【妄想酒場】板橋「やきとん赤尾」先輩女性はバイスサワー

 

たまに『バーチャルデート』なる記事を書いている。

酒場ナビメンバーと”酒場で仮想デート”をしたらこんな感じ、といった具合で実際にある酒場を絡めたフィクション作品を書いているのだ。

私個人は、かなり楽しんで書けるテーマなのだが、今回は私の”理想的酒場デート”を妄想チックに書き上げてみたので是非ご覧頂きたい。

 

では早速どうぞ。

 

 

 


 

 

 

 

 

入社して1年。

俺には苦手な先輩がいる。3年上の同じ営業部署の女社員だ。

いつも何かと仕事のやり方にケチをつけてくるし、ちょっとでもミスをしようもんなら大声で怒鳴られる。

俺だって一生懸命やってるのに、なんだってあんなのと同じ部署なんだよ。

 

ただ……、悔しいことにスゲー美人なんだよなぁ。

 

そういえば、何度か帰り際に他の部署の男から飲みの誘いを目撃したこともあったけど、そのまま飲みに行ったりするのか?

 

いや、まさかな。

“クール”っていえばクールだが、ありゃただの”陰湿口悪女”だろ。

 

そうだ思い出した。
俺たちの新人歓迎会でさえ顔を出さなかったような、仕事以外は超不愛想な女だった。

 

 

 

・・・

 

 

 

12月末――。

 

夕方、年末だったにも関わらず今日は仕事が早く片付いて帰りの準備をしていると、オフィスの入り口から慌ただしい声が聞こえてきた。

なんだか嫌な予感がする……。

 

「ちょっと味論!!どこ!?」

「あ……、ここです、なんスか…、」

「”なんスか”じゃないわよ!!アンタ植村商事の本部長に見積書送ってないじゃない!!」

「え……、あ!! え!?……、今日!?」

 

嫌な予感は的中した。見積書の発送を別の案件の期日と間違えていたのだった。

 

「あ、あ、あの俺今から持って…、」

「本部長カンカンよ!! あたしも行くから早く用意しな!!」

「は、はい……!」

 

 

 

12月の日の入りは早い。

植村商事のある『板橋駅』に行くタクシーへ乗り込む頃には、辺りは真っ暗になっていた。

先方の会社に向かう車中も、先輩に『この仕事を貰うのにどれだけ苦労したか』とか『ひたすら謝り続けろ』だの、ここ最近で一番の叱責を浴びせ続けられた。

 

 

 

・・・

 

 

 

言われた通り、俺は本部長に謝り倒した。

横にいた先輩も一緒になって謝ってくれた甲斐もあってか、幸いなことに今回は大事に至ることはなかった。

 

……なんだかんだで俺のミスをかばって一緒に謝りに行ってくれたりと、はじめて頼りになる先輩なんだなと思いながら植村商事を後にした。

 

 

 

「先輩!ありがとうございました!」

「……次はないからな」

「はいっ!本当にすいませんでした……!」

「じゃ、あたしタクシーで帰るから」

 

時計を見るとは19時を過ぎていた。

緊張も解かれ、どっと疲れた俺は電車で帰るためにひとり板橋駅へ向かった。

……が、歩き出して間もなく、背後から声をかけられた。

 

 

 

「ちょっと」

 

振り向くと、少し離れたところで先輩が立っていた。

 

「あれ?タクシーで帰るんじゃなかったんスかー?」

 

駅の明かりを背景に、冬の澄んだ空気ではっきりと浮かび上がる先輩のシルエットは、いつにも増して端麗に見えた。

 

「アンタ、なんか用事あんの?」

「いや…、帰るだけですけど」

「じゃあ、一杯付き合って」

 

 

 

『意外』

 

ただ、この言葉だけが頭に浮かび上がった。

あの”陰湿口悪女”が飲みに誘ってくるなんて、初めては勿論、意外そのものでしかなかったのだ。

 

「はい、えっと……、奢りっスか?(笑)」

「は?何言ってんの」

 

動揺なのか、好奇心なのか、よくわからない返事で先輩の後を追い板橋の灯かりへと向かった。

 

 

 

「先輩、この町に詳しいんですか?」

「大学が板橋だったから。今でもたまに来るのよ」

 

そう言って、慣れた足取りで一軒の店の暖簾を潜る先輩に追って入る。

 

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『喜多八』

 

 

 

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「そういえばアンタお酒飲めるの?」

 

二階の座敷席へ座り、コートを脱ぎながら先輩が言った。
他に客がいなかったのもあり、狭い部屋に先輩とふたりっきりなんて変に緊張する。

 

「俺、めちゃめちゃ酒好きですよ。」

「ふーん、なに飲むの」

「じゃあ……、ホッピーにします!」

「おっさんくさい」

 

そう言って先輩は仕事と同様、手際よく飲み物と料理を注文してくれた。

 

 

 

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「てか、先輩のその赤い酒なんスか?」

「ザクロサワー」

 

“ザクロ”っていう言葉が先輩のイメージに合い過ぎて、妙に笑えるのを堪えた。

 

 

 

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『シロタレ』

先輩が当たり前の様に注文していたのがこれ。
大ぶりの身に隅々まで染み込んだ甘いタレが超うまい。

 

 

 

「すいません、”アレ”ありますか」

 

さらに先輩が店員にそう注文すると、程なくしてその”アレ”が届いた。

 

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『レバ』と『ハツ』

 

うまいっ!

 

と、俺が言う前に先輩が無表情で言った。

特にこの『レバ』は只者ではない。
レア状態の肉は、以前『レバ刺し』で提供していた時のと同じ物らしい。口に入れて噛むたびに、あの大好きだった”レバ刺し”の味が蘇り、思わず俺も顔がほころぶ。

 

そんな俺の顔を見てか、「フッ」と先輩も少しだけ表情を崩してグラスを口づけた。

 

「あのー、先輩っていつもこんなとこ来て飲むんスか?」

「まあ、割と一人で来るかも」

「でも先輩ならモテるから、結構飲みに誘われるんじゃないですか~?」

「別に。 アンタこそどうなの」

「はい?」

「彼女とか、恋人とかいないの?」

 

「……え?」

「厚揚げおまたせでーす」

 

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思わず聞き返したと同時に『厚揚げ』が届いた。店員が厨房に戻っていく十数秒の間、テーブルは無音に包まれる。

さすがに失礼だが、”この人でも恋愛的なことを口にするんだ……”という驚きと、さらにそれが自分に対してだったということに、なんというか……、ちょっとだけ嬉しさの様なものを感じていた。

 

「あの…、えっと、彼女いないスよ」

「そう、 あたしと同じね」

「え……、あー、先輩も恋人いないんですか……」

 

 

 

なーんだこの感じ……。

だって、こいつはあの”陰湿口悪女”だろ?

いや違う違う、そんなんじゃねーって。

 

「……あ、先輩、来週出す企画書のことスけど」

「うん」

 

不本意にも”意識”してしまった事をはぐらかすかのように、しばらく大してしたくもない仕事の話で酒を繋げた。

 

 

 

・・・

 

 

 

「そろそろ出るよ」

「あ、はい」

 

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一時間ほど仕事の話で場を埋めたというべきか、店を出ることになった。

 

「いいわ、あたしがここ出しておくから」

「わ!ごちそうさまです!」

 

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このさり気なさ、

クソッ……、かっこいいじゃねえか。

 

「アンタ、まだ時間あるでしょ」

「え、あ、まあ……、」

「じゃあもう一軒」

 

 

 

 

 

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『やきとん 赤尾』

 

 

細長いカウンター席の奥の席に並んで座った。

混んでいるから仕方がないが……、今の俺がこんなに先輩と近くに座ったら、またおかしな感情で出てきてしまいそうで怖い……。

 

「アンタ、なに飲むの」

「えーと……」

 

俺はあまり近づきすぎないように、メニュー表を持つ先輩の手の間から、ちょっと遠目で酒を選んだ。

 

 

 

 

 

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『シャリキンのトマト割り』

“シャリキン”とは焼酎の『キンミヤ』を凍らせてシャーベット状にしたものだ。最近になってこの”シャリキン割り”を出す店も増えてきたが俺はこいつが大好きだ。

 

 

 

「あれ?先輩また赤い酒ッスね」

「たしかに」

 

今度は焼酎を”梅しそ味ジュース”で割った『バイスサワー』。それこそ下町の大衆酒場のおっさんが飲むような酒をさり気なく飲む先輩。

 

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『塩辛』と『上タン』

 

うまいっ!

 

と、またもや俺が言う前に先輩が無表情で言った。

自家製であろう『塩辛』の”ワタ”の苦味。そして『上タン』の甘肉とネギのマッチングは、すっきりした『バイスサワー』や『トマト割り』にはピッタリだ。

 

 

 

 

 

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「きれい……」

 

「え?」

「バイスサワーの色」

「ああ……、そうッスね」

 

店内の明かりを反射させ、赤く光るバイスサワー。

それを見つめる先輩の頬は、ほんの僅かに赤く染まっている。

 

 

 

あれ、

こりゃ、いよいよ先輩に魅せられてるっぽい……。

そんな事を意識のどこかでぼんやりと考えていると、無駄におしゃべりになる。

 

「先輩って、その……、美人なのになんで彼氏作らないんですか?」

「さあね、男が見る目ないんじゃない」

「もったいないよなぁ~、仕事だってスゲー出来…、」

「じゃあアンタがなってみる?」

「え?」

「彼氏」

「……は、」

 

 

 

時が止まる。

 

この瞬間、俺の中での先輩は、遂にただの”陰湿口悪女”ではなくなってしまった。悔しいとかそんな感情はもういい。先輩のその言葉で、俺の中の”何か”が完璧にイカれてしまったのだ。

 

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「冗談だけど」

「は……、ああ、 そうですよね」

「アンタみたいな仕事出来ない年下男なんかと付き合ったらこっちが大変だわ」

「ははは……」

「でも」

 

グサリときたが、まあそりゃそうだ。

男ってのはすぐに勘違いしやがる。

会社イチオシのキャリアウーマンと、ミスばっかの新人社員なんかじゃ―…、

 

「でも、あたしくらいじゃない? アンタの相手できるのって」

 

「…………え?」

「すいません、お会計してください」

 

 

 

……聞き間違い、だったのか。

呆然と、先輩が会計をしている様子を見ていたがすぐに我に返り、フッと店の喧騒が耳に戻ってきた。

先輩は少し急ぎながら、そして何も言わずに会計を済まし店を出て行った。

 

何となく、俺はわざと少し遅れて店を出た。

 

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「……あの先輩、今日はごちそうさまでした」

「……うん、おつかれ」

 

 

 

コートのポケットに手を入れ、ふわりと長い髪を広げ、先輩は今度こそタクシー乗り場へと向かっていった。

 

 

 

俺は少しずつ遠ざかっていく先輩の長い後ろ髪を見て、思った。

 

明日から、また単なる”先輩”と”後輩”っていう関係に戻っちまう……。

 

いつからか、この夜が途方もなく特別な時間に思えた俺は、あと少しだけ、まだ先輩と一緒にいたいという気持ちを抑えることが出来なかった。

 

 

 

「あ……、先輩!」

「ん」

 

先輩は、マフラーに沈めた顔を少しだけこっちに向けた。

 

 

 

「あ、あの、まだ時間ありますか?」

「……うん、ちょっとなら」

「あの……、もう一軒だけ飲みに行きませんか!?」

 

 

 

「…………奢り?(笑)」

 

 

 

マフラーで口元は隠れていたが、きっと今夜はじめて見せてくれた先輩の笑顔。

何だか久しぶりに再会したような気分で俺も笑顔になり、また板橋の町へ、ほんの少しだけ近づいた二つの影が戻る。

 

・・・

 

 

 

 

 

入社して1年。

俺には気になる先輩ができた。

見た目はきれいだけど、中身は”酸っぱい”ような”甘い”ような……、まるでバイスサワーのような――

 

 

 

 

 


 

いかがであったろうか。

あくまで私の『理想』的『妄想』のフィクションであることをご理解頂きたい。
それを踏まえて、私がかなりの『M』であったことに自分でも今更気づき”驚愕”している。

まぁ、たまにこんな妄想をしながら酒場を楽しむのもオススメだ。

 

 

 

因みに相手役の女性は、私の記事にもよく登場して頂いている酒場ガールなので、イメージだけは物足りないという方はどうぞ。(Instagram)

 

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やきとん 赤尾(やきとん あかお)

ジャンル: 焼きとん、焼鳥、居酒屋
最寄り駅: 板橋駅から174m
住所: 東京都北区滝野川7-1-7 大沢ハイM 1F
TEL: 03-6903-7551
営業時間: [月~金] 17:00~23:30 [土・日・祝] 16:00~23:30
定休日: 月曜日

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投稿者プロフィール
2016-11-30-11-56-03
【出身地】
秋田県秋田市
【オススメの酒場】
信濃路(鴬谷)
【お気に入りの酒】
焼酎紅茶割り
【個人SNS】
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