新中野「藤吉郎」ただいま更新中!私の中の泥酔無記憶ランキング
酒場で飲り過ぎて、気が付いたら〝見慣れた、天井〟よろしく、自宅で目が醒めるなんてことは呑兵衛読者ならよくあるはず。大抵は「あー、頭が痛てぇ」で、ぼんやりと昨夜の愚行を思い出したりするのだが、稀にストンと記憶が無くなっていることはないだろうか。いや、あなたならあるはずだ。なんなら、その〝泥酔無記憶ランキング〟なるものを自分の中で格付けているくらいだろう。
私だと、ここ最近のランキングで一位になったのが、新中野『なべ屋』という酒場での出来事だ。友人と二人で入り、ホッピーを頼んだのが、それがまた〝ナカ〟の焼酎が濃くて濃くて……ナカを三杯飲んで店を出て、そのまま高円寺まで歩いた……までは記憶しているが、そこからスッポリと記憶が無くなっていた。
そんな時にかなり重宝しているのが『Google Map』である。
〝タイムライン〟という機能があって、GPS機能を使って自分の足取りを記録してくれるというスグレモである。その日も、例によってタイムラインを使って昨夜の足取りを探ると、確かに『なべ屋』を出た後、歩いて高円寺まで向かっているのだが、途中でラーメン屋に寄っていたことが発覚したのだ。
ラーメン屋に寄り、ラーメンを食べ、そこから自宅の家の鍵を開けて、ベッドに寝ていたのだ。この期間、完全に記憶がなかったのである。ラーメンを食べた記憶がないって……そんなことって、あるのか?
これは、間違いなく無記憶ランキング一位だ……と思っていた矢先であった。そんな不名誉なランキングというものは、なんでもない日に突如として更新されるのである。
それは、奇しくも同じ新中野の酒場でのことだった──
猛暑日が続く中、辛うじて涼しい日があり、散歩がてらに新宿から歩いていた。缶酎ハイを二本ほど飲み干したくらいに、今度は酒場を催してきた。ちょうど新中野駅があったので、駅前をしばし探索すると「おっ」と、パンチラでも見えたかの様な目で、一軒の看板に釘付けとなった。
爛爛と輝く大看板は『藤吉郎』であった。何度かここの近くを歩いたことはあったが、こんな酒場があったとは知らなかった。いい雰囲気だ、空の缶酎ハイを握り潰し、緑暖簾を颯爽と割った。
「いらっしゃいませー!」
いい雰囲気! 店内は外観よりも広々としており、テーブルが中心の民芸風。カウンターでは数人がユルリと飲って、奥の小上がりでは大所帯の先輩らで盛り上がっている。大衆酒場してるねぇ。中央の巨大丸テーブルに、今夜の酒座を決めた。
賑わってはいるが、どことなく落ち着いた雰囲気だ。よし、今日はゆっくり飲ろうかな。メニューを広げると、珍しいホッピーの〝赤〟が飛び込んできた。コンビニやスーパーだと見かけるが、酒場では意外と見ない。そうなると頼まない手はないのである。
「赤ホッピーでーす」
来た来た。さて、赤ホッピーをジョッキに注いで……ん?
あれ……錯覚か? やけに焼酎の量が……
錯覚じゃない! なんだ、この焼酎の量は!? ジョッキが小さいのか……いやいや、普通の中ジョッキサイズだ。じゃあ、氷が多いのか……これも特に多いと呼べるほどではない。単純に、焼酎の量が多すぎるのだ。一応、赤ホッピーを注いではみるものの、瓶を傾けたと同時に溢れそうになる。もはや、赤でも白でも黒でも関係がない焼酎濃度だ。
グビッ……ウゥッ……ウゥッ……、チョォォォォ濃ィィィィッ!! なんたるヘビー級の超濃度!! これは、近くにある酒場『なべ屋』の焼酎濃度を超えたかもしれない。なんなんだ新中野……この町だけ、水と焼酎は同価格なのか? それより早く胃に食べ物を入れなければ、それこそ『なべ屋』で飲んだときの二の舞になってしまうぞ。
まずは『ポテトサラダ』の炭水化物で、胃壁を固めよう。簡単なものかと思いきや、これが手の込んだポテサラだった。薄っすらと湯気が上がっており、芋は崩したてのホックホク。
人参、たまねぎ、キュウリとでざっくりとマヨネーズで絡め、口に含むと温かくやさしい味。マヨネーズがいやらしくなくちょうどいい量で、これはポテサラの中でも絶品の部類だ。
おっ、早くも一杯目を飲み終えたぞ。今夜は調子が良いみたい、意外とイケちゃうかもな。〝ソト〟の赤ホッピーは、おかげさまで大量に余っている。よし、どんどん行こう。
最近気が付いたが、『ちくわ磯辺揚げ』ってよくないか? 今までのイメージだと、ぬるくてパサついたよく分からないものだったが、この店のようにちゃんと手を掛けたものは、本当にウマい。
ザクッとした歯触りのあとに、熱々のちくわがムッチリとした食感でお出迎え。ほんのり青海苔の風味がたまらなく相性がいい。シシトウをオマケで添えてくれるうれしさよ。
ツヤツヤの『やきとん』は、塩のレバとカシラで決まり。プツっと弾けると、中からトロりとしたウマさが広がるレバ。もっちりと、でも肉々しい食べ応えはカシラじゃないと味わえない。どちらも、塩気がちょうどいい。
やはりウマいアテは、酒もゴクゴク進む……おやおや、またまた飲み干してしまった。やばいな、このペース……だけど、頭はスッキリしている。ここはどこだ、新中野だ。今食ってるものは何だ、やきとんだ。ほらこの通り、意識もしっかりあるのだ。ソトの赤ホッピーは、おかげさまで大量に余っている。よし、ナカをもう一丁、ヒャッホー!
二杯目……いや、三杯目?のナカと同時にやってきたのは『ニラ玉』だ。メニューにやたらと勧めてあったが、目の前にして納得。まるでケーキ、そう、ホットケーキみたいでおいしそうだ。上に乗っているのは……これは、あれか。
あれだ、あれ。あのー……ニラだ、そうニラ! これがね、ウマいんだ。ヒタヒタのだし汁が、じんわりと胃袋に染みわたるような優しい味。まるでケーキ、そそそ、あれだ、ニラ玉ケーキみたいだなぁ。
……あらっ? なんだよ、ホッピー無くなっちゃったじゃない。よし、じゃあ二杯目行こうか、二杯目、ヒャッホー!
「いやいや、ここまででいいから!」
「えー、これだけでいいの?」
向かいに座っている先輩が、おかわりのナカを店員さんから直接注いでもらっている。どうやら先輩はヘベレケの様子で、ジョッキ半分までの焼酎でいいとストップの仕草をしたが、サービス精神旺盛の店員さんは物足りないようだ。
ンフフッ……先輩ったら、だらしがねーでやんの。こんなにサービスしてくれる店なのに……もったいないよ。俺なんて……まだ二杯目だっつーのに……もう五杯は飲んだみたいな……最高な気分で……
──ストン
と、ここで何かが落ちた。そう、まるでブレーカーの如し〝意識〟が落ちたのだ。
「ハッ!?」と目が覚めると、いつもの〝見慣れた、天井〟である。あの先輩と店員さんのやり取りを最後に、まったく記憶がない。どうやって帰ったのか……私は横になったまま、恐る恐るスマホの『Google Map』でタイムラインを開いた。
まただよコイツ……またラーメン食っていやがる! おそらく身体に気を使ってなのだろう、野菜ラーメンを選んでいるところが腹立たしい。やれやれと身体を起こしてみると、なんと机の上には全く記憶のないセブンイレブンの『とみ田監修 デカ豚ラーメン』の食い散らかした容器が散乱していたのだ。
これには、さすがの戦慄を覚えた。つまるところだ……私は昨夜酒場で記憶を無くし、ラーメン屋で野菜ラーメンを食べ、その帰路で野菜ラーメンを食べたという記憶も無くした。その結果〝今日はまだラーメンを食べていない〟となったのだろう、さらに家でコンビニラーメンを食べるという、一日で〝二回記憶を無くした〟ことになるのだ。
……そんなことって、あるのか?
藤吉郎(とうきちろう)
住所: | 東京都中野区中央4-2-6 |
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TEL: | 03-3380-3967 |
営業時間: | 月〜土 17:00〜23:00 |
定休日: | 日曜日・祝日飛び石連休になる場合はその中日 |