静岡「青葉横丁」他 2018年《新春》男ふたり旅
ゴールデンウィークも終わった今更になって、〝2018年《新春》〟とはどういう了見か。
実は、この記事をなかなか〝出したくなかった〟のには理由があり、書いていてあることに気づいたからなのだ──
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昨年の2017年大晦日、私は酒場ナビメンバーのイカと2人で『静岡駅』に行くことになった。
それはまったくの無計画で、なんとなく〝静岡駅って行ったこがないよなあ〟という漠然とした思い付きからであった。
もちろん、集合時間も曖昧なLINEがイカから届くのみで、新幹線で行くのかバスで行くのかもわからないまま、その集合時間らしき時間に東京駅へ私は向かった。
結局、17時の新幹線に乗車して、一時間もするとすっかり暗くなった静岡駅に到着したのだ。
「大晦日やけど、『青葉横丁』のぞいてみよかー」
イカの言う『青葉横丁』とは、駅から歩いて数分にある、所謂〝渋い店〟が集まった横丁……といっても、私たちは一度も訪れたことはないのでおそらくそういった横丁であると想像して、大晦日の人が疎らな静岡駅を後にした。
『青葉横丁』
やはり、殆どの店が暖簾を仕舞っていたが、『ゆうちゃん』という赤提灯の灯りを見つけることができた。
『ゆうちゃん』
さっそく、2人で初の静岡駅、初の《暖簾引き》をして中へと入る。温和な駿河湾の恵み風で育った暖簾は、純朴で妙齢な女子の肌の様に〝滑り〟が違う。
店内は小さなL字カウンターのみで、10人が座れるか程の広さに若いマスターが一人で切り盛りをしていた。
「出たっ! 静岡おでんやでん!」
私たちが座った目の前には、有名な『静岡おでん』の鍋がどっしりと鎮座して、その独特な〝極黒色〟の出し汁の香気が、早くも私たちの唾液腺をシコシコと刺激させるのだ。
しかしながらここは『お茶処・静岡』、その逸る気持ちを抑えつつ名物の『しぞーか割り』を注文するのだ。
『しぞーか割り(緑茶割り)』
めっ茶んまいッ!!
およそ想像はしていたものの、都内で飲む典型的な緑茶割りとは違い……というよりは、もはや根本的に別物の酒である。凡庸な表現にして、とにかく〝甘い〟という感想が正しい。決して〝甘ったるい〟の方ではなく自然な〝甘い〟であり、それを『あの……これが静岡じゃ普通なんですけど、大丈夫ですか?』と、しぞーか割り自身が慇懃無礼に語りかけてくるようだった。
続けておでんを頂くのだが、ここはおでん鍋から自分で好きなタネを抜くシステムだ。
「ワイはな、ナルトとな……あとあと、コレも食べてみたいんやでん!!」
兵庫の三兄弟の末っ子であるイカは、〝今日は兄ちゃんと姉ちゃんがおらんから好きなもの買てやるで〟とデパートで父親に言われた時の子供の表情で、おでんを次から次へと引っこ抜いていく。
ビュリュリュンとした『たまご』は、表面こそセクシー男優の『お宝』ほどに黒光りしており、いかにも〝濃味〟そうであったが、意外にも甘くあっさりとして、中のモッコリとした黄身は丁度よい染みウマであった。
汁の滴りがいやらしくもズッシリと旨重みを感じる『厚揚げ』は、表面の重厚な歯ごたえを愉しませるとともに、中は豆腐の優しい舌触りがとにかく気に入った。
そして不動の人気者を誇る『大根』は、これも色こそ濃いが大根の辛味と出汁の甘味とのマッチングが絶妙であり、久しぶりに〝味に驚く〟という感情まで沸き起こる。
全体を通して、見た目は『東日本』、味は『西日本』というまさに日本の中央に位置する街として、出来るべくして出来たおでんという印象だ。
そんなおでんを2人で堪能していると……
〝やれやれ、だし粉を忘れるなんて、あたしゃ悲しいよぉ……トホホ〟
……聞き覚えのある『しゃべり方』が聴こえた気がしたが……それが静岡を代表するあの『アニメキャラクター』だったかは定かではない──
『だし粉』
いくら〝静岡童貞〟といっても、静岡おでんにこの『だし粉』を失念していいわけがない。『だし粉』とは様々な魚粉と青海苔などを混ぜたおでんの〝フリカケ〟のようなもので、私たちも初めて食べるのだが、これをただでさえウマいおでんに振り掛けることによるその効果は半端ではなさそうだ。
『釣り人』ならわかると思うが、この静岡県はカツオやサバなどの回遊魚釣りの〝メッカ〟なのだ。そして、その回遊魚の味もズバ抜けておいしく、そんな魚の魚粉など旨いに決まっているのだ。
早速『だし粉』を、こちらも有名な『黒はんぺん』に振りかけて食べると……
んまいッ!!
38年も生きてきて〝初めての味〟などまだ存在すのか……いつも食べているフワフワの『はんぺん』とは明らかに違い、少し歯ごたえのあるすり身に『だし粉』の〝甘じょっぱい〟フリカケのようなアクセントが最高に合う。
なんというか……酒のアテとしてはもちろん、『料理』としても非常に完成されているのだ。
気づかせてくれてありがとう、まるちゃん。
最高の静岡スタートダッシュを終え、続けて訪れたのが静岡駅近くの地下道を通り抜ける時に、偶然見つけた〝仰天居酒屋〟という酒場である。
『てんま屋』
はて……?
見た目はごく普通だが〝仰天〟とは一体……。
「イラシャイマテー」
〝仰天好き〟な私たちは、折角なので入ってみると〝外国人マッスル店員〟がテンション高めで私たちを迎え入れてくれた。
「わっ! 壁が派手やなぁ~!」
奥の半個室に通されると、早くもイカがその独特な内壁の塗装に〝仰天〟する。確かに、真っ赤の中にさらにエナメルカラー混じっているという何とも不思議な内壁であった。
ガラガラガラッ
突然、マッスル店員が包んでいたロールカーテンを下ろし、半個室だった私たちの席を完全な個室にしたのだ。
「ココー、シメートキマースネー!!」
……ちょっと待ってくれ。
もしかして私たちのことを〝アッチ系〟のカップルだと勘違いしているのでは……マッスル店員の忖度ぶりに、またしても〝仰天〟である。
『ロングソーセージ』と『イカおやじ』
今さら気づいたのだが、『ソーセージ』と『イカ』という、それこそ〝アッチ系〟に好まれる料理のチョイスをしていたではないか……これは読者目線から〝仰天〟であるはずだ。
そんなある意味、仰天料理のまずは『ロングソーセージ』を──
《サイドワインダー食い》をして──
すぐさま、『イカおやじ』を──
イカ臭いイカが、イカ面でイカ食いしたのだった。
「そういや、清水の方で花火が上がるらしいで」
そんなイカが、事前に静岡出身の知人に聞いてきた情報を呟いた……それはいいのだが、おっさん2人の大晦日イベントとして、それは必要な情報なのだろうか……これは私個人の〝仰天〟である。
イカがその情報をマッスル店員に確認する。
「あのーマッスル店員はん、今夜清水で花火は上がりますかえ?」
「ウーン、チョトワカラナイ……チョトマテテー」
そう言ってマッスル店員が店の奥に戻り、少しすると今度は店主が登場した。
「清水の花火ですか!? ええやってると思いますよ!!」
この笑顔、静岡三大笑顔酒場の企画があれば間違いなく入選であろう。
そんな店主は〝静岡童貞〟である私たちに、このあとも静岡の酒場や名所を丁寧に教えてくれた。
最後に、『てんま屋』の人間の優しさに〝仰天〟である。
『静鉄線』で新清水駅へと向かった私たちは、結局、例の花火が上がるという『清水マリンパーク』へ向かっていた。
時間的にギリギリではあったものの何とか間に合い、清水港に集まる大勢のギャラリーがにわかに年末らしさを感じさせる。
〝5! 4! 3!……〟
マイクからのカウントダウンが始まり、その瞬間が訪れた。
〝ゼロッ!!〟
どーんと花火が上がり始める。思っていたよりちゃんとした花火だ。
ふと、イカの姿がないと辺りを探すと──
清水エスパルスのマスコットキャラ『パルちゃん』と一緒に花火を楽しんでいた。
……この笑顔。
これが女の子だったら〝キュン〟の一つでもあったろうが、相手は43歳の歴とした『おっさん』なのだ。なんなら『パルちゃん』の中もアルバイトの『おっさん』かもしれない、と思うとゾッとする画である。
そのまま私を含めた3人で一緒に花火を観るという謎のフォーメンション……先ほど『だし粉』を教えてくれたもうひとつの清水代表のキャラクターである『ちびまる子ちゃん』風に言うなら、
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〝私って一体……〟
後半へ、つづく《キートン山田》
である。
「あ! 観覧車あるやん! 乗ろうや!」
「は!? なんでだよ!」
後半につづくや否や、イカが花火開場からすぐにある『ドリームプラザ観覧車』に乗ろうと言い出したのだった。
観覧車の好きで有名なイカに私は、『パルちゃん』も一緒に3人で……というわけにもいかず、だが流石におっさん2人きりの観覧車はキツ過ぎるだろ……と言う暇もなく、すでにチケットを握りしめていたので仕方なしに乗ることにしたのだ。
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ガタンゴトン
──。
──。
ガタンゴトン
──。
……『空白』の十数分間を終えたあと、そのまま静岡駅へを戻った。
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静岡駅に戻ると、実は『ゆうちゃん』のマスターに教えてもらっていた『静岡浅間神社』へと立ち寄り、年末カウントダウンを経て初詣をした後、
出店で『やきとん』を購入して2人で食べ、
おみくじを引き、有難い演舞を見物した後、さらに数軒のはしご酒をしたのだった──。
さて、思い返して欲しい。
今までこの記事を〝出したくなかった〟理由──
『てんま屋』での忖度、花火、観覧車、カウントダウン、初詣……
もうお分かりだろう、
おっさん2人が気持ち悪すぎるのである。
今年こそ、
我々酒場ナビメンバーにも『新しい春』が来ることを願い、
2018年の後半へ、つづく……《キートン山田》
青葉横丁(あおばよこちょう)
住所: | 静岡県静岡市葵区常磐町1丁目8−7 |
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