川崎「島田屋」やきとん1本60円の店と『かなまら棒』の勃ち飲み屋
実はよく『川崎駅』を使ってたりする。
理由は、千葉方面に”釣り”へ行く時に一旦川崎駅で待ち合わせて、そこから友人の車でアクアライン経由で千葉へ向かうことが多いからである。
何年か前の深夜、フル装備の釣り道具を持って川崎駅で待ち合わせに行った時のこと。
川崎駅に到着して改札を抜けようとすると『Suica』のチャージ残高がなかったことに気づいた。釣り道具を少し離れたところに置き、精算機でチャージをして振り向くと釣り道具がまるごと消えていた。
「うわ!?盗まれた!?」
と慌てていると、すぐ近くでその日一緒に待ち合わせで来ていた釣り友が、私の釣り道具を抱えながらクスクスと笑っていた。
丁度、私を見かけた彼の単なるイタズラだったのだが、その数週間後、その釣り友は『リアル失踪』を果たし自分が消えてしまったのだった。未だに消息は不明である。
そんな微妙な思いでもあるこの川崎駅で今回待ち合わせをしている相手は、ご存知『酒場の”疾走”男』ことカリスマジュンヤである。
“川崎に行きたい店があるんで一緒に行って欲しいどすえ”
京都・福知山弁で”はんなり”とLINEが届き、急遽川崎駅に集合した私達は一路東へ向かった。
そして15分も歩いた頃、目的の酒場が見えてきた。
『島田屋』
看板が無ければ完全に一般家屋であるこの店構え。
しかし、その看板もよくみると『牛豚内臓卸・小売』とも記されており、色々と『酒場の時代経過』を想像させてくれる。
ふと入り口の横を見ると、団体の先輩達が宴をしていた。ここなど本当に”家の軒先”にしか見えないが、ここも店の一部なのだろうか……。
暖簾がなかったので”エア暖簾引き“をしてさっそく中へと入っていく。
店内はこじんまりとしていて、中々落ち着いた雰囲気。極端に”渋い”というわけではないのだが、開店の15時から30分も経っていないのにもう満席になっているという人気ぶり。なんなら外で数名が待ち始めている。
そんな人気の秘密は一体……
えっ!?60円!?
なんと、メニューを見ると『やきとん』が全部60円と破格。いや、やきとんだけではない。『煮込み』などの単品メニューも150円が殆どだったのだ。
「もうタダやん!くれや!」
さすがに60円という破格でも”くれる”ことはない『やきとん』と瓶ビールを注文し、カリスマジュンヤをなだめた。
瓶ビールを酌み交わしていると、『やきとん』はすぐに焼きあがった。
『やきとん』
わっ!!”ちゃんと”している!!
正直、60円の串などあまり期待してはいなかったが肉身もしっかりとあり、かつジューシ-でうまい。都心なら一本120円は取るであろう。
「ハフッ!ハッハフッ!60円でうま過ぎるやないかい!」
カリスマジュンヤもこれを気に入り、期待を込めて『煮込み』と『ミミさし』を追加注文。これもまた一瞬で料理が届く。とにかくこの店は酒も料理も出て来るのが速い。
『煮込み』
これも値段の割りに『嘘だろ!?』ってくらいに”ちゃんと”している。問題なく柔らかいモツは、味の濃さも丁度良く量も多い。300円取っても納得できるのにこれがたったの150円とは……。
『ミミさし』
一見、なんの料理かと思ったが、これは要するに『ミミガー』の刺身だ。普段食べているミミガーの味や歯ごたえとは少し違って、酢味噌とネギを絡めて食べるこのミミガーは”別物”の料理としてかなりうまかった。
このクオリティでこの価格。
表の看板にもあったが、他にここは”肉の卸売り”をしていて、それでこの品質が出せるのであろう。
魚屋でもそんな酒場があるが、やはり中卸を兼業してる酒場は色々な意味で強すぎる。
「川崎最高やないかい!!」
既にもう川崎という土地を気に入ったカリスマジュンヤ。こうなると次に出てくる言葉はこれだ。
「”立ち飲み”に行くしかないやん!」
すぐさま独自の酒場リストから立ち飲み屋を探し始めたカリスマジュンヤ。
「近くに立ち飲み屋あったやん!」と突然立ち上がり、やきとんを咥えて店を飛び出して行ったので勘定は私が払っておいた。
『島田』
……あれ!?
さっきの『島田屋』と同じ名前だ。というか、このビル自体が『島田ビル』となっている。
まぁ偶然か……と不思議に思いつつも立ち飲み屋を目の前にカリスマジュンヤは、まるで散歩に連れてってもらう直前の犬の様に居ても立ってもいられない様子だった。
「こんちゃ~ッス!!」
入ってすぐ目の前に壁がある!?というほど店内は狭く、立ち飲みでもせいぜい5、6人くらいが限界じゃないかと思える内観。
不思議な構造をしてるカウンターの奥から、女将さんがひょっこり出てきた。
「これなんて飲み物なんすか!?」
カリスマジュンヤが指を差す方を女将と私がみると、壁に張られたメニューで『梅酢サワー』と書かれていた。
寡黙そうな女将が言う。
「梅酢(バイス)サワーだよ」
「あっ!?バイスサワーやんか!漢字でこう書くんや!」
「……」
全くの無表情な女将。
これはもしや……『ツンデレ』じゃないのか!?
いつものことだが、ツンデレとなると即座に『対・ツンデレモード』になるのが酒場ナビメンバー。
カリスマジュンヤはそのまま『梅酢サワー』を頼み、私も様子をみるために変わった飲み物を選んで対処してみる。
「女将さん、この”陶陶酒”って何ですか?」
「……薬膳酒みたいな、わたしもよくわからないね」
「じゃあこれください!」
『陶陶酒』
殆ど注文がないのか、埃の目立つ専用サーバーから『陶陶酒』は小さいグラスに注がれカウンターに出された。
「中身はきれいなんだからね」
と、一応説明してくれる女将。
“外見キツめで中身ヨシ”、なるほど、これもツンデレプレイのひとつなのかもしれない。
ただし、実際にこの『陶陶酒』を飲んでみると、あまりの薬臭さとアルコール度数の高さで、とても”デレ”となるものではなかった。
『梅酢サワー』
続けてカリスマジュンヤの『梅酢サワー』が出された。
『バイスサワー』をよく飲まれる方ならお気づきかと思うが、このバイス、なぜか薄茶色だったのだ。普通はもっと派手なピンク色なのだが、これも一種のツンデレ……いやいや、そんなツンデレあるかい。
まったくそんなことも気にせず、”謎バイス”をゴクゴクと飲むカリスマジュンヤが、続けて大好物の『マグロのブツ切り』を頼んだ。
『マグロのブツ切り』
うまいっ!!
この日はすごく暑く、移動でかなりバテていたのだが、ヒンヤリと冷たいマグロの舌触りが爽快でうまさを倍増させてくれる。
これはこれで”デレ”に相当するか……とも思ったがイマイチ”デレ感”が弱い。
そんなデレ模索をしていると、ある出来事が起こった。
店にはテレビがあったのだが、基本的に女将は私達に酒を出す作業以外はずっと無言でテレビを観ていた。
すると野球中継が始まり、女将はリモコンで別のチャンネルに変えたのだが、すかさず”野球少年・カリスマジュンヤ”がまるで家族とチャンネル争いでもするかの様に「野球でええやん!」とリモコンを取って元の野球中継に戻してしまった。
女将は特に気にしていなかった様子だったが、こんなことを何の躊躇いもなく出来るカリスマジュンヤは、本当の意味で”カリスマジュンヤ”なのである。
しかし、観たくもない野球中継に変えられたせいもあり、このことが女将と私達の会話をするきっかけとなったのだ。
「この”島田”って名前、近くの”島田屋”となんか関係あるんスか!?」
と、リモコンを死守するカリスマジュンヤが女将に話しかけた。
これもまたいつもの”カリスマジュンヤ節”で、思った事は必ず口に出すのが彼なのである。
しかし、いくらなんでもそんな偶然がある訳もなく、たまたま……
「そうだよ。親戚んとこだからね」
「やっぱりやん!島田屋と島田やからそうだと思ったんや!」
……そんな偶然を天然で言い当てるのも”カリスマジュンヤ節”である。
「この建物もビルやないスか!?自社ビルてすごいわ~!」
「三階建てだから大した事ないよ」
「お!よーみたら焼酎も『キンミヤ』使ってるやん!」
「キンミヤはクセがなくいいんだよ」
客は私達以外に入ってくる様子もなく、それが功を奏してなのか3人での他愛のない会話は続く。
しかし、やはり決定的な”デレ”を出しては貰えず、もはや諦めかけていると『その時』は来たのだ。
「うわっ!?何やコレ!?」
「ああ、『かなまら祭』に行ってきた人に貰ったんだよ」
カウンターの隅に、なんとも卑猥な形状をした飴細工が飾られていた。
『かなまら祭』とはこの店の近くにある『金山神社』で毎年4月に行われる祭りなのだが、神輿に扮したその様相は、まさにこの写真の様に”男のモノ”と同じで特に外国人からの人気が高いらしい。
あまりに”露骨な形態”ばかりなので、詳しくは個人的にネットなどで調べて頂きたい。
つーかこれが『梅酢サワー』の色じゃねーか、などと思っているとカリスマジュンヤがその日一番の声量で叫んだ。
「ボクのは”コレ”の3倍やぞ3倍ッ!!」
誰に対して叫んだのかは分からなかったが、急な『カナマラジュンヤ』の下ネタにきっとツンデレ女将も怒……
「ハッハッハ」
満面の笑顔で”デレ”を見せてくれたのだった──。
カリスマジュンヤとの川崎はしご酒はつづく。
島田屋(しまだや)
住所: | 神奈川県川崎市川崎区境町11-3 |
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TEL: | 044-233-6998 |
定休日: | 日曜・祝日 |