府中「としま」これがあるからやめられない!?酒場の個性で今夜も一杯
酒場の『個性』について考えることがある……いや、酒場ナビメンバーは全員、そればかりを考えて酒場に行くのである。例えば──
〝三代目、四代目、とにかく長い歴史がある酒場〟
〝こりゃウマい!! 酒と料理が最高の酒場〟
〝激安で大盛、でも出てくるまで30分かかる酒場〟
〝「……」無口だけれども実は優しい人情酒場〟
と、言い出したらキリがないが、酒場というものにはそれぞれ自然と培った『個性』というものが存在し、客はそれを求めてその酒場へと通うというものだ。
そしてその『個性』は、稀に思ってもいない場面で現れたりするもので──
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ある夕方、あまり訪れる機会がない西東京の『府中』を散策していると、商店街で素敵に色褪せた一角を発見した。
『としま』
夕暮れのブルーモーメントにくすんだオレンジ色のテント看板、それらを際立たせる煌々とした2つの提灯……前記した『個性』が、たっぷりと感じられるその佇まいがあった。
ベリーショートな暖簾もベリーグー、こんな『個性』を目の当たりにして素通りする訳にもいかず、さっそく《暖簾引き》をして中へと入ってみた。
ガラガラ
「いらっしゃいませー」
ほほう……
店内はカウンター席と小上がり、そのカウンターに並ぶ多種多様な酒類と飴色に染まった壁が、実にいい味わいを醸し出しているではないか。
コンクリートの床から生える錆びた丸イス達も、それぞれの顔(クッション)で客の尻をいまかと待ち構えている……店内も素晴らしく『個性』たっぷりだ。
そんな個性を眺める為、小上がり一等席へと酒座を決めるとマスターが酒を訊ねにやってきた。
「じゃあ……酎ハイに梅干し入れてください」
「ちゅうはい……ですか?」
この直後、マスターの〝個性的な注文確認〟を訊くことになる。特に関西地方だが、『酎ハイ』という言葉が通用しない酒場がある。そういう場合、大概は『焼酎の炭酸割り』で片付くのだが、ここのマスターは、
「……それって、シュワッとしたのですかね?」
という、実に個性的な確認方法だったのだ。私は「そうです、シュワッっとしたのです」と笑顔で言い、そのシュワ酒を待った。
『酎ハイ(梅干し入り)』
なんと……これまた個性的な酎ハイが出された。とにかく、氷が〝デカイ〟のである。おそらくカチ割りだと思うが、その巨氷はグラスからドッカリと頭を出し、北極の流氷の如くその巨体を酒に浮かばせている。今まで飲んできた氷の入った酒の中では、間違いなく一番デカイ氷である。
マスターといい、酎ハイといい……ここまで挑発されては、私も個性的に料理を注文するしかない。
『カニ味噌』
《永久欠肴》で、私の大好物であるカニ味噌。どんな酒場でも、とにかく見つけ次第注文するのだが……7割方は水っぽくて美味しくない。だが、ここのカニ味噌は平井堅の顔並みに濃く、箸先にちょんと付けて舐めるだけで酒2杯はイケそうなほどだ。
『カニ塩辛』
そう、またカニである。さらに珍味系で揃えるという〝個性返し〟で注文をしてみたのだ。しかし、この塩辛もなんたる個性的な味。ねっとりとした身を舐めると、しょっぱいような甘いような……独特の味に加えてカニ身の贅沢な食感がウマさを追随する。
さらには『鯛の柚子〆』に『のどくろ開き』、『ふぐの子糖漬』なんていう聞いたこともないようなメニューがさり気なく〝おすすめ〟としているこの個性的なメニュー群。やはり酒場というのは、そこでしか味わえない個性を楽しませてくれる最高のエンターテイメントなのだと、改めて実感させてくれる。
〝他にはどんなのがあるのだろう♪〟
繁繁と店内を見ていると興奮したためか、尿意をもようしたのでマスターにトイレの場所を訊ねた。
「トイレってどこですか?」
「奥にあるんですが……ドアノブを右に回して開けてくださいね」
はて? わざわざドアノブの回す向きまで指定してくるとは、これ如何に……? 不思議に思いつつも、私は「右にシュワッっとですね」と言ってさっそく奥のトイレへ向かうと……
『ドアノブは右に 最後まで回して開けて下さい!』
なんと、入口にも注意書きがあったのだ。やけに厳重だなと思いながら、トイレのドアノブに手をかけようとした目の前には……
『ドアノブは右に 最後まで回して下さい』
えっ!? また!?
ドアにはさらにもう一枚、別で注意書きが張られていたのだ。「いや、これは……」と、気になるのは2つの注意書き共に〝理由〟が書いていないことだ。うーむ、ただ事ではないな……『間違って』左にでも回したら高圧電流が流れるか、またはこの酒場がドリフの如く潰れてしまうのではいだろうか……? 私は深呼吸をして、小学生ぶりに右と左を念入りに確認をすると、
『間違って』、左へと回した。
ガ、チャ……
ゴクリ……
……あれ? 別に、何も起こらない……?
おっと、そうじゃない。
「し、しまった~! 『間違って』左に回しちゃってたじゃ~ん! テヘヘ」
そうだよな、いくら『個性』が強い酒場だからって、さすがにトイレにまでどうのとあるワケがない。そんなことより早く小便だ。
今度はしっかりとドアノブを右に回し、中へ入るとそこには……
便器とドアの間が尋常じゃない狭さという、やはり『個性』が待ち構えていた。
その狭さを是非、店に行って体感して欲しい。
としま(としま)
住所: | 東京都府中市宮西町1-15-6 |
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TEL: | 042-368-2471 |
営業時間: | 17:00〜23:00 |
定休日: | 無休 |