庚申塚「庚申酒場」あのおばあちゃまは今どうしてる
その店は
東京さくらトラム
という名前が
未だに馴染まない
都電荒川線の
庚申塚駅
のお近く・・・
巣鴨の庚申塚の
真裏の場所に
あった
民家・・・?
と思しき
暖簾も出てない建物から
ぼんやり
光が差している
扉が少し開いているので
中を覗くと
お客さんがいて呑ってらっしゃる
酒場で・・・
いいんだよな・・・
恐る恐る
扉を開いた
うわっ!!
渋すぎる・・・
いや
渋いを通り越した向こう側
閻魔シブ
だ
このカウンターの色・・・
燃えたこと
あるんじゃなかろうか・・・
L字カウンターだけの店内
ありとあらゆるモノの
すがれ具合がエグい
この
やかん・・・
灰色だけで絵を描くので有名な画家
でもこの色合を出すのは
容易ではなかろうかという
年季の入り方
むむっ!!
蓋の取っ手がない・・・
水を入れる時は
どうしてるのだろう・・・
気になる・・・
が・・・
もっと気になるのは・・・
おばあちゃまっ!!
僕は
女将さんのことをお呼びする時
必ず
お姉サマ
という言い方をするが
その言葉を発するのが
失礼なぐらいの年輪・・・
米寿・・・
いや卒寿にもお見受けできる・・・
素敵だ・・・
「お兄ちゃん達 何呑むんだい」
おばあちゃまが仰る
志村けんの
ひとみばあさん風
とかではなく
しっかりとした口調だ
キョロキョロしてみるが
メニューは見当たらない
「チューハイできますか・・・?」
「あるよ」
「チューハイ下さい 2つ」
「はーい よいしょっと・・・」
「・・・」
「・・・焼酎はソコに自分で入れて」
僕らの目の前に
受け皿のついた小さな
グラスを置いて下さった
「焼酎これでいいんですか・・・?」
「それ以外あるってのかい」
「すいません・・・」
カウンターの上の
キンミヤの一升瓶の栓を抜いた
「ごめんね やらせちゃって」
「何をおっしゃいますやら」
物理的に
重いもんな
一升瓶は
氷の入ったジョッキと
栓の抜かれた炭酸は
おばあちゃまが
ゆっくりゆっくりと
用意してくれた
受け皿から溢れんばかりに
こぼして
やろうかと思ったが
怒られそうなので躊躇してしまった
チューハイを啜りながら
おばあちゃまに
見とれていた・・・
カウンターの端に
座ってらっしゃる先客様は
お酒だけで
何もツマんでらっしゃらない
おばあちゃまに
おツマミをお願いするのは
ちょっと酷か・・・
おばあちゃまは
そんな空気を
感じてか感じてないか
「アンタ達 おでん食べるかい?」
と僕達に聞いて下さった
「頂きますっ!!」
諦めかけていた恋が実ったような
感情に襲われ
大きめの頂きますを
放ってしまった
奥の鍋で仕込まれていた
おでんを持ってきて頂いた
おばあちゃま
口調は厳し目だが
味付けは優し目だ
美味しい
普段は敬遠しがちな
ちくわぶ
も美味しく頂ける
何より・・・
この店で
おばあちゃまの
こさえたおでんで
一杯やれてることが幸せだ
「わぁ おばあちゃん また来ちゃったー」
女性のお客様が
お一人で入ってこられた
常連さんなのだろう
おばあちゃまとお喋りで
盛り上がってらっしゃる
「トランプってのはなんだい カツラかねあれは」
「あはは おばあちゃんったら」
「稀勢の里も 横綱なんだから簡単に休場したらダメだよ」
「あはは」
「藤井聡太ってのは 勝っても泣いてるみたいな顔だねぇ」
「あはは そんな」
「豊田真由子ってのはあれかい? 鬼なのかい?」
「あはは おばあちゃん もう」
おばあちゃま・・・
随分辛口だ・・・
それにしても・・・
時事に詳しくてらっしゃる・・・
お客様との会話が
一段落すると
おもむろに新聞を取り出し
眼鏡もかけずに凝視なさっていた
おばあちゃま・・・
若いっ!!
それでいて博識で元気だっ!!
これは・・・
安心だな・・・
当分
おばあちゃまの毒舌が
治まる時は来やしない・・・
庚申酒場
通って常連さんに
してもらえるよう頑張ろうか
という
僕らの願いが
叶うことはなかった
庚申酒場が閉店したのでは
という噂を聞いたのは
それから数ヶ月してからだった
おばあちゃま・・・
もしや・・・
何回か
店の前に行ってみたが
扉は閉まったままだった
そして・・・
現在では
駐車場が出来そうな雰囲気の
空き地になっている
時の流れで
建物がなくなることは
仕方がないが
あんなに元気だった
おばあちゃまは
どうなさっているのだろうか・・・?
ご近所の人に聞いてみた
知らない知らないと
何人もの方が仰ってたが
ある乾物屋さんのお母さんに
「足がちょっとね 施設に入ってるよ」
と話して頂けた
ある布団屋さんのご主人は
「こないだ ヘルパーさんと一緒に歩いてるの見だぞ」
と話して頂けた
巣鴨で呑む機会増やすかな
毒舌が聞こえたら
振り返ってみよう
【閉店】庚申酒場(こうしんさかば)
住所: | 東京都豊島区巣鴨4-35-3 |
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