吉祥寺「鹿角」アキタ ブルー『秋田の味』が恋しければここさ行げ!
『鹿角』
──これを見て、果たしてどれだけの人が間違わずに読めるのだろうか。私の故郷である秋田県にある町で〝シカカク〟という、思わず奥歯が抜けてしまいそうな読みづらさ……ではなく、正しくは〝カヅノ〟と読む。ただ、同じ秋田といっても私が住んでいた秋田市とは正反対の内陸部にあり、どちらかというと岩手県の方が繋がりが深いんじゃないだろうか。自分とあまり所縁がないところだと思っていたが、調べてみると鹿角には『尾去沢』という場所があり、そこには相当な懐かしみがあったのだ。
かつての尾去沢は、大きな炭鉱があり大変栄えたという。閉山後に『マインランド尾去沢』という当時の炭鉱の様子を見学できる観光施設となったのだが、幼いころは本当によくここへ連れていかれたものだ。観光用に整備されたものの、炭鉱の坑道は薄暗く不気味で、そこに突如として作業風景を再現するマネキンが登場するものだから、子供の私はそれは恐ろしかった。恐ろしかったが、親が「鹿角さ行ぐや。マインランドだや」と言うのを、楽しみに待っていたのだ。
「秋田の酒場に行きてぇなぁ」
今年は実家に帰ってゆっくりと地元の酒場を愉しもうとした矢先、大馬鹿野郎のウイルスが流行りやがったので、そうなると余計に秋田の酒場が恋しくなるものだ。都内だと秋田所縁の酒場である、十条の『田や』、高円寺の『田け』もいいのだが、もっとこう〝ガツン〟とリアルな秋田の味で飲りたい。そんな時にふと、『みんなの行って欲しい酒場』を思い出した。
店名『鹿角』(吉祥寺)
味論さん出身の秋田料理がとても美味しいです!
店主さんが秋田県鹿角市出身で奥さんと2人でやってらっしゃいます^_^
本格的な秋田料理が楽しめると思います!
このお店で『そふと新光』を飲んでから大ファンになりました!
桑茶で割るのがおすすめです!
マカロニサラダがジャガイモもはいっていてマカロニサラダとポテトサラダの半々みたいなかんじですごく美味しいです!
ポテサラ好きの味論さんに是非是非食べていただきたいですo(^-^)o大谷 さん
かなり前のご依頼で恐縮だが、今一度読ませていただくと何とも魅力的なワードが今の私の心を揺さぶる。『そふと新光』に『桑茶』、そして店名が『鹿角』。既にリアル秋田の匂いがプンプンするじゃないか。これは行ってみない手はない。さっそくその酒場がある吉祥寺へ赴いた。
『吉祥寺駅』
『闇太郎』に『玉秩父』など何度か記事に登場したが、この街には名店が多く昔からよく訪れている場所だ。駅から歩いて数分、いわゆる吉祥寺の〝スケベ街〟にある雑居ビルの二階にその酒場あった。
『鹿角』
おぉぉぉぉっ、なんて美しい暖簾だ! 真ん中に〝鹿角〟と大書されたうす藍色の暖簾は、客の頭を何度も割ったのであろう中心に向かって白く色褪せている。絶妙な褪せ具合、この暖簾欲しいなぁ。ここ最近では気に入ったかもしれない。そして、その両脇には鹿角の酒『千歳盛』の箱がビッシリ。なまはげのポスターに懐かしい料理名が並んだ黒板。もうここでいい、ここで飲らせてくれ。ここで十分秋田を堪能できそうだが、辛抱堪らずその美暖簾を割ることにした。
「いらっしゃいませ」
小さな民芸風店内には、秋田の祭りやイベントのポスターや地酒が収まる棚、壁には秋田ならではメニュー札がズラリ。どこを見ても秋田秋田秋田……! ここまで秋田愛をアピールしている酒場は、なかなかお目にかかれない。
おっと、なまはげ兄さんもお久しぶりです。今夜はその兄さんらが見守る小上がりが酒座となり、まずは〝例の酒〟を頂くことにしよう。
『桑茶割り(そふと新光)』
まさか、東京の酒場でこの味を味わえるとは……。私の実家では特に『桑茶』という、ちょっと独特な風味を持つお茶をよく飲んでいて、父親は焼酎をこれで割って飲んでいた。焼酎は『そふと新光』という思いっきり地元の大衆酒で、はっきりいってかなりクセが強めだ。もっと言ってしまえば、苦手だという人が多いと思う。ただ、それがこの桑茶と非常に相性が良く、気が付けば虜になってしまうのだ。酒郷の数ある銘酒を差し置いて、秋田の一般家庭の焼酎といったら間違いなくこれだ。
もちろん、我が家にも常備している。タヌキ親子のCMだって懐かしいなぁ。もう一度言うが、まさか、東京の酒場でこの味を味わえるとは……。
『ポテトサラダ』
料理のひとつ目は、紹介していただいたマカロニサラダ……はちょっぴり苦手なので、好物のポテトサラダにさせていただきましょう。レタスの上に、つんもりと乗ったポテトサラダは見るからにウマそうなシルエット。ゴロッとしたジャガイモの歯応え、あっさりと絡んだマヨネーズは家庭で作る母の味そのもので、ひと口食べる度に郷愁の念に駆られる。
『ギバサ』
ギバサは海藻の一種で、東京では〝偽物〟のギバサは何度か食べたが、〝本物〟のギバサを食べたのはここが初めてだ。何が違うかって、その強烈な粘りだ。スプーンを垂直に挿れた状態のまま立ちそうなくらい粘りが強いのである。
小鉢の底からスプーンで引っ張り上げて啜る。ここで本当に気を付けて欲しいのは、絶対に一気に啜らないこと。その強烈な粘りが喉を塞いで窒息する可能性がある。
口の中でゆっくりと租借しながら喉へ流し入れる。滋味深い味わいは、不摂生な呑兵衛の身体を癒してくれるようだ。
『味噌きりたんぽ』
実は鹿角が発祥とされるきりたんぽ。鍋だけではなく、味噌を塗って焼いただけのものを、切り身にして出してくれるのが解ってらっしゃる。軽く焦げた味噌の香りが漂うあつあつの所をカリッ──ンまいッ!! 焼き味噌の香ばしさの後に、ムッチリとした米の弾力と甘味。私は鍋よりこちら派で、秋田の道の駅でよくこの味噌きりたんぽを食べた。
「おぉ、久しぶり」
「よぉ、元気だった?」
私の後ろのテーブルには、先ほどから続々と先輩紳士が集まって来ている。盗み聞きするに、どうやら同窓会のようだ。秋田出身だろうか、こんな所を同窓会の場に選ぶとはすばらしい。そんな私の元へは、お待ちかねの一品が届いた。
『稲庭うどん』
秋田が誇る〝日本三大うどん〟は、先日初の秋田県出身の総理大臣となった菅義偉先輩と同じ『湯沢市』の出身。秋田美人の様に白くキメの細かいうどんを、濃い目の汁に浸してズールズル。普通のうどんと比べて、圧倒的な喉越しの良さ。啜った瞬間に、ツツーっと音を立てて流れ込んでいくのが気持ちいい──ンまい。讃岐、関西、福岡という〝強豪うどん国〟に負けじと、秋田らしい肌理のあるうどんで攻めるこのいじらしさが応援せずにいられない。
「あ! 来た来た!」
「どうも、こんばんは」
にわかに、先輩のテーブルに歓声が上がった。先輩らに遅れて、美人マダムがひとりでやって来たのだ。
「おう、〇〇ちゃん俺の横に座れや」
「おいおい、真ん中いけ、真ん中」
ワッショイワッショイと、そのマダムは先輩らに担ぎ上げられながら皆の真ん中に座らされた。さっきまでの男同士の飲り合いとは打って変わり、今度はニヤニヤ顔の好好爺だ。マダムはまさに〝オタサーの姫〟の如く、男らを転がしているのが見ていて楽しい。
平均すると70歳くらいか。もしかして先輩たちは秋田の、しかも鹿角出身の元炭鉱夫だったりして。皆、標準語で話しているので、ただの地元の集まりなのか、或いは東京に来て何十年も経ち、方言を忘れてしまったのかもしれない。
……そういえば、自分だって方言はとっくに出なくなってしまったなと、桑茶割りを見つめながら懐郷をする──嗚呼、そろそろ秋田で飲りたい、帰郷って秋田の酒場で飲りたい。
あー、
あー、
まだ、ちゃんと秋田弁は喋れるかな。小声で呟いてみた。
『もう、秋田さ帰っていいべがな?』
『いや、も少し。あど、も少しだべなぁ』
馬鹿っけのウイルスのせいで帰れね東京在住の秋田出身のやづ、ここはしったげ、あんべいいや。
鹿角(かづの)
住所: | 東京都武蔵野市吉祥寺本町1-25-4 |
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TEL: | 0422-21-4632 |
営業時間: | 17:30~23:00 |
定休日: | 日曜日 |