横浜「千成」 ツンデレオヤジの目にも涙

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先日、釣りをやった帰り道、横浜の『千成』に初めて寄った。

 

本当は『のんきや』に行きたかったのだが臨時休業だった為、急きょこの店に行く事になった。

 

 

 

 

横浜駅から少し歩いたところにその店はある。

 

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中々素敵な外観。
これは楽しみだと中にはいると、

 

「ん? 予約してるか?」

 

と、小柄でぶっきらぼうな店主がお出迎え。

予約はしていない事を伝えると、無言で厨房へ戻って行った。

 

しばし面食らっていると女将が現れ、

 

「どうぞどうぞ、そちらの奥のテーブル席に座ってくださいな」

 

と、店主とは正反対にとても愛想のある対応。

 

 

この日は一緒に釣りをした友人3人で来たのだったが、テーブル席に座るとお互い”えらいところに来てしまったかも”とアイコンタクトをした。

 

 

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「お飲み物は何にしましょうか?」

 

と、女将に尋ねられたが手元にメニューがない。

 

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見上げるとわずかであるが品札が掲げられている。
ただし、飲み物は疎か値段も書いていない。

 

 

少し迷っていると、

 

「ウチは洒落た飲み物なんかないよ!」

と、厨房から店主の声が飛んだ。

 

「じゃあ、カルアミルクとかはないですかね!?」

と、冗談を振るも完全に無視。

 

苦笑いで、とにかくビールを頼んだのだった。

 

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「ウチは鳥料理しかないんですよ」

 

女将が優しく説明してくれた。

では一通り焼鳥を出してもらうことにした、というか、この店はそれが普通らしい。

 

 

 

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お通しの『もずく酢』『うずら卵おろし』とビールが届き、暫く待っていると女将がテーブルの真ん中にドンと大皿を置いた。

 

 

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箸休め用に大皿には数点の野菜スティックと『麹味噌』が添えられている。

まずは『ササミ』が置かれた。

 

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焼鳥というより『鳥わさ』を串に刺した状態のもので、ブリンブリンの肉質をまずは手始めに楽しむ。

 

 

 

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『ボンジリ』『砂肝』と続いた頃、一抹の不安が過った。

 

 

“つーかこれ、値段いくらなんだろう…”

 

普段は、特に酔っぱらっている時にはこんな事を思う事はないのだが、明らかに”コース料理”と言ってもおかしくない雰囲気。

 

さらに不安になったのが、私達と同じ3人客が会計をしているところを見ると”16,000円”を払っていたのだ。

だが、”この店主”に値段なんか聞いたら、塩をかけられて追い出されそうだった。

 

とにかく梯子酒のひとつの店だし、正直、お腹も膨れていたので、女将に”用事が出来た”と伝え、次の焼鳥で料理をストップさせ、会計を頼んだ。

 

 

 

そして最後の『とり皮』が届いたが、自慢の焼鳥コースを中断したためか、何か嫌な空気。

頃合いをはかって店を出ようと皆で話を合わせていると、突如として店主が私達のテーブルの横に立ちはだかった。

 

「何かやってる人か?」

 

店主が話しかけてきた。

 

「いやぁ、まぁ…」

 

と言うと、大皿に残っていた焼鳥を見ると、

 

「まだ残ってるぞ!冷めるから早く食べろ!」

 

と、凄んできたのだ。

 

皆で「はいぃぃぃ!」と我武者羅に焼鳥を口に投げ込んだ。

ぜいぜいと、残っていた焼鳥を食べ終わると、

 

「まだ味噌が残ってるぞ!」

 

と、残っていた野菜スティック用の麹味噌を、そのまま食べろと言う。

 

皆で「はいぃぃぃ!」と阿保みたいにしょっぱい味噌を口に投げ込んだ。

ひいひいと、残っていた麹味噌を食べ終わると、

 

「まだ七味唐辛子が残ってるぞ!」

 

と、焼鳥の薬味である七味唐辛子を食べろと言う。

皆で「はいぃぃぃ!」と言うわけがなく、

 

「食えるか!」

 

と言うと、店主はおもむろに七味唐辛子をつまみ、

 

「俺が食べさせてやる!」

 

と言い、私の口に無理やり七味唐辛子を詰め込んだ。
そして、友人2人にも次々と七味唐辛子を口に詰めるのだった。

 

 

「ウチの食べ物はな、全部”自家製”なんだよ!」

 

 

シーン…。

 

 

“そういうことか”と気づいた。

味噌や薬味まで自家製の酒場なんて中々ない。

 

かなり強引な店主の行動も、自分が丹精込めたすべての料理に対する”熱意”がそうさせていたのだった。

 

 

「そうだったんですか…、全部食べますね」

 

私達は残っている七味唐辛子をつまみ、今度は味わって食べた。

 

そして、それを嬉しそうに見ていた店主が、

 

「スープは飲んだのか?」

「お新香もうまいから食ってみろ!」

 

と、次々と自慢の料理達を持ってく来るのだ。

 

 

ツンデレは、”デレ”が始まると止まらない。

勿論、私達の会計の事なんてなかったことになっている。

 

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・・・

 

 

「おやじさん、帰るよ」

 

店主の”デレ”を味わっていると、隣のテーブルにいた客が店主に帰ると告げた。

 

「コイツは数年ぶりに来てくれたんだ」

 

と店主言い、その客と話はじめた。
その客とは長い付き合いで、客は現在横浜を離れているのだがわざわざ遠くから足を運んでくれたらしい。

 

 

「嬉しくて涙が出てくらぁ」

 

店主は瞳を潤わせ、何度もこの言葉を言いながら、その客を見送った。

 

 

自分自身でも”頑固”で”ぶっきらぼう”な事を分かっている。
だけど、そんなオヤジの作った料理を、愛して来てくれる客がいることが本当に嬉しいのだろうな。

 

 

・・・

 

 

「あと1年位で、店閉めようと思ってるんだ」

 

私達の帰りも店先まで送ってくれた店主はつぶやいた。

 

 

聞けばもう70歳。やはり体力が持たないらしい。

ここであえて”まだまだ頑張って”とかは野暮なので言わない。

 

私に出来るのは、近い未来に消えゆくこんな店を記事に残すだけなのだ。

 

「おやっさん、また来るから俺の顔おぼえておいてよ!」

「あー、わかった!」

 

 

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結局、会計いくらだったっけ。

 

 

まーいっか。

 

 

 

千成(せんなり)

ジャンル: 焼鳥、居酒屋
最寄り駅: 平沼橋駅から437m
住所: 神奈川県横浜市西区岡野1-16-10
TEL: 045-312-1985
営業時間:
定休日:

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投稿者プロフィール
2016-11-30-11-56-03
【出身地】
秋田県秋田市
【オススメの酒場】
信濃路(鴬谷)
【お気に入りの酒】
焼酎紅茶割り
【個人SNS】
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