが重なっていた
このカウンターは覚えていてくれているだろうか・・・
かつてここに
夢と自信しかなく ギラギラした二人がいたことを
思い通りにいかず 悔し涙を流していた二人がいたことを
夢を諦める理由を探し始めた二人がいたことを
二人の解散の原因は僕に理由が多かった
酔いの勢いに任せ
まだ言えてなかった事をタケちゃんに伝えた
「タケちゃん・・・ ホンマあの時ゴメンな・・・」
タケちゃんは
「ホンマやで・・・ 勝手にやる気なくしやがって・・・」
そして僕から視線を外しこう呟いた
「まぁ 生まれ変わってお笑いやるとしてもリュウジンと組むけどな」
「番番」
新宿三大酒場の一つにさせて頂きます
残り二つは近日中に・・・
番番(ばんばん)
住所: | 東京都新宿区歌舞伎町1-16-12 梅谷ビル B1F |
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TEL: | 03-3200-9354 |
営業時間: | 17:00~23:45 |
定休日: | 無休 |