社寺で浄化、酒場で昇天!神様のご加護でありがた昼酒/茅ヶ崎「一里塚」
本格的に酒場めぐりをはじめて10年以上経つのだが、長くも短いその間に〝酒場の楽しみ方〟が変わってきている。昔はシブいを通り越した〝廃墟〟といってもいいような酒場を血眼になって探しては、一日にそんな酒場を何軒もはしごしたり、「どこだよここ!?」と発狂したくなるような駅に降りて、地元民しか行かないような酒場で店主や常連客と無理にでも会話したりすることこそが醍醐味と思っていた。
今でもそんな飲り方も好きといえば好きだが……やはりもっと計画的に、より落ち着いて飲るのが専らである。
最近特に好んでるのが〝お寺や神社からの昼酒〟だ。記事でもよく言っているのだが、私はレトロ建築が大好きで、可能な限り大正明治浪漫なレトロ建築からの酒場が好ましいが、どこにでもそんな建物があるというわけではない。そこで登場するのがお寺や神社。社寺めぐりも大好きで、どれだけ田舎でも都会でも、必ずその地域にあるという安定感。しかも、大小問わず、建物の造りも雰囲気もそれぞれまったく違うから楽しい。

先日、ずっと目を付けていた神奈川の『寒川神社』へ行ってきた。あらゆる災難を取り除くという、全国で唯一の八方除(はっぽうよけ)で知られる古社。とにかく広大な境内は、そこかしこに荘厳な雰囲気を放ち、神社というよりは王様の住んでいる家の敷地内にいるような感覚。

中に入って戻って来るだけで、なんだかパワーを貰った気分だ。やはり社寺はいい。強烈なパワーを頂いたら、あとは酒を頂くのみ。

ここから酒場までの道中が、オラ、ワックワクするのだ。

電車に乗って茅ヶ崎駅へ。北口から伸びる『一里塚通り』を歩いて数分、今日の社寺後の酒場はこちらになる。

その名も『一里塚』だ! モルタル低層ビルの一角に〝魚〟と大書された看板が目印。店先にはいくつもの暖簾と置けるところに目いっぱいに置いたメニューボード。

酒場というか、地方の港にある市場飲食店街にあるような雰囲気の佇まい。ぜったい、魚がおいしい店に違いない。急いで確かめに行こう。
「いらっしゃいませ~」

細長く奥まで続く店内は、ロッジ風のきれいなウッディ造り。12時まえだが、すでに何人かの先輩が飲ってらっしゃる。昼飲みが出来ることを確認出来てホッとしたところでカウンターに着席。お昼酒、いただいちゃいましょう。

瓶とグラスが見事に揃った親子ラベル。逆に、ここまで合わせて出す酒場は珍しいんじゃないだろうか。

ごくんっ……ごくんっ……ごくんっ……、うまっうまっうまっ! ほんのり、店内に何か香ばし匂いが充満していて、これを嗅ぎながらの赤星瓶ビールは最高でしかない。よし、この香りの元を訪ねよう。

まずやってきたのが『海鮮一里塚焼』だ。燻された大きな葉の上に、海老、イカ、枝豆、そしてそれを覆いかぶさるトロォ~リチーズ。そこには秘伝のタレが潜んでいて、香ばしさと旨味が上手に絡み合っている。

海鮮料理なのに、どこか山の囲炉裏で焼かれたような、味の旅の途中に現れる一里塚……通り過ぎるには惜しい、記憶に残る逸品。

酒場のサラダには、妙な安心感がある。『一里塚サラダ』も大皿にどっさり盛られたレタス、ツナ、コーン。ドレッシングは控えめで、コナン君風に言えば、見た目は家庭的、味は素朴で力強い。

〝一里塚感〟がどこにあるかはさておき、食べているうちに「一里塚っぽい」と思えてくるから不思議。酒場のサラダは、理屈じゃない。旨ければ、それでよし。

店内に流れるBGMは、さすが茅ヶ崎、サザンオールスターズオンリー。いとしのエリーから涙のキッス、エロティカ・セブンが流れる頃には気分は最高潮。湘南の潮風と共に、いよいよ海の幸をいただこう。

出たっ『刺身(小)』破格の1,650円! この値段でこの内容?と、まずは目を疑う。サーモン、ブリ、エンガワ、ホタテ、マグロ、キビナゴ、マダイ、クジラまであるぞ。小とは名ばかり、まるで海の玉手箱。

プリッとしたじんわり甘いホタテ、キビナゴの銀色が光るたび、鹿児島の海の幸を思い出す。脂の乗ったマダイは舌触りもすばらしく紅いクジラの赤身は、ねっとりとした極上肉の旨味。すでに、次に訪れたときの「大」サイズに想い焦がれてしかたがない。

海老、キス、ナス、マイタケの『天ぷら』オールスターズ。衣は薄く、油は軽やかサックサク。

旨塩をちょいと付ければ、海老の甘み、キスの繊細さ、ナスのとろける舌触り、マイタケの香り高さ……あの子もこの子も主役でありながら、ひとつの舞台で見事に共演している。
まさか、ここまでとは──思わぬところに、名酒場。ははあ……おそらく、これは神様のご加護を頂いたに違いない。

社寺で心を清め、酒場で舌を潤す。やはりこの順路が、今の私にはいちばん自然で、いちばん贅沢なのかもしれない。茅ヶ崎の一里塚で、今日もまた、いい飲り方をひとつ覚えつつ、次は百里、千里塚の酒場を目指そう。
──合掌さま。
一里塚(いちりづか)
| 住所: | 神奈川県茅ヶ崎市元町5-22 |
|---|---|
| TEL: | 0467-57-2015 |
| 営業時間: | 11:30 - 15:00 × 17:00 - 23:00 |
| 定休日: | 月曜日 |


