三ノ輪「森島屋」これが45歳独身男のクリスマスイブひとり呑みだっ!!
今宵世間はクリスマスイブですって・・・?
あっしには関わりのねえこって
ってなもんは
そんなイベントなんかに
自分を見失うことなく
流されることなく
ただただ一人で呑み歩くだけよ
寂しくなんか・・・
ないやい
何かから逃げるように
やってきたのは三ノ輪
昭和感バキバキの商店街
ジョイフル三ノ輪
を通り過ぎたところにある・・・
持ち帰り専門の煮込み屋
田川商店で・・・
煮込みを頂戴し・・・
ジョイフルの片隅で
それをツマミながら
缶ビールをあおる
最高だ・・・
至福だ・・・
幸せだ・・・
幸せなのか・・・?
本当に幸せか・・・?
うん 幸せだっ!!
と 自分に言い聞かせ
お目当ての酒場へ歩みを進める
チン電の
荒川区役所前駅のほうに
足を延ばし
たどり着いたのが・・・
森島屋
これで
本当に寒さが凌げてるのだろうか
と思わされるほどの
軽そうな扉
入り口のサイズからして
幅もうちょっとあってもええんちゃう?
と思わされる
小さな暖簾
僕が
来たくて来たくて堪らなかったが
何回かフラれている
いわゆる
だ
開いてて良かった
見上げると
奥様公認の店
とのキャッチコピー
いいですねぇ・・・
中に入ると
優しい店主さんが
いらっしゃるんだろうな・・・
現時点で
マスターのにこやかな顔が
想像できる
奥様などいない
45歳独身の僕だが
暖かく迎えて頂けるだろう
酒・ビール
の部分の暖簾をたぐり
カラカラと扉を引いた
渋い・・・
カウンターの奥に
こたつがある・・・
小上がりなのか
住居スペースなのか
判別がつかない
テーブル席も
二つほどある
先客様はご夫婦だろうか・・・?
クリスマスイブに森島屋・・・
お二人・・・
マジリスペクトっす!!
おっ!!
やかんストーブ発見っ!!
この側が
酒場アリーナだろう・・・
カウンターの一番手前に
腰を下ろした
「いらっしゃい 寒い中どうもね」
わぁ
いかにも想像通りの
優しそうなマスター
「いらっしゃい 何呑まれます?」
わぁ
穏やかな女将さん
ストーブのおかげではない
温もりを感じる
うん
幸せだ
歩いたので
もうちょい欲する
瓶ビールを頂戴した
ビールと焼酎の無関係な
ってのがまたいい
いや
麦でつながっているか・・・
お通しのラッキョを
かじりながら
やおら品書きを眺める
もつ焼き屋さんとかではなく
お魚が美味しいお店か
HO!!
鍋もHO富
イブに一人鍋も悪くない
まぁ
でも一旦・・・
海苔チーズを
チョイスしてみる
この簡単な一品が
好きでして・・・
あっ
味付け海苔でやんすか
しょっぱさが際立って
進ませる
ヤツだ
静かな店内に
僕が海苔をかじる音が響く
そう・・・
静かなのだ
そして
マスターも女将さんも先客様も
クリスマスの
ク
の字も発さない
只々
いつもの冬の日がここにあるだけ
なんて嬉しい静けさなのでしょう
今日の僕には癒される
が・・・
いきなり店が急変した
「すんまそーーん おじゃまするでがんすよーー」
年の頃なら
75ぐらいの女性が
大声を放ちながら入ってこられた
す・・ すんまそん・・・?
令和に・・・?
久々に聞いた・・・
お前に言われなかったら一生思い出すことなかったわ 何?
っていう大喜利の答えやん・・・
がんすよて・・・
僕はとっさに
その女性のほうに目をやってしまった
女性は僕と目が合うなり仰った
「おっ 兄ちゃんクリスマスイブに一人なのかい 可哀そうにねぇ」
「いきなりっすかっ!!」
逃避していたところを
現実に戻された・・・
酔いも覚める・・・
ボールをお願いし仕切り直し
と思いきや
女性の勢いが収まらない
「上着が脱げない脱げないよー お兄ちゃんっ!!」
「はいっ!!」
「脱がすの手伝ってーーー」
「はいっ!!」
まさか
聖なる夜に
初対面の老婆の服を脱がすとは
思いもしなかった
ミックスフライを頂いて
仕切り直し
ただ
老婆が喋る喋る
「お兄ちゃん アタシでも出来る運動ってあるかい?」
「ラジオ体操とかどうですか」
「ダメダメーーー」
「駄目じゃないでしょ」
「アタシの友達 みんなラジオ体操始めたら死んじゃったもーん」
「いや 原因それじゃないでしょ」
「お兄ちゃん こないだも同じこと言ってたよーー」
「初対面ですよっ!!」
「アタシ ご飯の支度嫌いなのよー」
「そうなんですか」
「だから お餅ばっかり焼いて食べてるのー」
「お餅ですか・・・」
「アンタ 今 喉に詰まれーーー って思ってたでしょーー」
「なんも言うてませんやんっ!!」
気付くと
あの静かだった森島屋は
影も形もなくなっていた
でも
マスターも女将さんも先客様も
みんな笑顔だ
もちろん僕も
帰り際老婆に
「また呑もうね」
と 一言頂いた
嬉しかった
その言葉が
なぜか胸に沁みすぎた
もう
こういうタイプの
サンタさんもいるとは
知らなかったな
森島屋(もりしまや)
住所: | 東京都荒川区荒川1-21-12 |
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TEL: | 03-3801-0093 |
定休日: | 日曜日 |