今、新潟が熱い!(と思っている)大都会と世界遺産の間で独酌の夜/「居酒家こばちゃん」
〝新潟は東北地方じゃないって、何度言ったら分かるんだ!〟
これは新潟や東北出身者の〝あるあるネタ〟で、東京や西日本の出身者と地理の話になれば、高確率で〝新潟県は東北地方である〟と誤解されていることが分かる。東北は青森、秋田、岩手、山形、宮城、福島の六県で、新潟は中部地方だと教科書で習ったはずなのに……まぁ、どうでもいい話かもしれないが、東北側も新潟側もきっとウンザリしているはず。
秋田出身の私は、新潟といえば秋田と同じ米処で〝宿命のライバル〟という同等の感覚だったが、学生の頃にはじめて新潟にドライブで訪れた際に、それを完全に覆された。
秋田市内から友人と車に乗って六時間以上、夜中に出発して新潟市内に入ったのは朝方だった。車で走っていると友人が「あれ? 間違って高速道路に入ったかも?」というので、窓の外を覗くといつの間にか信号のない高架道路を走っていた。お金のない私たちは慌てて下道に降りようとしたが、しばらく走っているとここが無料(ただ)の国道、七号線であることが分かった。そのまま新潟駅前に辿り着くと、さらにその大都会ぶりに圧倒される秋田県民の私たち。さすが『田中角栄』のおひざ元。道路、建物への金のかけ方が半端ではないと、同じ日本海側の県民として大敗を喫したのである。
それから新潟に行く機会はなく、次に訪れたのがそれから二十数年後の現在だった。なぜ、今さらかというと理由はひとつ。酒場である。
「うわっ、都会だ!」
思わず学生の頃と同じように叫んだのは、その都会ぶりに大いに驚いたからだ。まず駅舎が長くて重厚、こういう駅は、表口(北口)も裏口(南口)も概ね栄えている。
エスカレーターを登って裏口から見れば……ハイ、都会。なんですか、この洗練された街は。米処なのだから、もっと田んぼが広がっている風景でもいいはずなのに、広い道路の奥までビルが並ぶ。
そして表口になると、もはや大都会。ズドンと伸びた東大通沿いは背の高いビルばかり。万代プラザ、一級河川の信濃川をまたぐ万代橋からは新潟市のシンボル、地上125mの『Befcoばかうけ展望室』が望める。
万代橋を越えたら、本題の繁華街である。新潟駅のスゴイのは、駅周辺はもとよりその規模の大きさなのだ。
やってきた繁華街には、立派なアーケード街も備わっている。秋田駅にもアーケード街はあるが……いや、比べるのは止めておこう。繁華街の東・西堀通りを散策していると……見えてきました、はじめての新潟酒場が……!
マンションだらけの一角に、ポツリと残る老舗の佇まい。モルタル二階建ての一軒家風の、二階部分のテント看板には『居酒家こばちゃん』と大書されている。居酒屋ではなく、居酒〝家〟というのにこだわりを感じざるを得ない。
看板以外は、暖簾や置き看板ともに控えめではあるが、こういう雰囲気の外観の酒場ほど名店が隠れている(持論)。さて、どんな酒場ドラマが待ち受けているのだろうか……中へ入ろう。
「いらっしゃいませ!」
おほっ、ちょうどいいサイズ感! 小さめの店内の半分はカウンター席、半分は小上がり二席と、奥にも数席ある。基本は民芸風の造りだが、壁にはびっしりとメニューや酒のポスターが張られており、まったく堅苦しくない。そうなれば、喉も心も緩めて酒をいただきたい。ストンとカウンターに座り、その時を待つ。
全国どこに行ったって、裏切らないのが瓶ビール。キンキンに冷えた瓶とグラスを、この美しくも味わいのあるカウンターに並べ、はじめての新潟酒場を始める。
ぐいっ……ぐいっ……ごくんっ……、酒が喉を通過する音が身体に鳴り響く。ああ、既にいいですね、新潟の酒場。この酒と共に、おいしい新潟の料理もいただこう、いや、いただかせてください。
その思いを悟ったかのように『イカとこんにゃくのお通し』が差し出された。何気なく箸をのばしてひと口……うまいっ! 張りのあるイカは旨味が強く、こんにゃくもイカの出汁をよく吸っている。ほんのりと温かみを感じる、飲み初めにはちょうどいい。
新潟といえば長岡市発祥の『栃尾油揚げ』は外せない。頼むときに「納豆入れますか?」とマスターから尋ねられ、「もちろんです!」と所望。やってきた栃尾油揚げのハーフサイズは、端から納豆が溢れる迫力のビジュアルである。
「ザクッ!」という快音が店内に響き渡ると共に、分厚くて香ばしい油揚げとたっぷりの納豆が口の中いっぱいになる。しかし、この組み合わせ以上に安くておいしい料理などあるのだろうか。どれだけお金持ちになったとしても、油揚げと納豆の組み合わせは旨いと思うはず。
「お兄さん、どこから?」
さりげなく声をかけてくるマスター。新潟に来て、これが初めての会話だ。正直、早くしゃべりたくてしょうがなかった。
「東京から来ました。二十数年ぶりの新潟ですけど、大都会でびっくりですよ!」
「ははは、じゃあ東京みたいでしょ?」
マスターいわく、最近は20人くらいの団体で外人観光客が来るらしい。新潟はだいぶ〝国際化〟しているとのことだが、この発展ぶりなら納得の自負だ。
それならば、グルメの方も国際化に耐えうるのかどうか、日本の酒場メニューの代表ともいえる『アジフライ』で試すしかない。まず、見た目の大きさよ! 手のひらほどあるそのビッグサイズだ。こんがりと揚がった黄金色に箸を入れると、中からモワっとおいしい湯気が立ち上がる。
ソースもなにも付けずにいただくと、サクサクの衣の食感とたっぷりのアジの脂が口中に広がる。とにかく、食べ応え最高。これなら、身体の大きな外国人観光客だって「Fantastic!!」とよろこんでくれるだろう。
今まで知らなかったのだが、新潟は〝南蛮エビ〟という名の『甘エビ』が有名だったこと。一皿で1,200円という、なかなかの高級品だったが、これがまたすばらしい逸品だった。
味が濃ぉぉぉぉいのだ! もともと甘エビは大好物なのでよく食べているのだが、これだけエビの味が濃いものははじめて食べた。舌に乗せるとネットリとしたエビの旨味が絡みつき、しつこい台風のようにいつまでも口の中にエビが留まっているかのようだ。
「新潟でおすすめの場所ありますか?」
「いっぱいあるよ、例えばね……」
これですよ。地方都市へ行って、おすすめの場所を尋ねてすぐに〝ここ!〟と答えられる人々がいることは、いい街に決まっている。この新潟もそうだ。マスターに尋ねると、ソコもココもと次から次へとおすすめを紹介してくれる。
そんなマスターは、新潟の離島『佐渡』の出身。特にその佐渡の魅力を教えてもらっていると、ちょうど店のテレビから〝佐渡の『金山』が世界遺産になるかもしれない〟というニュースが流れていた。マスターと二人で「おお、偶然だね!」などど観ていると、佐渡の人々が金山に因んで金色の千羽鶴を編んでいた。
私もそれに便乗して、マスターに佐渡の日本酒『金鶴』をお願いした。ささやかな、世界遺産登録の祈願である。
そして後日、佐渡の『金山』が見事、世界遺産に決定したのは、 皆さんもよくご存知のとおり。大都会と世界遺産……またもや、新潟という街に圧倒されるのであった。
居酒家こばちゃん(いざかやこばちゃん)
住所: | 新潟県新潟市中央区本町通8番町1364-1 |
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TEL: | 025-222-7683 |
営業時間: | 17:00~23:00 |
定休日: | 日・祝日 |