渋谷じゃなく新発田(しばた)の「鳥竹」で、ホッピーと唐揚げのちょ~どイイ夜
大雨の影響により新潟駅で足止めをくらっていたが、およそ三時間ほどで在来線は動き出した。
今回は完全なひとり旅だったので待ちぼうけにはかなり堪えたが、とりあえず動き出したのだからよしとしよう。目指すは新発田(しばた)。ただ、動き出したはいいが、様子を伺いながらの運行なので本来なら三十分ほどで到着するはずが、新発田駅までには一時間半ほどかかった。
もはや予定は大幅に狂っている。とりあえず、新発田城跡へ歩いて向かったのだが、今朝までの大雨はどこへやら。
都内と変わらないほどの炎天下で、城へたどり着くころには完全にグロッキーだ。遠めに新発田城の櫓が見えたが、正直、そこまでたどり着ける気力がどうしても生まれず、そのまま踵を返すことに。
大至急、ホテルへ行ってチェックインしよう……そう思って、駅まで行くバス停の時刻表を見たが、次のバスまでは一時間後。絶望の中で、また来た道を引き返そうとすると、城の駐車場に一台タクシーが停まっているのが見えた。
これは思し召しだ!とタクシーへ駆け寄ったが、運転手の姿がない。いや、よく見ると運転席をべったり倒して寝そべっている運転手を発見。かなり若い女性運転手は、私を見つけるなり慌てて席を起こしてドアを開けてくれた。「すいません、すいません!」とかわいい声で謝られる。逆にこちらが恐縮しながら、今夜の宿である『新発田ニューホテルプラザ』へとお願いした。
意外と「どちらからです?」と話しかけられて会話が弾む。マスクごしでもかなり美人であることが分かる。新発田のおすすめを訊ねると、迷うことなく「蔵春閣!」と言うので後で行くことにした。
「着きましたよ~」とホテルで下ろしてもらって名残惜しく別れるが、ここで問題発生。チェックインをするためにフロントで予約の名前を告げるが、どうも予約が見つからない様子。慌てて予約メールを見た時に気が付いた。
「あれ、ここって〝新発田ニューホテルプラザ〟ですよね?……」
「いいえ、こちらは〝新発田第一ホテル〟でございますが……」
まさかの、女性運転手の行き先間違いだった。新発田ニューホテルプラザは隣のホテルだと教えてもらい、顔を真っ赤にしながらホテルを後に。あの美人運転手め!と思ったが、まあ美人だったから許そう。
今度こそチェックインをして荷物を置き、気を取り直して女性運転手が勧めてくれた蔵春閣へ行ってみた。
休館日だったっていう。
バカヤロウ!?
顔を真っ赤にしてホテルに戻り、ふて寝である。今日は酒場だけを楽しみにしよう、いや、そういう日なのだ。ホテルでしばらく時間をつぶした後、さっそく繁華街へと繰り出した。
新潟らしく、雁木通りが続く。平日の夜ともあって街は静かだったが、この静けさがなんとも心地よい。しばらく歩いていると、ぽつぽつと提灯の明かりが見えてきた。さて、この中のひとつにお邪魔しましょうか……おや?
暗闇の看板に浮かび上がるのは『鳥竹』の文字。鳥竹……といえば、あの東京渋谷の老舗店の鳥竹かい?
まぁ、確実に関連性はないだろうが、せっかくなのでこちらからお手合わせ願おう。
「いらっしゃませ~」
おぉっ……! 見た目よりかなり広い店内は、半分が小上がり、半分が〝かぎ型〟のカウンターが奥まで続いている。照明は民芸風で厨房もだいぶ広く、店員さんもハツラツと駆け回っている。いいですねぇ……私、こんな雰囲気が大好きですよ。
〝かぎ型〟のクッとなっているカウンター部分に座り、まずは酒でござんす。ここで、見慣れぬ酒を発見する。
『ホッピー割り』……ですと? ただのホッピーじゃないのか?……いや、まてよ。よく考えれば、確かに普段飲んでいるホッピーは、厳密にいえば焼酎とホッピーを〝割った〟ものだ。隣の『梅ッピー』も気になるが、ここはホッピー割りでいこう。
ははぁ……なるほど、ジョッキでホッピーを割って出してくれる、生ホッピー的なものだったか。謎が解明したところで、このホッピー割りを私の身体と割っていこうじゃないか。
ごくんっ……ごくんっ……ごくんっ……、ホぉぉぉぉピぃぃぃぃ旨い! 東北と北陸の境界線にある街に、まさかホッピーが、しかも〝生〟があるとはうれしいじゃないか。
そんなところに、当たり前のように出される『漬物・タコ刺身・鳥スープ』のお通し。このラインナップ……長居させるつもりですね!
白菜、きゅうり、大根、カブのオールスターの漬物は問答無用でおいしいのは分かっていたが、このタコ刺身だってシッコシコとおいしい……おや?
と、タコをめくると、その下には中落が隠れているではないか! ネッチリとした旨味がたっぷりで、これがお通しなんて夢じゃないかしら。やはりタコとスカートは、めくってみるに限る。
そして鶏出汁のあっさりとしたスープが、酒呑みの胃を癒してくれる……あら、このセットでもう〝シメ〟になってしまいそうだ。
だがしかし、私はまだまだここにいたい。つづいてやって来たのが、やはり〝鳥〟の店だけに焼き鳥だ。皿の左から『つくね、レバ、カシラ』のタレが、テリッテリに輝いて並んでいる。辛抱たまらず、串を抜いていく。
つくねはね、見た目で分かっていました。これは、おいしい肉汁のハンバーグに近い、私のタイプそのものだ。もしも子供がいたら、その子の誕生日はここのハンバーグ……いや、つくねを食べさせてあげたい。レバだって、すばらしい。鳥の肝感が強めで、これがコッテリと舌を楽しませて、ホッピー割りを促します。
大好物のカシラなんて、なにも言うことはない。なんでしょう……カシラそのものか、それともタレなのか? 甘ぁい、旨味がしっとりと口中に馴染んでいくようだ。
客層の幅が広い酒場っていうのは、その街に必要不可欠だ。ここの酒場はまさしくそれで、カップル、子連れ家族、オジサン会、ギャル二人組。決して相容れないグループ同士がひとつになれる場所なんて、酒場以外に在り得ないのだ。
そうそう、新潟に来てガッツリとハマったものがひとつある。それが『鳥半身唐揚げ』だ。すべてがそうとは限らないが、基本的にほんのりカレー風味の唐揚げで、最初は「えっ、カレー味の唐揚げ……?」と、まったくソソらなかったが、これが本当においしいのだ。
そして、ここの唐揚げがまた絶品だった。「カリィィッ!」と店内に響く、揚げたてサックサクの身。ふわりと香るカレーの香りが堪らず、こいつがまた鳥の肉汁と超絶マリアージュして、咀嚼するたびにため息が出る旨さなのだ。お土産で買っていく客がいるほど、本当においしい……全部食べつくすのが勿体ない。
口の周りのおいしいカレー風味を拭い、ああ……ホテルをもっとこの酒場近くにすればよかったと後悔した。ここからまたホテルに戻るのがしんどい。じゃあ、またタクシーで帰ろうかしらと思いつつ、あの美人運転手が他のお客さんの行先を間違っていないだろうか……と述懐する。
大雨、電車遅延、炎天下とタクシーでの一件。朝から色々あり過ぎて疲れたが、この酒場の心地よさにホロリと癒されております。
鳥竹(とりたけ)
住所: | 新潟県新発田市中央町3-12-7 |
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TEL: | 0254-24-9470 |
営業時間: | 17:30 - 23:00 |