高円寺「四文屋 高円寺北店」『…うん、来週帰るよ』
先日の友人の結婚式で貰った引き出物の中に、日本酒が入っていた。
『家族の絆 感謝の気持ち』
その友人は昔から家族思いで、まさにこの銘柄は相応しい。
まあ、家族ってのは離れて暮らすからこそ存在価値が分かってくるもんで、いつも一緒にいたら粗雑に扱ってしまう。
だからこそ、実家を出て、たまに帰ることになった時は何歳になっても心躍る。
それは酒場にも言えるのだ。
『四文屋 高円寺北店』
初めて”四文屋”という店に訪れたのは、およそ十数年前。
現在では高円寺駅圏内だけで5店舗もあり、もはやチェーン店のひとつと言っていい。
写真の四文屋は、元々高円寺駅北口からすぐの「大一市場」という飲食店が数件集まった建物の中にあり、名前も「四文屋 大一市場店」であった。
現在の大一市場は、「ビンミン」や「チョップスティックス」といったアジアン料理屋のイメージが定着しつつあるも、店は小さいながら様々なジャンルの店が並んでいる。
かつてはこの場所に『四文屋 大一市場店』があったのだ。
この時はまだ私は高円寺に住んでなかったが、酒場ナビメンバーのイカが住んでいた。
たまに用事があって高円寺に来ると必ずここの四文屋が待ち合わせ場所で、店に着くとイカが一人でデイリースポーツを読みながら酒を飲んで待っているというお決まりの光景があった。
当時の店はいつも客がギュウギュウで本当に毎回、体を小さくしながら飲んでいた記憶がある。
他にもたくさんの酒場があったのだが、集まるのは決まってその狭い四文屋だった。
理由として、
まずは『安さ』にある。
現在も変わらず、お通しはなく”席代”として1人100円を払うだけ。
そういえば昔は席代の100円を会計から引いていたので実質、飲み代だけで済んだのだが、今も引いてくれているのだろうか。
さらに焼鳥、刺身、揚げ物にサラダなど、とにかく種類が多くて安い。
串物のほとんどが100円。それ以外も200円から、高くても400円台のつまみしかない。
続いて『料理』だ。
特筆すべきは何と言っても「レバ刺し」である。
レバ刺しが黙認合法であった当時の四文屋のレバ刺しは今でも強く印象に残っている。
大き目にブツ切りされたレバー3つから4つを串に刺し、丸いステンレス皿にドッカリと乗せて出されるのである。
味は”醤油”か”ゴマ油”を選択することができて値段はもちろん100円。嬉しいことに、薬味にネギをテンコ盛りにしてくれるのもまた魅力の一つ。
大概、醤油とゴマ油をそれぞれ5本ずつくらい頼み、ステンレス皿に串を抜いて”生レバーの海”状態にして食べていた。
この時の写真があればなあ。 気持ち悪かったなあ。
しかしながら、このレバ刺し目当ての客は多く、レバ刺しが非合法になってから直ぐに「冷製レバ」なるものが登場した。
当時の「レバ刺し」を知っている人間からしたら「なんじゃこりゃ」ってなるはずだ。実際、私もはじめてこれを見た時は、あまりの変わり果てように困惑した。
その後、店に行く度にどんどん肉へは熱が通り、最終的に”ただの茹でたレバー”になってからは暫く行かなくなったのだが、今年に入って久しぶりに店を訪れると、”生感”はある程度改善されており、味の仕上げも悪くなかった。
私と同じく、ここのレバ刺しで悲しい思いをした人間は少なくないと思うので、是非、今の「冷製レバ」を食してもらいたい。
最近では「四文屋=レバ刺し」のイメージを逆に割りきって”焼き”をおいしく食べるようにしている。
と言っても、元々焼きもおいしいのだ。
焼き加減、塩加減、タレ加減すべてにおいて、これで100円なら大満足である。
これだけ語れることがあるなら、必然的に『思い出』が出来るものだ。
「大一市場」から突如、現在ある庚申通り沿いに移転したのはいつだったか。まぁ、厳密に言ったら店名が変わっているので移転とは言わないのかもしれないが、とにかく歩いて10秒程の場所に移ったのだ。
今建っているこの場所は、四文屋が移転するまで何店ものテナントが開業しては潰れを繰り返していた。
「まーた、何かの店が入るのか……え!? 四文屋になるの!?」
コイツなら…、四文屋兄さんなら、ここのテナント問題を解決してくれる! という期待は今の賑わいがすべてを語る。
女性を自分の家に連れ込む前に、この四文屋で飲んでいた時のこと。
偶然、直ぐ横で私の友人も女性を家に連れ込む前に寄っていたらしく、お互いの女性を紹介し合うという少し恥ずかしい出来事があった。
直接、高円寺北店とは関係ないが、最初に高円寺北店の店員として働いていたタイプの女の子が、急にこの店から歩いて10分はかかる「新高円寺店」へ移ってしまい、それから当分の間、わざわざその店まで飲みに行っていた時期もある。
恋人にフラれた友人が、ここで感情的になって泣きだしたり、意見が合わず喧嘩をしたりと、思い出したら”きり”がない。
それはまるで家族と過ごした『実家』の様だ。
いつもの帰り道で、いつものあかりが灯る。
なんとなく、
喧嘩して、
照れくさくて。
最近、疎遠だった『実家』という名の酒場に、あなたも久しぶり帰っては如何だろうか。
四文屋 高円寺北店(しもんや こうえんじきたてん)
住所: | 東京都杉並区高円寺北3-22-7 瀧ビル 1F |
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TEL: | 03-5373-1543 |
営業時間: | [月~金]17:00~24:00[土・日・祝]16:00~24:00 |
定休日: | 無休(ゴールデンウィーク・盆・年末年始のみ休み) |