【検証】突撃!!『ほんべろ調査隊』本気のせんべろ店を探せ──新橋編
最近、読者や知人に訊かれる。
〝酒場ナビって、なんでメニューの『値段』を載せてくれないの?〟
激安メニューだと載せたりするのだが、基本的に値段は記載していない方が多い。
理由は、単に値段が知りたければ天下の『食べログ』や『ぐるなび』を見ていただければ大概済むと思うし、酒場ナビはメニューの値段云々より〝酒場自体の魅力〟を読者に伝えていきたいというコンセプトであるからだ。
いや嘘だ、
本当は、面倒だからである。
しかしまぁ、どうしても値段を意識して記事にしないといけない場合もある。
たとえば、以前から酒場ナビメンバーの間でもやってみたいと言っている『本当のせんべろ』という企画だ。
今やお馴染みの〝せんべろ〟という言葉は、今は亡き作家の『中嶋らも』が《せんべろ探偵が行く》という著書から広まったとされ、要は〝千円でベロベロに酔っ払える〟という安い酒場のことを言うのだが、正直、本当に千円札一枚でベロベロに酔える酒場などあるのか?という『疑念』があった。
というか、中嶋らもが生前に飲んでいた時代は知らないが、現代日本において〝せんべろ〟は不可能だと思っている。
……とは言いつつも、個人のアルコール強度の差にもよるが、この世界屈指の〝物価が高い国〟に、たったの千円で酔っ払える……なんて、夢のある話も嫌いではない。
そんな夢のようなせんべろを……いや、本当のせんべろである『ほんべろ』を調べたくなるのは、サカバーというカルマを背負っている為か……はたまた、酔人としてのリビドーがそうさせるのか……。
そんな訳で、まずはそんな物価の高い日本の経済を支えるサラリーマン達の街、『新橋』でその検証を行ってみた。
休日の新橋駅。
私は、友人の男性と女性の三人で新橋へ来ていた。
複数で来た理由は、同世代の男女と検証することで、より〝せんべろ度〟の精度を高めるためである。
まずは駅から近い『新橋駅前ビル2号館』の地下にある立ち飲み屋から『ほんべろ』の検証をスタート。
この企画を検証するにあたって、どこの街でも安定した低価格の〝立ち飲み〟というジャンルを外す訳にはいかない。
このビルの地下には、立ち飲みを含めた多くの飲み屋が軒を連ねているのだが、休日の昼間ということもあり殆どの店が閉まっていた。
「もしかして、全部閉まってる!?」と過ぎったが、奥に進むと〝先輩〟独特の饒舌が聞こえてきた。
『立ち呑こひなた』
あぁ、なんて飾り気がなく、触り心地のよいカウンターなんだ。そして、地下だけに薄暗く、またこの〝密閉感〟もいい。
さて、今回はいつものように好きなものを頼むだけではなく、千円以内でどれだけ酒が飲めるのかが重要な鍵となる。それ故、メニューを見る目もいつもより俄然慎重だ。
粗方、メニューに目を通すと酎ハイ類の〝260円〟が飛び込んできたので、私は『ウーロンハイ』を、友人の男性は『レモンサワー(260円)』と女性は『グレープフルーツサワー(370円)』を注文した。
『ほんべろ調査隊』企画発足に〝酒ゴング〟をする。
因みに酒ゴングは無料なので、何回してもよい。
いくら『ほんべろ』と言っても〝アテ〟なしというのも味気ない。いや、純粋な酔狂としての愉楽がないなど本末転倒である。
いくつかの料理が、カウンターに〝おばんざい〟として並べられているので、そこから安くておいしそうな品を吟味する。
『サバ焼き(200円)』
カウンターの内側にいる女将が焼いたのであろう、シンプルかつ庶民的な味わい。「どれにする?」と大皿に並べられた切り身を女将が選ばせてくれる感じも和む。
『クジラ刺し(300円)』
普段であれば「安いっ!」と言っているのだろうが、予算が千円以内という縛りだと結構な高額メニューだ。一切れずつチビチビと食べるのだが、特に私はクジラ刺しが大好物なので、チビチビだろうが腐っていようがウマいものはンまい。
『ほうれん草おひたし(190円)』
「オススメはなんですか?」と女将に訊くと勧められた一品。190円という安さもあり、対・『ほんべろ』としては強い味方。味も、塩気が薄めの優しいおばあちゃんの味。
その後、私は酎ハイを二杯、友人二人は酎ハイを1杯ずつ頼む。これで金額的にフィニッシュなのだが、三人の残金が合わせて460円とかなり勿体ない余り方だった。
そこで思いついたのが、残金の『シェア』である。
一人ひとりの残金を合算させ、それを元手に注文した酒や料理を分け合うという、かなり貧乏臭いが『ほんべろ』を完遂するには必要な〝技〟であることを憶えていて欲しい……というか誰でも考え付くことか。
【結果】
味論
- ウーロンハイ 260円
- 酎ハイ×2 480円
- サバ焼き 200円
計 940円
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友人男性
- レモンサワー 260円
- 酎ハイ 240円
- クジラ刺し 300円
計 800円
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友人女性
- グレープフルーツ 370円
- 酎ハイ 240円
- ほうれん草おひたし 190円
計 800円
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シェア(三人残金:460円)
酎ハイ 240円
合計 2,780円/三人
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結果的に、私が三杯、友人らは二杯半ずつ飲むことが出来たが、ジョッキは普通サイズで特に焼酎濃い目というわけでもなかったので『ほんべろ』は達成出来ず。
まぁ一軒目はこんなものだろうと、まったくの〝シラフ〟であったものの、一旦リセットのため、本来私が一番好きであるお洒落なカフェで休憩をした。
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『立呑処へそ』
続いて二軒目に訪れたのがこの立ち飲み屋。
ここを選んだ理由が、『セットメニュー』だ。ハッピーアワーでよく見かける激安セットメニューを組み合わせることで、『ほんべろ』が可能なのかを確かめてみたかったのだ。
『ハムカツ(酒とセットで550円)』
〝極厚〟までいかないが、値段のわりに厚いハムカツ。これもまた貧乏臭いが、付け添えの千切りキャベツも、この企画にとっては〝アテ〟として重要な役割なのである。
そして、せんべろだろうが何だろうが、ハムカツといったら無作法にソースをかけて食べるのがお決まり。
そう、こんな風にハムの割れ目にドップリと……
……しかし、いくら無作法とはいえ、この友人女性も、なんてスケベにソースをブルドックするのだろうか……。
『おでん(酒とセットで780円)』
友人男性はおでんと酒のセットを注文。780円と、金額的に少し悩むところであるが、玉子、大根、ガンモ、さつまあげがケチってないサイズで出されたので不満はない。新橋に多い〝仕事中だけど、小腹満たしに一杯〟という大胆サラリーマンには、量、金額面ではかなり丁度いいのではないだろうか。
【結果】
味論
- ハムカツセット[ホッピー白] 550円
- ハムエッグ 280円
計 830円
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友人男性
- おでんセット[緑茶ハイ] 780円
- バリキャベツ 100円
計 880円
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友人女性
- トマッピー白 480円
- ナカ 270円
計 750円
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シェア(三人残金:540円)
ナカ×2 480円
合計 2,940円/三人
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その他の料理に、『ハムエッグ』と『バリキャベツ』を注文し、こちらもやはり『ナカ』をシェア。ホッピーの『ソト』を三人で使い回すことを前提としているので、これもまたかなり貧乏臭い……というか、やってることは〝特殊先輩〟となんら変わりない。
やはりここも、ひとり二杯ずつちょっとでは流石に酔えるはずもなく、セコく酒を飲んでいるのもあってか、もはや血中アルコール度数はゼロに近い……。誰も口には出さなかったが〝やっぱり千円でベロベロなんて無理じゃね?〟という空気が漂う。
初回から企画倒れになるのか……と思いつつも、シラフの体にチェイサーを流し込んだ後、調査隊初日の最後の店へと向かった。
『赤札屋』
他の店舗では分からないが、ここの目玉と言ったらレモン付き『酎ハイ』がたったの100円であるということ。
まさに今回の企画にうってつけの酒場である。
しかし、〝ジョッキ〟とは書いていても、実際はミニジョッキだったり、焼酎が極端に少ない……なんてことも有り得るので、とにもかくにも、私たちはメインの『酎ハイ』を頼むことにした。
そして、出てきたのが……
『酎ハイ(100円)』
出たっ!!
ちゃんと中ジョッキグラス!!
……こんなにも『KIRIN』のロゴが神々しく見えたことはなかった。
そして、味も確認するが……
しっかり焼酎・甲類の味もする!!
店員が酎ハイを作っているところも見たが、ジョッキのおよそ半分近くは焼酎を入れていたのでまったく問題はない。
ちょっと待てよ……?
仮に500円の料理を一人ずつ頼んでも、酎ハイが5杯も飲めるのだ。このジョッキサイズで5杯は泥酔まではならなくても、『ベロベロ』状態にはなれるんじゃないだろうか……?
これは──
これは遂に『ほんべろ』になれる可能性の酒場に行き着いたのだと、私たちは確信した。
ここは料理も実に安いのだが、〝ベロ確〟した私達は、いっちょまえに一品300円や500円の高級料理に手を出したのだ。
『つぶ貝刺し(300円)』
ほんの二、三切れではない、少なくとも二人では楽しめる程の量と、ちゃんとツマとしそ葉まで添えてくれている。しかも調理人の包丁さばきを見る限り、それ相応の修練を積んだ風格も持ち合わせているだけに、300円とは思えないほどウマい。
さらに少年マガジンを包丁刺しにするという、この有り体も好感が持てるではないか。
『甘エビの唐揚げ(260円)』
特筆すべきはその〝大きさ〟だ。値段の安さからてっきり『かっぱえびせん』でも並べて出てくるのだとばかり思っていたが、こんなに潔い大きさの甘エビを、四本も並べてくるとは思いもよらなかった。頭から尻尾までムシャムシャ食べるのも快感。
『アサリバター(500円)』
まさかこの企画でアサリバターが食べられるとは……!アサリも、真ん中で箸を立たせるほどの量があり、主役である〝お汁〟も、両手ですくって顔を洗えるほどたっぷり。500円という、今回で一番高価な料理だが、普通に考えてもこれが500円とは思えないクオリティだ。
【結果】
味論
- 酎ハイ×5 500円
- アサリバター 500円
計 1,000円
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友人男性
- 酎ハイ×4 400円
- ハイサワー 270円
- つぶ貝刺し 300円
計 970円
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友人女性
- 酎ハイ×2 200円
- ハイサワー 270円
- ハタハタ 300円
計 770円
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シェア(三人残金:260円)
甘エビの唐揚げ 260円
合計 3,000円/三人
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やっと……私たちは一人千円で料理を食べつつも、ジョッキで酎ハイを5杯も飲むという、それらしい結果を出すことができたのだ。
ジョッキ酎ハイ5杯など、これはもはや〝ほろ酔い〟などではない、せんべろ状態であり『ほんべろ』だった……!!
「──出来たっ!!本当にせんべろが出来たぞ!!」
正直、私自身『多分、無理だろう』と思っていた。
だが、私達は〝ベロベロ〟になることが出来たのだ。
この達成感──。
私たちは最高の気分で残りの酒を飲み干し、そしてベロベロで会計を待った。
「合計で4,050円です」
「はいはい、よんせ……はぁぁぁぁぁっ!? なんで!?」
いくらベロベロ頭でも、これくらいの計算くらいできる、会計が千円以上オーバーしているのだ。
……消費税?いや、計算が合わないしメニューにも税込み価格と書いてる……あ────ッ!!
勘のいい呑兵衛さんなら、とっくにお気づきだっただろう──、
お通し代──
この馬鹿!!
そう、
このベロベロは、立ち飲みが続いていたせいか、普通の飲み屋ならどこにでもある〝お通し代〟という存在を失念していたのだった。
もしくは、そんなことも気づけないほどベロベロになっていたのだろうか……。
だがしかし、
初回で惜しくも失敗してしまったが、これを機に『ほんべろ』は本当に出来るという光は見えた気がする……
そしてなにより、
この飲み方はおもしろい。
ほんべろ調査隊はつづく
赤札屋 新橋店(あかふだや しんばしてん)
住所: | 東京都港区新橋2-15-3 |
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TEL: | 03-3504-8112 |
営業時間: | 月~土 13:00~04:00 祭日 13:00~22:30 |
定休日: | 日曜日 |