和泉大宮「山長酒店」岸和田中年愚連呑み
「おい もう一匹どないしたんや 一番アホみたいなゴンタ」
「あん」
「しゃーけど みんな仲ようせなアカンで」
「なんじゃ」
「仲ようなって はよこの街出て行きさらせ」
「ほな はよ豚玉もってこい!!」
「やいやい言いな」
「おばはん ケンカ売っとんのか!!」
「売っとんで」
「殺すぞ!!」
「殺してんか 待っとるで」
「豚玉待っとんじゃ ワシらー!!」
これは
映画 岸和田少年愚連隊での
セリフのやり取りの一部だ
場所は
お好み焼き屋さん
ヤンキーと
お好み焼き屋のおばちゃんとの会話だ
ヤンキー同士のやり取りなら
わからなくもないが
還暦ぐらいのおばちゃんが
出て行きさらせ
殺してんか
と 普通に放つなんて
恐ろしい
相当ガラの悪い
街なんやろな・・・
岸和田って・・・
寺地町からチン電で浜寺に行き
南海本線に乗り換え
岸和田の一つ手前
和泉大宮にやってきた
駅名標に岸和田の文字・・・
住所的にもここは岸和田市・・・
来てしまった・・・
岸和田・・・
怖い・・・
ふと見ると
ホームで
学ランの荒々しい若者が
殴り合いをして・・・
なんてことはなく
人も少なく
静かな駅だ
ただ油断してはいけない
ボコボコにされて帰ってきた息子に
母親が
「明日早起きて行き 寝ぼけてるとこ ねろたったらええやん」
と 仇討ちのアドバイスをする街だ
寝ぼけていてはいけない・・・
無事に改札を
抜けることは出来たが
安心するなかれ
通りすがりの中学生に
「おのれは裸で街歩けや ヤマザルー!!」
と カマされるかもしれない・・・
鉄板の入った学生鞄を持った中学生に
いきなり頭をシバかれ
「どう? たまらんやろ なんか喋れやー!!」
なんて言われるかもしれない・・・
お目当ての店までの
道のりが長い・・・
ビビってキョロキョロしながら歩いているので
なおさらだ・・・
駅から歩くこと15分・・・
あれは・・・?
出たっ!!
山長酒店
緑に青文字で書かれた
屋号が美しい
ただ・・・
街のイメージを
意識しすぎか
並んだ横書きの日本酒の名前を
縦に見てしまい
夜露死苦 鬼魔愚零 仏恥義理
のような
ヤンキー四字熟語と錯覚させられる・・・
中はどんな感じなのだろう・・・
強面の先輩方が
大声で酒盛りをしているのだろうか・・・
いや なんなら中学生が
スケ番の女の子をはべらせながら
学ランのまま呑っているのではなかろうか・・・
失禁寸前の状態で
暖簾を押した・・・
入った瞬間
目があった青年に
「おいコラ ポケットモンキー!!」
と
叫ばれることはなく
店内にお客さんはいない・・・
J字カウンターが
でん
と 構え
反対側に
ちょいとした立ち呑みテーブルがある
ビールケースで作ったテーブルが
いい味出している
「いらっしゃーい」
優しい口調の
お母サマが奥から出てこられた
いや・・・
騙されてはいけない・・・
なんせ岸和田のお母サマだ・・・
「サボテン育てられるもんならなぁ 育ててみいやー!!」
と いきなり
植木鉢を頭から落とされ
半死半生のメに合わされるかもしれない・・・
気をつけなければ・・・
お母サマに背を向けぬよう
警戒しながら
冷蔵庫までやってきて
中から発泡酒を取り出す
ビクビクを隠すかのように
キューっと一息
あっ・・・
めちゃめちゃ旨い・・・
よく考えたら
灼熱の太陽の中
長々歩いてきたもんな・・・
暑さからの汗と
冷や汗を
随分かいていたのだろう
グリーンラベルが体に染み渡る・・・
「なんかツマむかぁ?」
お母サマがやはり
優しい口調で聞いてこられる
「あっ はみ どうしいてませうかしらはっ」
ビクつきながら
久々に口を開いたので
噛みカミだ・・・
厨房の冷蔵庫には
冷奴や明太子などの
ちょっとしたおツマミが入っている
おっ
ポールウインナーもちゃんとある
むむっ
ホワイトボードのメニューが気になる
せっかくだったら
手作りのモノを
「・・・すいません ・・・ハムカツと豚平焼き下さい」
「ハムカツと豚平な すぐ作るなぁ~」
お母サマ・・・
怖くないなぁ・・・
お母サマが
揚がったハムカツを
盛り付けて下さる
「ケチャップとソースかけとくかぁ~?」
「あっ お願いします」
うわっ!!
デカいっ!!
写真じゃわかりづらいが
ボリューム満点だ
どうしよう・・・
ボリュームがあるのに何故
どうしよう
かというと
この前に
で 沢山食べてきて
正直お腹がいっぱいだ
この後
豚平焼きが来る・・・
食べきれないかもしれない・・・
サカバーとして
おツマミを残すことなんて出来るはずもない・・・
かと言って
今 豚平焼きを断ったら
お母サマに
「なに吐いた唾 飲み込んどんねん」
と ドスを利かされるかもしれない・・・
の
どうしようだ
「お母さん・・・ 食べ切られへんかもしれへん・・・ 豚平焼きキャンセルできますか・・・?」
足を震わせなから
言ってみた
「かめへんでぇ~ ウチのんデカいからなぁ~」
お母サマ
怖くないなぁ・・・
「あの・・・ お母さんって岸和田でお生まれになったんですか?」
やんわりお母サマに聞いてみた
「ちゃうで~ 伊丹やねん」
「おっ 清酒発祥の地と呼ばれる伊丹ですね」
「奈良もそうやっていうてるけどな」
「そうなんですか」
「まぁ どっちゃでもええけどな~」
「伊丹から岸和田に嫁いできた感じですか?」
「せやねん」
「怖くなかったですか?」
「言葉がちょっとな~」
「お客さん同士のケンカとかあったんですか?」
「あれへんあれへん 皆ココでは仲ようしてはった」
「そうなんですね」
「そういや あの子もよう来てたで」
「あの子・・・?」
「愚連隊書いた子や なんていうたかなぁ~」
「中場利一さんですか?」
「せやせや」
「怖い人でしたか?」
「優しい子やったで~ ココでは」
「ココでは・・・?」
「まぁ よそではヤンチャしてたみたいやで」
「やっぱり・・・」
「お母さん 岸和田好きですか?」
「せやなぁ もう50年ぐらいここおるからなぁ」
「50年 すごいですね」
「もう ココが故郷みたいになってるな~ 好きな街や」
「お母サマ ココお一人でやられてるんですか?」
「息子が手伝ってくれてなぁ」
「そうなんですか」
「うん・・・ 好きな街やな・・・」
なんだか・・・
僕は岸和田を誤解していたみたいだ・・・
そろそろ
お暇しようとしてる
その時
「ただいまぁ」
息子さんと思われる
男性の方が入って来られた
「お兄ちゃん ここら辺の人ちゃうやろ」
息子さんも
優しそうだ・・・
「はい 東京から来ました」
「わざわざかいな!! またなんでや?」
「酒場ナビっていうサイトやってまして」
「ほうほう じゃあウチの店 書いてくれるんかいな」
「いいですか?」
「モチロンや ワイも出してえや」
「じゃあ お写真いいでしょうか?」
「おおっ こんなことやったら散髪しとったらよかったわぁ」
僕は・・・
勇気を出して・・・
ツッコんでみた・・・
「いや ハゲとるやないかーーい!!」
シバかれるのか・・・
いや
殺されるのか・・・
息子さんは・・・
「ガハハッ そう言うて欲しかったんやー」
岸和田・・・
優しい街だ・・・
見上げると
幾人もの
えべっさんが微笑んでくれていた
山長酒店(やまちょうさけてん)
住所: | 大阪府岸和田市岸野町19-10 |
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TEL: | 072-439-9475 |
営業時間: | 7:30~20:00 |
定休日: | - |