南千住「大坪屋」酒場の“魔女”へ逢いに23歳の女の子と山谷まで
初めてイカに「山谷」と言うドヤ街に連れてきてもらった時
南千住駅を降りてすぐのところにある「大坪屋」と言う渋すぎる酒場を目の前に
イカが
「ここ魔女おるで」
と意味深なことを言われたのを今でも鮮明に覚えている。
その日は土曜日だったのだが、何故か店はやってなく
今度来たときは必ず行こうと心に決めていた。
だが何度来ても、臨時休業だったりタイミングが合わなかったりで
行きそびれていた。
しかし今回やっと・・・
18時過ぎ
この日南千住に舞い降りたのには理由があった。
「私、山谷に物凄く興味があるんですけど、一人じゃ怖くて・・・もし良かったら一緒に付いてきてくれませんか?」
若そうな女の子から
SNSよりこうメッセージが届いたのである。
山谷という街は絶対に知っとかないといけない場所だし
ましてや年齢の若い女の子・・・
これを断る理由なんて一つもない。
酒場ナビの看板を背負ってる以上・・・
そして一人の男である以上・・・
日本三大ドヤ街である山谷を案内する事になった。
待ち合わせは南千住駅。
一足先に舞い降りたボクはすぐさま例の酒場の様子を見に行った。
「や、やってるぞっ!!!」
そう一人でガッツポーズをし、連絡をくれた女の子とすぐに合流した。
興奮してたボクは
まだ挨拶もちゃんと出来てない状態で
「大坪屋」にすぐさま乗り込もうとした。
しっかり暖簾引きで空席を確認し
おかっぱヘアーの似合う「サエちゃん」という
可愛い女の子と共にライドオンした。
「すんません~二人いけますかぁ~?」
勢いよく入店すると目の前に居た店員さんが
「ギャーーーっ!びっくりした~!!」
と叫んだ。
ボクは一瞬で分かった・・・
この方があの「魔女」さんだ。
「二人いけます?」
改めてそう”魔女”に尋ねると・・・
「に、日本人やね?日本語喋れるね?変わった子来たからびっくりした~!」
そう魔女に言われるのも無理はない。
この日
『対魔女策』として
髪の毛をグリーン色に染めてきたのである。
そっちが魔女ならこっちは”妖怪”だ。
この容姿にさすがの魔女も若干怯んだみたいで・・・
先手必勝の作戦は大成功だ。
「奥のテーブル座って~」
魔女にテーブル席を案内された。
コの字カウンターで
お客さんが魔女を囲むかのように座ってらっしゃるのが渋い光景だ。
ホールとドリンカーは魔女お一人でやられてて
忙しそうな様子である。
魔女に気を使いながら
なんとか邪魔にならないタイミングで
酎ハイと生ビールを注文する事に成功した。
「酎ハイ(200円)」
焼酎と氷が入ったジョッキとタンサンが渡され、自分で割るスタイルで
これが200円という安さにビックリだ。
やっとこさ落ちついて乾杯。
サエちゃんは
生ビールを上品に呑んでいる。
年齢を聞けば、なんと23歳との事だ。
初めましてのサエちゃんに色んな事を聞いてみた。
何故そこほど山谷に行きたかったのか?
今何をされてる方なのか?
「私風俗雑誌のライターやってるんですよ。」
「え、え?」
「吉原のソープ街は取材でよくいくんですけど、こっちの方まで行く勇気なくて・・・」
「なんやろ、イメージと全然ちゃう・・・」
「ずっとドヤ街には興味があったんですっ!」
「変な子やなっ!!」
会話の途中で
魔女が無言で「牛にこみ」を持ってきてくれた。
「牛にこみ(250円)」
濃い目の味付けで
酎ハイが進む。
牛モツを使ってるのに、250円という安さが有難い。
値段を上げるタイミングなんていくらでもあったと思うのだが・・・
続いて
「湯どーふ(200円)」が
またしても魔女によって、”無言”で運ばれてきた。
ただ茹でただけの豆腐に薬味を乗せて、ポン酢でいただく超シンプルな酒場の王道メニュー。
湯豆腐、これで良いのだ。
しかし・・・
この湯豆腐、取り皿が確実に必要なのだが
テーブルには取り皿はない。
そればかりか、ポン酢もなく
あるのは卓上の醤油のみ・・・
魔女に「すみません、取り皿とポン酢もらえますか?」なんて聞くと
「そんなもんねぇ~よっ!!」
と一喝されるかもしれないと言う理由でやめておいた。
一喝どころか”呪い“までかけられるのではないかという恐怖さえも感じたからだ。
「すみません、取り皿を・・・」
そう魔女に呼びかけようとするサエちゃんを
「あかん、今はあかんっ!!」
とすぐさま黙らせた。
そのくらい魔女は忙しそうに
“鬼の形相“で働かれていたからだ・・・
「まぐろ刺し(400円)」
新鮮でナイスビジュアルのまぐろ刺しは
ドヤ街酒場では珍しいレベルの高さ。
ここがドヤ街だったのを忘れさせてくれる美味しさであった。
てな感じで
もっと細かく食レポがしたいのだが・・・
魔女の言動がいちいち気になる・・・
「・・・ジュンヤさん?聞いてます??」
「えっ?あ、ごめん・・・なんて?」
「いつもこういう店、一人で行くんですか?」
魔女のせいで
サエちゃんの話が全然入って来ない。
もしかして何か変な呪文をかけられたのだろうか・・・
とにかくこのままでは
ただの”魔女ナビ”だし
『話聞かへんヤツ』なイメージがついて、サエちゃんにも嫌われてしまう。
一旦気を落ち着かせる為に
トイレへ逃げ込んだ。
トイレに書かれたメッセージが
お客さんの”大坪屋愛”を感じる。
イカが教えてくれた
手の平に「酒」という字を3回書いて飲み込むという
『酒場のおまじない』をしてから
席へ戻ると・・・
魔女とお客さんが何やら軽く揉めている。
「ママ、お釣りは?」
「え?さっきちょうど貰ったわよ」
「いや、ちゃんと計算してくれよ。お釣りあるはずだぜ」
「・・・あ、ごめんなさ~~~い。渡すの忘れてたわね。ごめんね。注文が重なって忘れてたわぁ~」
お客さんは機嫌が悪く、店内に若干悪い空気が流れる・・・
とにかく今酎ハイのおかわりを注文するのはやめておこう。
とばっちり食らうに決まってる。
仕事がひと段落した様子の魔女がボクの目の前に立っている。
魔女の背中を見ながら、色んな事を考えた。
何故魔女と呼ばれるのか。
何故そこまでキツイ接客を行うのか。
やはり地域柄、”この場所”で何年もやっていくには
このくらいキツイ接客をしとかないと成り立たないのであろうか。
元々は優しくて丁寧に接客されていたかも知れない。
店を守る為に、自分を鬼にして
このスタイルを貫き通してるのではないかと思う。
「実は優しいんでしょ~?」
そう心に思いながら、お会計をお願いした。
帰り際になっても魔女からのボクへのイジリは続いた。
「それどうやって髪の毛に色入れるの????」
「これ地毛なんす。」
「なぁ~に言ってるの!」
「ボク妖怪なんす」
「バッカじゃないの~!!」
魔女VS妖怪に
周りのお客さんにはどう映ってたのだろうか。
ツーショット写真をお願いしたいところだったが
最後の最後まで勇気が出ずに店をあとにした。
結局魔女には一度も怒られる事なく
無事大坪屋を堪能出来た。
しかしそんな事より
サエちゃんは楽しんでくれたのだろうか・・・
「こいつめっちゃビビってるやん」
「話全然聞かへんやん」
「髪型ダサっ!」
なんて思われてないだろうか。
若干マイナスからのイメージで
次なる『ドヤ街酒場』へハシゴ酒をするのであった・・・(続)
大坪屋(おおつぼや)
住所: | 東京都荒川区南千住4-4-1 |
---|---|
TEL: | 03-3801-5207 |
営業時間: | [月~金] 17:00~22:00 [土] 16:00~22:00 |
定休日: | 日曜・祝日 |