全国〝入りやすい食堂〟飲みくらべ!「半田屋」×「わが家の食堂」
何を隠そう、私は大の〝食堂好き〟である。
そもそも酒場ナビの第一回目の投稿が食堂でもあったほど、食堂への思い入れは深い。まず一番に、食堂は昼から……いや、朝から飲れるところがいい。酒類こそ少ないこともあるが、少なくとも瓶ビールと清酒は扱っていることが多い。あとは食堂だけに、アテになる料理の種類が多いのがうれしいじゃないか。
平日朝の九、十時くらいがいいかな……客がまばらな食堂の店内の四人掛けテーブルを堂々と陣取り、冷蔵ケースに入れっぱの冷えた瓶ビールをもらって、コップにトクトク。午前中のギンギラ太陽よろしく、スカッとしたのど越しがたまらんじゃないか。アテは朝食らしくハムエッグとウインナー、おひたしなんかあれば文句はない。テレビから流れる朝のニュースを聴くとなく聴きチビチビと……ね、食堂飲みって最高でしょう。
ショクドニストとしては、ガンガン食堂飲りを啓蒙はしているのだが、ただひとつだけ、勧めづらいところがある。それが〝入りづらさ〟である。例えばこれ──
……いきなり、こんな食堂に入って飲めと言われても、中々度胸がいるでしょう? 思い切って入ってはみたものの、女将さんや常連客にジロリと一瞥されて、モジモジなんざしようものなら「突っ立ってないで、そこ座んな!」なんて面倒くさがられるかもしれない。町の食堂はある意味ほんとうの〝地域密着〟で、大衆酒場より入るハードルが高いのである。
ただ、安心してほしい。そんな高ハードル食堂をクリアせずとも、もっと〝入りやすい食堂〟というものが存在する。それこそが〝ローカルチェーン食堂〟なのだ。
私がはじめてこの〝入りやすい食堂〟に訪れたのは、十年以上前。東京・幡ヶ谷にある『幡ヶ谷小町食堂』である。酒場ナビメンバーのイカに呼び出されて、待ち合わせの場所がここだったのだが、その入りやすさといったらなかった。いい意味で個性のない外観、ファミレスの様な明るい店内、安くて品揃えが豊富なメニュー。一発で気に入りまして、それからはこの〝入りやすい食堂〟の虜となった。
そんなローカルチェーン食堂は全国にあり、酒場遠征に行く際は必ず調べてから行くようにしている。その中から、二店の〝入りやすい食堂〟を飲みくらべてみたいと思う。
まずは、仙台を拠点に20店舗以上を展開する宮城県代表『半田屋』だ。同じ東北出身なので、存在は知っていたが入ったのは最近のこと。仙台駅構内にある『東口BiVi店』の外観からいこう。この地方駅ビル飲食店街が感満載の佇まいが落ち着く。そこへ店頭ディスプレイや〝酢豚 255円〟や〝混ぜそば 355円〟のノボリたちが「入ってくれ」と言わんばかりの誘惑だ。
そしてもうひとつ、都内は城東地域に4店舗ある東京代表『わが家の食堂』だ。こちらも最近知って訪れてみたのだが、見た瞬間に「これこれ!」とハシャいだ。単純明快、うれしい〝24時間営業〟の文字と〝お母さんの手作り〟や〝昔ながらの~〟の看板が昼飲みに心躍る。〝ライスおかわり自由 170円〟なんて、お相撲さんが来たらどうするの!?と、思わず心配してしまう。
まずお互いの外観に関しては……店頭ディスプレイと魅惑のノボリがあった『半田屋』に軍配だろう。あんな魅力的なものを見せつけられては仕方がない。続けて、店内の様子をくらべてみよう。
おほっ!『半田屋』は、入ってすぐに飲み物ラックとはめずらしいタイプだ。ラインナップも一般的なお茶やカフェオレに加え、食堂には珍しいギリシャヨーグルトの『パルテノ』や、懐かしいナタデココ缶もある。もちろん、酒もひと通り揃っている。
そして奥には、開けた飲食スペースが並ぶ。ざっと100人近くは酔っぱらえるであろう広々としているのが、地方らしくていい。よし、店のど真ん中で座ってやろう。
変わって『わが家の食堂』の店内は……あっ、コレだわ、コレ。広めのワンルームに、シンプルなテーブル席がズラッと並ぶ。光量は明る過ぎず暗過ぎず、大学や公共施設の食堂の様な気軽さ。要するに、この場で飲み食いをするにあたり無駄なものが一切ない。これは完全に入りやすいぞ。
うーむ……ちょっと悩むが、これも『半田屋』に一票だ。『わが家の食堂』の入りやすさは完璧なのだが、『半田屋』の安心感さえある広い店内と、地方駅の構内という独特な雰囲気にはやや劣ってしまう。続けて『OHS』といこう。
(O)おかずの(H)入った(S)ショーケース。これがある食堂は、やはり魅力度がアップする。『半田屋』のOHSは、厨房直結タイプがメインだ。このタイプのポイントは〝新鮮感〟があることだ。厨房側からそのまま目の前にポンと出すので、出来立てでおいしそうに感じてしまう。食器を置いてるステンレスがピカピカなのも高評価のひとつだ。
デ、デカいッ!! 見事としか言いようがない『わが家の食堂』のOHS。もはやスーパーの総菜売り場である。巨大なOHSには、大皿から小鉢が山ほど並び、焼き魚に煮物、刺身にサラダまで何でもござれだ。こうなると選ぶのが楽しみになって、酒のことを忘れてしまう。これぞ食堂のOHSマジックだ。
これはもう『わが家の食堂』の一本勝ちでいいだろう。やはりOHSは、大きいのがズドンと迫力がある方がいい。その中からその日の気分のアテを探すのは、本当に楽しい時間である。
はてさて、ここからがある意味本番だ。そのOHSにあるアテのラインナップは、食堂飲みにおいて一番重要なもの。ここが疎かではせっかくの食堂飲みの魅力が半減する。では、早速くらべてみよう。
まずやってきたのは『半田屋』の『ハムエッグ』だ。ハムエッグは、その食堂の〝鑑〟といえる一品。ここのハムエッグは、ウインナー・オン・ザ・ワンエッグだ。ちょっと固めに仕上げた黄身と、パリカリと焦げた白身のフチが、なんとも食欲をそそる。
プチリと破った黄身を、赤ウインナーに垂らして食べるのがグッド。ここに合わせるのが、地方ホテルの自販機でお馴染み『Slat』のレモンスカッシュサワーだ。まるで、ホテルの朝食(朝飲み)のような気分になってうれしい。
負けちゃいられない『わが家の食堂』のハムエッグは、キャベツ・オン・ザ・ダブルエッグである。固めに仕上げが私好み。割りばしでムンズと掴みかかって、そのまま口へインサート。休日に寝坊して、母ちゃんが居間のテーブルにラップ掛けしくれたハムエッグ感……なんだか懐かしい気分になるハムエッグだ。
『半田屋』の二品目は『ゲソの唐揚げ』だ。このコンガリーブラウンと添えキャベツに、ぐにゅりマヨネーズのビジュアルが最高だ。ちょい焦げの香ばしいゲソ、たまにそれをマヨネーズに沈めて頬張るうれしさよ。こんなのを出されたら、朝から晩まで飲み続けられそうだ。
出たっ、食堂のマストアイテム『焼き鮭』の登場だ! やっぱそうだよね『わが家の食堂』さん、食堂飲みのお供といったら、このショッパ目に仕上げた焼き鮭は外せないでしょう。こいつを端からチクチクと箸でつまんで舐めるように含み、手元にある酒で飲み込む。大事に残した皮を、これまたチビチビとしゃぶる様にして飲る。やっぱり、食堂は焼き鮭に限る。
そこへ投じる『半田屋』の三品目は『酢豚』である。むむっ、これはまさか店頭のノボリにあった255円の酢豚か!? うーむ、このボリュームで255円は驚きだ。
豚の唐揚げはもちろん、ピーマンとパプリカもの野菜もブッタ切りのてんこ盛りだ。量も然ることながら、味もしっかりパンチの効いた酢豚とくるから恐れ入った。
そして最後に『わが家の食堂』の切り札ともいえる、その名も『激辛カレー』が満を持しての登場である。一見「具なしか!?」と思いきや、スプーンでルーをすくってみると……
唐辛子をそのまま入れちゃったっていう! 具が唐辛子のカレーって……辛い物が苦手な私だが、それ以上に食堂が好きだ。この勝負を受けてたとうじゃないか。
エイヤ!と、口にスプーンを押し入れた……ん? あれ、それほど辛くは……ん?…… いや……待てよ、これ……めちゃめちゃ辛いぞ! ジグジグと針が刺すような刺激が舌を襲う。ただ、なんでだろう……もうひと口やってみたくなる不思議。そしてまた辛い……でも、またもうひと口。その途中に付け添えのゆで卵を齧ると、またさらにひと口やりたくなる無限スパイラル。これが朝飲みだったら、とんでもない目覚ましとなるに違いない。
さて……この勝敗は悩ましいところだ。ハムエッグだと、半熟黄身と赤ウインナーのコンビの『半田屋』だが、焼き具合がちょうどよかった『焼き鮭』と食堂であんなにパンチ力のある激辛カレーを出す『わが家の食堂』を評価したい。
総評すると、外観と内観は『半田屋』、OHSとアテに関しては『わが家の食堂』の二票ずつでドローだ。うむ、これは納得のいく結果だ。
ちなみに、両食堂ともにキャッチフレーズがあって『半田屋』は〝あなたの街の食堂〟で、『わが家の食堂』は〝暮らし応援食堂 〟である。お互い、なんて健全かつ爽やかなキャッチフレーズなんだろう。なおさらドローで間違いない、いや、この二つの食堂に関しては、これかも切磋琢磨と常にドローであっていてほしい。
私的には〝酒飲みの街の食堂〟や〝のんべえ応援食堂 〟なんてキャッチフレーズもおすすめしたいところだが、それじゃあ〝入りにくい〟か……これからも〝入りやすい食堂〟探しはつづく。
大衆食堂 半田屋 東口BiVi店(はんだや ひがしぐちびびてん)
住所: | 宮城県仙台市宮城野区榴岡2-1-25 |
---|---|
TEL: | 022-792-8085 |
営業時間: | 24時間営業 |
定休日: | 無休 |