福島のイメージって何?私はこの酒場でひっくり返った!郡山「居酒屋 安兵衛」
誤解がないように……いいですか、福島の方々。これは私の〝勝手なイメージ〟であることを、先ずはご理解してから聞いてください。実は私……ずーっと〝福島といえばコレ〟というイメージがなかったんですよ。いやいやいや、だから私の勝手なイメージなんですって。
だってね、同じ東北だったら青森はリンゴや魚介類、秋田は米や日本酒、岩手はブランド牛や冷麺、宮城は牛タンやフカヒレ、山形は蕎麦や果物がスッと浮かんぶんですよ。じゃあ福島といったら……『赤ベコ』しか浮かんでこないんです……もちろん!私の無知というのもありますよ。
あと、超個人的な理由になってしまいますが……18歳の頃、秋田から上京してきた時に、たまたま三人の福島出身者に出会ったんです。その方々のね、あの……〝素行〟が非常に悪うございまして、当時の私には壊滅的な印象でした。たまたま、運悪くそういう人らに出会っただけのことなんですが……ただですね、イメージというのは覆らない限り、どうしてもそのままになってしまいがちじゃないですか。
その素行が悪い方々の出身が、これまた全員が郡山出身でしてね。まぁ何十年も前の話ですが、その後は不思議と郡山出身の方とは出会っていません。そう、だから何となくイメージが悪いままになっちゃってるんですよ。それもあって出会いでも旅でも、どこかでちょっと福島を避けていたところはあったかもしれません……いや、正直ありましたが、今年の夏の甲子園での『聖光学院』による活躍や、あとはやはり行ったことのない土地での酒場には、どうしても行ってみたかったんです。
背に腹は代えられない……いや、酒場に酒場は代えられないとでも言いましょうか、先の会津若松の次に、件の郡山に訪れたわけです。
時刻は夕方の五時。郡山の酒場でネット検索をすると、かなりの確率でこの『居酒屋 安兵衛』の名が挙がってきた。口開けと共に入ろうと店先で待ち構えていると、かなり若い男子店員が声をかけてきた。
「予約ですか?」
「あっ、予約じゃないんですけど……イケますか?」
ちょっぴり〝ヤンチャ〟な雰囲気も感じなくないイケメン。昔の料亭っぽさもある店構えからして、てっきり大将と女将さんが恭しくやっている店かと思っていたが……
「他の予約があって、一時間くらいだけでよろしければ」
「お願いします!」
酒場での長っ尻は、私の酒場精神に反するのでちょうどいい。鶯色の綺麗な暖簾を引いて中へと入った。
「いらっしゃいませー!」
おっおっおっ、中は私の大好きな民芸風! 細長く続く店内にはカウンターが並び、奥にはテーブル席がりが数台。どうやら二階席もあるようだ。
ただ、ふつうの民芸風とはちょっと様子が違う。古時計や煤けた柱、壁や天井に混ざり、いたるところに若い女子が描いたであろうイラスト付きのポップメニュー、ミニ四駆が並ぶディスプレイなどが交じり合っているのだ。不思議な酒場だなぁと、カウンターに落ち着いた。
「瓶ビール、おまたせしました~」
やたら若い店員が多いなとは思っていたが、多いなどころかほとんどが学生くらいの男女で店を回している。古い店内を二十代前半くらいの男女が、かいがいしく働く姿がおじさんは大好きだ。
トットットッ……ゴクゴクゴク……、ん──とウマいべよっ! ビールのイメージだけは全国共通、老若男女も育ちも方言も関係なし。さーてと、メニューを取ろうとすると、目の前に小鉢が置かれた。
「こちら福島の郷土料理、いか人参のお通しです」
若男子が丁寧に説明してくれたのが、福島の郷土料理『いか人参』だ。失礼ながら……福島にこんな郷土料理があったとは。見た目はそのまんま、いかと人参を細切りにしたものだったが、これがベラボウにウマかった。
出汁の沁みたいかが、シャッキチャキの人参とよく合う。これは間違いなく人参がおいしいのだ。素材の味を完全に理解して作られている料理である。普段はあまり人参を食べないが、これだったら全ての酒場のお通しにして欲しいくらいだ。
続いても初めて目にする『キャベツ餅』だ。キャベツと言いつつ、他に大ぶりのブロッコリーと人参がたっぷりのベジタボリューミーな一品。餡のコーティングが艶めかしい。
こいつもうんめぇぞ! モッチモチの餅と一緒に、鮮度抜群の野菜陣が丁度良く歯ごたえを愉しませてくれる。キャベツは甘味が強く、ブロッコリーからは旨味すら感じる。餡かけは決してそれらを邪魔しない程度に、あっさりと全体をまとめてくれる。
ここであることに気が付いた。『いか人参』の人参といい、もしかして福島って実は〝野菜がおいしい〟ところのかもしれない。メニューを読み返しても、野菜を推している料理が多いのだ。
「こちら、よろしければ……」
今度は若女子が、徳利を差し出してきた。『ふくしまの酒 飲んで応援』という地元酒蔵と酒場の企画で、徳利の日本酒を問答無用で一杯頂けるという神企画。三つ返事で一杯いただくことに。あっ、そういえば福島には『飛露喜』、『写楽』、『廣戸川』なんていう銘酒がそろっている。米という名の野菜も、福島は有名じゃないか。
喉の気分を良くして、続いては『会津地鶏ムネモモ食べ比べ』をいただく。「鉄板で焼いたので、かなり熱いです」と若女子が注意するように、肉からはムンムンの湯気が上がる。
ハフッ、ハフッ、アチチッ……うんまっ!
ムネ肉はぎゅっと締まった身が、旨味と共にホロホロと解ける食感がいい。パリッと焼きあがった皮おいしいモモ肉は、香ばしいに風味と今度は柔らかい身がとろりと交じり合う逸品。これは甲乙つけがたい食べ比べだ。さらに普通は〝下敷き〟でしかないサニーレタスも、下敷きとは思えないポテンシャルで相当ウマい。全部食べてしまった。
〝贅沢〟とは一体なんぞや?と『贅沢ピザ』が届いてみてなるほどビックリ、野菜の贅沢だったのだ。ナス、キノコ、あとは何だろう、見たこともないような野菜がピザ生地の上にてんこ盛りだ。
糸引きたっぷりのチーズを頬張る──うめぇぇぇぇっ!! カリっと、シナっと、ジュワッと……色々な野菜の食感が口の中で大忙しだ。なるほど、色々な食感を楽しめるから〝贅沢〟なのか。ピザでは主役の濃厚なチーズの味にだって、まったく劣っていない野菜の凄さ。メニューを読み返してみると、ここで働く若い男女店員たちが自分たちで作った畑の野菜だという。そんな愛着がある野菜、ウマいに決まっているじゃないか……!
「こんばんは~」
「おー、来たか!」
店に入ってくる客も、やはり若者が多めだ。おそらく若店員の友人もよく来るのだろう、そのやり取りが見ていて気持ちがいい。客と店員の繋がりが深い酒場なのだろうな……バイトの若者が気怠そうに働いている店ではなく、若者たちがみんなで盛り上げているのが伝わってくる。18歳の私が出会った頃の若者と、ちょうど一緒くらいの年齢の子たちだ。あの時、この子たちと出会っていたら……福島のイメージはだいぶ変わっていたに違いない。
イメージが変わったといえば、この『塩トマトサワー』である。私の知っているトマトサワーは、焼酎をカゴメジュースで割ったものだ。しかし、ここは酎ハイにミニトマトをグラスに浮かべ、マルガリータの様にフチに塩を擦り付けた、まったくの別物だった。
「トマトは凍っているので、溶かして食べてみてくださいね」
と若女子が言うので、一粒食べてみると……甘っっっっま!!トマトはトマトでも、フルーツトマトだ! カキンカキンに凍ったトマトを氷代わりにして、それをカジリながら酎ハイを飲ませる……なんという野菜を感じさせるトマトサワーだ。何しろトマトそのものがウマい。これはもう、この酒場でしか味わうことはできない特別なトマトサワーだ。
トマトを含め、ここの野菜の一部は店の畑や地元の農業学校で取れたものだそうだ。おそらく、この店員さんの中にも卒業生がいるのだろう、私も農業高校出身なので特に親近感を感じてうれしくなる。
もうこれは確信だ。世間からしたらとっくに知られている事実なのかもしれないが、福島って野菜がめちゃめちゃウマい場所だったのだ。
「ありがとうございました!」
店先まで見送ってくれる若男子。ここのトマトサワーの様に、最後まで爽やかで居心地が好い酒場だった。なにより、酒場から出てきて〝酒を飲んだ感〟はいくらでもあるが、〝野菜を食った感〟を感じるのはここぐらいだろう。
おいおい……イメージと全然違うじゃないか!
何が言いたいかと申しますと、福島……いや、特に郡山のみなさま、大変失礼いたしました。福島のイメージが『赤ベコ』だけだなんて、誠に申し訳ございませんでした。これから福島といえば〝野菜がおいしい、好青年が多い〟というイメージを持たせていただきます。
居酒屋 安兵衛(やすべえ)
住所: | 福島県郡山市大町1-3-12 |
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TEL: | 024-933-9326 |
営業時間: | 17:00~00:00 |
定休日: | 男前に年中無休!(社内イベント時は除く) |