練馬の〝料理がウマい店〟ふじよし・味よし・匂いよし!
「どうやって酒場は探してますか?」
こんなブログをやっているものだから、よく訊かれるんですよ。私も呑兵衛読者の方々と同じで、SNS、YouTube、ブログ……様々なメディアで酒場を探している。でも一番は、雑誌かもしれない。グルメ系以外にも、たまに週刊誌で芸能人用達の店や、街ブラ特集のムック本からネタを物色している。もうね、メモばっかりしてるもんだから、まったく読み進まない。一冊読み終わるのに何日もかかることだってあるのだ。そんなもんだから、そんなに酒場のある場所には詳しくもなく、酒場ナビメンバーやSNSで酒場を紹介してる方々の方がよっぽど詳しい。
ただ時間をかける分、調べた酒場だけは事細かに覚えている。さらにその知識を維持するために、普段からやっていることがある。酒場好きの友人が酒場に行くと、必ず私に店内や料理の写真の一部をLINEで送ってくるのだが、それを見てどこの酒場かを返信するという、まぁ〝酒場クイズ〟みたいなことをずっとやっているのだ。
これがね、結構答えられちゃうんですよ。酒場の場所は知らないが、酒場の〝側面〟には、詳しいのだ。料理の写真だったら、ポイントは食器、それで分からなければ料理が乗っているテーブル。それでも分からなければ、背景に映っている装飾品を見てみる。大抵、ここまで見れば「あー、あそこだな」と閃くのだ。
たまに気持ち悪がられるが、よく考えたら「皿が月島の岸田屋!」なんて即答されたら、確かに気持ちが悪いかもしれない。
久しぶりの練馬に訪れていた。というのも〝料理がウマい店〟の匂いを嗅ぎつけたからだ。前述の酒場の〝側面〟に詳しくなる、さらに副産物でネットにある酒場の写真を見ただけで、そこが〝料理がウマい店〟だということが何となくだが解ってしまうのだ。一番近い表現が〝匂う〟というのが正しい。元々嗅覚は敏感なのだが……店内と料理の写真をパパッと見た時に、ツーンとウマい料理の香りがモニターから漂ってくるのである。嘘じゃないんですよ、本当です。今夜もそいつを頼りに、練馬駅から歩くこと数分……ほら、匂ってきましたよ。
いい店構えですねぇ……香りの元は『旬味 ふじよし』である。小さなマンションの一階部分に控えめな看板を掲げ、派手さは一切なく暖簾をぼんやりと電灯が浮かび上がらせている。
看板と暖簾が無ければ、完全にただの住宅だ。中がどうなっているのかが気になる。はやる気持ち抑えきらずに暖簾を引いた。
「いらっしゃいませ」
おぉ……中はこぢんまりとしてはいるが、ピカピカのL字カウンターが眩しい。逆側の奥にはいくつかの座敷もあるようだ。カウンターの中では、鯔背な作務衣姿のマスターが、恭しく仕込みをしている。もう解りましたよ、ここは絶対に〝料理がウマい店〟に違いない。匂うんですよ、いい香りが。早速、瓶ビールをお願いする。
冷タイ瓶を持って、冷タイグラスにトクトクトク……ほうら、素敵なセットが眼前に。
トクン……クンクン……クンクン……、ク──ンッ、おいしいです、間違いないです。グラス置きを出してくる店のビールが不味いわけがない。さぁて、本格的に飲る前に、ちょいとツマみますか。
「自家製塩辛ください!」
「すいません、いま塩辛の時期じゃないんですよ」
なんと、塩辛が時期じゃないからと断られた! 塩辛なんて年がら年中、どこに行っても当たり前に出てくるもんだと思っていた……これはもう、まったくもっての拘りようだ。よし、じゃあ本格的に飲って飲ろうじゃないか!
うそぉぉぉぉっ!? これが『〆アジの刺身』だって……!? 大きな丸皿に、薄い切り身を花弁のように並ぶこの姿、これは完全にフグのお造りじゃないか! 真ん中にある、菊のお浸しが上品でならない。どこから手を付けていいものやら……ええいっ、フグらしく食ったらんかい!
箸で横からガサっといきまして、そのまま口の中へ押し込む──んまいっ! 新鮮プリリとした歯触りと、たっぷりの脂が舌の上で蕩ける。下ごしらえバッチリの菊も、しっとり優しい味わい。
えっ、パン粉からやるんですか?
メニューはどれも魅力的なものばかりで、その中から気になった『里芋のコロッケ』をマスターに頼んだ。すると、パン粉をトレイに入れて、そこから里芋の皮を剥いて、茹でて捏ねて丸めて、パン粉を付けて揚げて……イチからしっかりと作り上げたのだ。その結果……
うんまそぉぉぉぉ! カリッカリのアゲッアゲ、香ばしい匂いがこれでもかと鼻孔をガバガバにする。マヨネーズかと思ったソースは、なんとタルタル。あの丹精込めたコロッケにこんなのを付けたら、絶対ウマいに決まっている。
ザグッ、ザグッ!! アチッ……ホフッ……アチチッ……、うんめえ、正真正銘のうんめぇである。歯に衣のカリカリが伝わったと同時に、中からホコホコの里芋がネットリと溢れ出てくる感じ。淡白な里芋に、タルタルのコクと酸味が抜群にマッチしている。ひと言、傑作だ。
おいおい、すげぇぞこの酒場。さらにすげぇのが、注文して出てくるまでが早いことだ。里芋の皮を剝く自体が時間かかるのに、マスターのあっ晴れな仕事が成しているのだろう。そんな仕事で、一番驚いたのがこれだ。
ななんとっ、『ローストビーフ』だ! この店の雰囲気でローストビーフとはこれ如何に、と頼んでみたが、文句なしのビジュアルが現れたのだ。
「奥がモモで、手前がランプです」と、マスターが教えてくれる。ローストビーフに部位があったことすらよく知らなかった……まずは手前のランプから。
くぅぅぅぅっ! シトッとした周りと中の柔らかな舌触り、これぞローストビーフという生肉しい味わい。こいつはプロの仕業に違いない。
そのままモモに箸を出す。箸先から蕩け落ちてしまうんじゃないかという程やわらかで、口に挿れるとローストビーフなのか、自分の舌なのか分からなくなるほど自然においしさが纏わりついて離れない。そこへスッと主張してくる酸味は『梅酢』である。ポン酢はよく聞くが、本場イギリスもびっくりな発想である。
普段ひとりで酒場へ来た時には、まず言わないのだが、思わずマスターに「めちゃめちゃ!ウマいです!」と興奮気味に言ってしまった。だって、本当にウマいんだもの。
やはり私の嗅覚は、伊達ではなかった。
「ごちそうさまでした」
「ありがとうございました」
くんくんくん……
そうそう、〝料理がウマい店〟で飲った後は、身体に何ともいい匂いがまとわり付いて幸せな気分になる。無論、今夜もしっかりと匂っている。このまま家に持ち帰って、この匂いでまた一杯飲りたいところだ。
是非とも、今度から私に訊くときは「どこか匂う酒場ある?」と訊いてみてください。結構答えられちゃいますよ。
旬味 ふじよし(旬味 ふじよし)
住所: | 東京都練馬区練馬1-22-1 |
---|---|
TEL: | 03-3992-2444 |
営業時間: | [月・火・木~土]17:00~23:00[日・祝]17:00~21:00 |
定休日: | 水 |