板橋「大衆明星酒場」酒場うんちく言い合い大合戦
以前
板橋を歩いていた時
魅力的すぎる暖簾を見つけたことがある
時間がなく
そのタイミングで
暖簾を押すことは出来なかったが
頭の片隅には常にある
あの暖簾
サカペディア的に言う
いわゆる
赤羽で所用を済ませたその日は
時間に
余裕しかなく
導かれるように
板橋駅で下車した
むう・・・
まだ掛けられてないか・・・
ただ
店内に明かりはついており
曇りガラス越しに
あの暖簾も確認できる
現在
16時半
スマホで調べてみると
17時からのご様子
ならば・・・
お近くの
酒場でアイドリングをしながら
待つとしよう
そして
17時ピッタリに
再び店前に戻ると・・・
掛かっていた
いや
掲げられていた
の表現が合う存在感の暖簾
大衆明星酒場
大衆酒場明星
ではなく
大衆と酒場の間にあけぼし
お隣十条の
大衆斎藤酒場
と同じ字の並び
紺地に白文字ではなく
真逆の色合いだが
これもまたいい
目いっぱいの長さで作られた
圧巻の暖簾の幅
物干し竿2本をつなぎ合わせてある
ずっと見てられる・・・
が それだけではもったいない
心高ぶらせながら
扉を開いた
入店早々驚かされた
無造作にカウンターに置かれた
買い物袋
天井から垂れ下がる
ハエトリガミ
そして一番は
もう
先客の先輩がお一人で
呑ってらっしゃったことだ
先輩・・・
開店前から
いらっしゃったんですか・・・?
どうやら
お母サマお一人で切り盛りなさってる
ご様子だ
ホッピーをお願いし
腰を下ろした
と そこから
次々とお客さんが入ってこられ
カウンターはほぼほぼ満席に
待ち合わせをしていたかのように
皆様
声を掛け合ってらっしゃる
おそらく・・・
僕以外は常連さんだろう・・・
50代から70代であろう
黒帯感満載の諸先輩方のなかに
ヒヨッコの僕が
チョコン
としている
手の平に
あけぼし
と書いて飲み込み
気持ちを落ち着かせた
お酒で
更なる落ち着きを・・・
と思ってる矢先
隣の背筋のシャンとなされた
70代であろう先輩に
「その花は なんだかお分かりですか?」
と 話しかけられた
僕は委縮もあり
「へっ? あっ? へっ?」
などと困惑していると
「ホッピーの瓶に描かれてる花ですよ」
と 先輩
キョトンとしている僕に
続けざま
「ホッピービバレッジは昔 コクカ飲料という社名でしてね」
「・・・」
「コクカ 国の花 それは桜です」
と 放たれた
あっけにとられている
僕をよそに
諸先輩方は
「へー」
「そうだったんだー」
と 盛り上がってらっしゃる
「瓶のデザインで言うとさー」
逆隣の方も
言いたいことがあるみたいだ
「鯛を2匹持った エビスさんは有名だけどさ」
「ラッキーエビスな」
「キリンビールの 麒麟のタテガミのところにさ」
「・・・」
「カタカナで キ リ ン って書かれてるの知ってる?」
「それは知らなかったなぁ」
「じゃあ あれ何故かご存知ですか?」
あっ・・・
皆さんの
うんちくスイッチ
が入った音が聞こえた
「何故 古い店には 大きな鏡があるなんですが」
「贈与品っとかって書いてあるよな」
「何故 鏡を贈与するかってとこなんですが」
「・・・」
「大きな鏡に映して 店を広く見せるようにしてるんですよ」
「へーー」
「ヘーベー という名前のギリシャ神話の美人女神がいましてね」
「ヘーベー・・・?」
「ある時 ヘーベーは 酒の席でですね」
「・・・」
「ほかの神々に お酌 をして回ってるとですね」
「・・・」
「皆 美人からのお酌が嬉しくて 何杯も呑んでしまい」
「・・・」
「皆 めちゃくちゃ泥酔してしまったとのことなんです」
「・・・」
「お酌をギリシャ語で エリュエケ」
「・・・」
「へーべーのエリュエケで へべれけ」
「なるほどーー」
「やきとんでも 焼鳥 と呼ぶ店多いだろ」
「沢山あるよね」
「昔は鶏は高級品でさ」
「・・・」
「豚モツを串で刺して焼いたモノを 出し始めた店の店主がさ」
「・・・」
「客に 焼鳥って呼んだほうがイメージいいよ って言われてさ」
「・・・」
「じゃあ 焼鳥でいいか ってなってそう呼ぶようになったらしいよ」
「だからかーー」
「因みに その店ってのは」
「うんっ!!」
「思い出横丁の宝来屋だよ」
「へーーーー」
「この話は ちょっと趣向が違うかもなんですけど」
「ほう」
「パクリで有名な チェーン居酒屋の会社あるじゃないですか」
「あー はいはい あそこね」
「新店舗開発会議 ってのがあるらしいんですが」
「・・・」
「社員たちが 最近流行ってる店の メニュー を手に入れてきてですね」
「メニューって?」
「卓上に置いてある あのまさにメニューをですよ」
「・・・」
「それを 社長に見せるんですって」
「・・・」
「それを見た社長は うん と頷くんですって」
「・・・」
「ひと月後には 似たような店が完成してるんですって」
「なんだよその会議っ!! くだらねぇなっ!!」
「くだらない で思い出したよ」
「なんですか?」
「昔は大阪や京都に行くことを 上り」
「・・・」
「江戸に行くことを 下り なんて言ってさ」
「・・・」
「当時 伊丹や灘の酒が大人気でさ」
「・・・」
「江戸まで届く酒を 下り酒 って言ってさ」
「・・・」
「江戸まで届かない人気のない酒が 下り酒にならない って呼ばれてさ」
「・・・」
「それが語源なんだよな」
「・・・それは知ってました」
「泳がすんじゃねえ 恥ずかしいっ!!」
諸先輩方
うんちく話に
ご満悦なさってる
僕も
聞いてて楽しい
ただ・・・
少し怖い・・・
僕に
白羽の矢が
当たらないかと心配だ・・・
この席に合うような
うんちくなど
持ち合わせてはいない
悪い予感は的中する
「メモばっかり取ってないで お兄ちゃんも何かないの?」
何かないか豆知識・・・
この楽しい空気を
濁らせてしまうのは嫌だ・・・
絞り出せ・・・
あっ!!
「元祖下町ハイボールって よくあるじゃないですか」
「ボールな」
「天羽飲料の社長さんが 最初にエキスを卸したのがですね」
「・・・」
「堀切菖蒲園の小島屋 向島の伊勢芳」
「・・・」
「あと 平井の伊勢元の3軒なんですね」
「・・・」
「伊勢芳は閉店してしまったんで 本当の元祖を名乗っていいのはですね」
「・・・」
「小島屋と平井の伊勢元だけなんですよっ!!」
「・・・」
先輩方にリアクションはない・・・
「平井の伊勢元って どっちの?」
「えっ? えっ?」
「駅の北のほうか南のほう?」
「えっ!! 2軒あるんですか平井にはっ??」
「多分 お兄ちゃんが言ってるほうは閉店したよ」
「えっ? えっ?」
恥ずかしっ!!
下噛み切って死んだろか・・・
ホッピーの瓶割って
自らの頸動脈にブチ刺したろか・・・
ただ地獄に仏
隣の長老先輩が
「勝どきの かねます はウイスキーの天羽のエキス使ってるんだよね」
と 助け舟
「へー ウイスキーのエキスなんてあるんですね」
「ワイナーって ワインになるヤツもありましたな」
「へー へー」
「ガラナの ガナーなんてのもありましたね」
「あったあった 化粧品みたいな香りのヤツっ!!」
「今でもあんのかなー」
よかった・・・
僕の失態を無かったかのように
して頂けた・・・
長老・・・
今生きてられるのは
あなたのおかげです
「お通し ってのは注文が調理場に通った って報告として出してたらしいね」
「ハイサワー ってのは 輩のサワーって意味なんだよ」
「うわばみ ってのは蛇のことで 丸飲みするとこらからきたんだって」
先輩方の
うんちく大会は続いていく
失態の挽回に
僕も頑張りたかったが
めかぶのヌルヌルを見てローションを開発した男がいた
ぐらいしか思いつかなかったので
もう参加は辞めといた
「女将さん おあいそして下さい」
帰り際
長老にこう言われた
「おあいそ ってのは愛想が尽きたという意味で あまり好まれませんよ」
長老・・・
酒場・・・
勉強させて頂きました
大衆明星酒場(たいしゅうあけぼしさかば)
住所: | 東京都板橋区板橋1-18-2 |
---|---|
営業時間: | 17:00頃~24:00 |
定休日: | 不定休 |