改札から0分!駅ナカ角打ちでイキナリ酔おう!/新潟「日本酒Bar角打ち」
もうだいぶ前に潰れて今は更地となってしまったが、実家の近くに『川口酒店』という酒屋があった。もはや私の記憶でしか残っていないが、ザ・昭和のモルタル一階建て平屋で、中はつねに埃っぽく薄暗い。コンクリ剥き出しの床、音の大きい大型冷蔵庫、乾物が並ぶアルミの棚。それを照らすのは裸電球で、現代にはない独特な雰囲気をいまだに覚えている。
現代ではありえないが、子供の頃にはよく父親に頼まれてタバコや酒をお使いさせられた。もちろんタダ働きではなく、余分に貰った小銭で酒屋に置いてあるお菓子やアイスを買うという楽しみがあった。買いに行くと、いつもレジには三遊亭圓楽にそっくりな店のオヤジが店番をしているのだが、その横にある小さなテーブルで、近所のオッサンが酒を飲んでいた。「なんでこんなところでお酒を飲んでるのかな?」と当時は不思議に思っていたが、おそらくこれが〝角打ち〟というものに触れあった最初だ。
新潟にやってきていた。学生の頃に一度だけ駅前を通ったことがあったが、それ以来約二十数年ぶりの新潟だ。第一の目的はもちろん酒場なのだが、やはりここは米処、すなわち、日本酒処であるのだ。日本酒が大好きな友人から〝新潟は駅の中で日本酒が飲める〟ということを散々聞かされていたので、まずはそれを試さないわけにはいかないだろう。
しかし、なんちゅうデカい駅だ……ちょうど改装中であったが、とにかく広々とした構内と駅中デパートは、迷子になりそうだ。私は自他ともに認める方向音痴なので、しっかりとサービスセンターで目的の酒場へと向かう。言われた通りに、しばらく歩いていると……
ムムッ……駅ナカ商業施設の『CoCoLo』ですか……ここのようだが、およそ酒場があるとは思えない外観だ。
自動ドアに入ってみたが、すぐにスタバがあるような明るい駅のデパートだ。こんなところに、酒が飲める場所なんて……おや?
ひゃあ……
こっちも……
あっちもだ……!
日本酒はもちろん、ビールから缶チューハイ、360度酒、酒、酒……! 一見、大きな酒屋のようにも見えるが、その奥には待望の〝文字〟が記されていた。
出たっ! その名も『日本酒Bar 角打ち』である。駅直結というより、駅の中にある角打ちなんてここくらいじゃないだろうか。大量の酒棚に囲まれたレジカウンターと、その横には喫茶店的な佇まいの飲食スペース。
レジカウンターには、魅力的なつまみの小鉢がずらりと並び、ちょうど大衆食堂の冷蔵庫のようになっている。
ここが噂に名高い、駅の角打ちか……確かに角打ちで間違いないが、前記の川口酒店とは別物のようだ。いや、そんなことより、まずは酒を飲もう。
店に来て、いきなり日本酒なんて久しぶりだ。これが新潟の酒マジックなのか……まず、いただくのはもちろん新潟の酒『越乃寒梅 純米吟醸 灑』だ。店の方にお願いすると、目の前に小じゃれたお盆を敷き、そこへ角升とグラスをセットして、目の前で一升瓶からトクトクと注いでくれる。
お盆ごといただいて、空いてる席に座る。くぅぅぅぅ、新潟に辿り着いてまだ10分ほどしか経っていないのに、目の前には升の日本酒があるだなんて。
ツイー……、あぁぁぁぁうんめぇ! 甘口淡麗でスッキリと旨い。なんでしょう、きっとこの酒の現代なら通販で買って家でも飲むことはできるのだろう。だが、こうして原産国の地で、同じ空気を感じながらいただくことに意義があるのだろう。
そこへやってきたおつまみが『大人のポテサラ』だ。まったく、なんてお洒落なネーミングなんでしょう。ポテトサラダに酒盗、燻玉、そこへパラリとナッツが降りかかった、ビジュアルもまたお洒落である。
ネットリとしたポテサラに、酒盗の辛味が酒舌をくすぐる。蒸かしたジャガイモに塩辛が合うというのは聞くが、ポテサラに酒盗も間違いなく合う。ちょうどよく燻された燻玉も、ひと口するたびに日本酒が進んでしまう。これぞ〝大人の〟ポテサラ、大人でよかった~。
こちらも珍しい、アジではなく『鮭のなめろう』だ。キレイなサーモンピンクの真ん中にはウズラの卵がポトリ。そこへ青ネギがパラリと……もうこんなの、絶対においしいに決まっている。
割り箸でえぐって、ひとしゃぶり……旨い! 何といっても鮭の脂が強いのなんのって。新潟駅は信濃川と阿賀野川の巨大な川に挟まれた街。有名な川がある街は、鮭などの川魚が漏れなくおいしい。口中に残る鮭の旨味の余韻を、いつまでも堪能していたい。
実家の近くにあった川口酒店では、静かな店内とブラウン管テレビから『笑点』が流れているイメージがある。こちらの角打ちは真逆で、駅構内の喧騒と、間接照明。座り心地の良い椅子とテーブルで、ゆっくりと酒を頬張る。
おや……酒が無くなりましたね。必然的におかわりとなり、続いてはちょっとパンチの効いた『麒麟山 伝統辛口』をいただくことになる。えへへ、川口酒店で飲んでいたオッサンよ。私は今、こんなステキな角打ちを楽しんでます。
遠い日の思い出と共に『アテ巻き トロたく』がやってきた。うひゃぁ……こんなの、セレブが食べるもんじゃないですか! 赤シャリ、中落ち、たくあん、トビッコが高級な着物のように折り重なった、うつくしい巻き寿司だ。
そのまま手で持って、ガブリと喰らい付く……淡麗な赤シャリにコッテリとした中落ち、コリコリとしたたくあん、プチプチとしたトビッコの食感が混然一体と混ざり合う。ただただ、至福である。
このあとにも酒を飲む予定だったので、悩んだが……『あん肝煮付け』をダメ押しでいただく。この判断は正しく、しっかりと煮詰まった甘さと、あん肝のホロホロとした食感が堪らず咆哮する。これ、缶詰にしたら絶対売れると思う……と、口惜しさを麒麟山の辛口で流し込むのだ。
はじめに喫茶店的な佇まいとは言ったが、確かにここは喫茶店のような雰囲気を醸し出している。
辺りを見渡すと、外国人観光客がクラフトビールで乾杯、スーツ姿のサラリーマンがノートパソコン相手に禁断の仕事酒をしている。マダムたちもワインで談笑、ポロシャツの会社経営者風の客は、日本酒の飲み比べを頼んで写真を撮ってはひと口飲んで「ウンウン」と頷き笑顔である。
〝酒飲む人は 花ならつぼみ 今日もさけさけ 明日もさけ〟
おいおい、呑兵衛たち。
新潟に来たらここで終わっちまうかもしれないぞ……
と、はじめてここへ訪れた私だが、これだけは忠告しておく。
日本酒Bar角打ち(にほんしゅBarかくうち)
住所: | 新潟県新潟市中央区花園1-96-47 ホテルメッツ新潟3階 |
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TEL: | 025-240-7090 |
営業時間: | 11:00〜20:00 |
定休日: | 無 |