大山「ろくふみ」雨の日は立ち止まり、雨宿りで酒を飲む
「あれ? 雨降ってんじゃん……」
地下鉄駅から出てみると、雨がパラパラと降りだしていた。いっそ土砂降りだったら色々諦めがつくものの、この半端な雨量が鬱陶しい……梅雨だなぁ。
・
・
・
最近、都内にある温泉へ行くのにハマっていて、まずは風呂前に一杯、それから風呂後に一杯、これが私の温泉ルーチン。人気のサウナはそれほどだが、男ひとりの風呂はいいもんだ。温泉を出てからももちろん、近くで一杯飲ることにしている。
今日は温泉の後、板橋から大山まで散歩しながら酒場に有り付こうと思っていたが、駅を出ると小雨が降り出したのだ。傘を差しながら歩くほど面倒くさいことはないが、背は腹に……いや、雨は酒にかえられない。大山へと向かって雨の道を歩き始めた。
しかしまぁ、梅雨の雨の雰囲気もそれほど嫌いじゃない。ま、目的地までは割と近いし──
ポツ……ポツポツ……パラパラパラララ──
突然、小雨が強雨へと変わった。商店街は小走りをする人々で溢れかえり、私の肩やズボンも雨水に侵される。これは雨宿りが必要か……すると、目の前に大きな建物が見え、思わず駆け込んだ。
板橋文化会館の入口で雨宿り。参ったなぁ、大山のアーケード街はもう少しなのに。しばらく待つしかなさそうだが……ん?
目の前の建物の二階、『大衆酒 ろくふみ』の看板があった。さらに窓際では昼間っから飲っている、美人女子二人組の姿も見えるじゃないか……!
思し召しか……こりゃ、入るしかないよなぁ。本当はもう少し先に行きたい酒場があったのだが、雨宿りなんだから仕方がないな、これだから梅雨ってやつは……うっふっふ。
「いらっしゃいませ」
狭い階段を上がると、そこには喫茶店の居抜き然とした空間があった。こぢんまりP字カウンターと、奥は立ち飲みになっている。
窓際に見えた美人女子たちは、ファッション系専門学校の学生風。こんな昼間に、こんな酒場で立ち飲るなんて、その時点でセンスがいいよ、君たち。
「酎ハイください」
「はい、酎ハイですね」
空いている席に座り、すぐさまキャッシュオンで酎ハイを受け取ったのだが、メニューを見て「あれ?」となる。
レバフライ、納豆オムレツ、のりチーズ……このメニューのラインナップ、どこかで……まぁいい、酒だ、酒。
ゴクン……ゴクン……ゴクン……、うんめぇ。ジトジトした梅雨には、こうやって強タンサンの酎ハイでスッキリさせたい。さて、アテは何にしようかなっと……あっ!
この調味料のセット感、どこかで見たと思ったら……そうか『晩杯屋』か! 晩杯屋は東京のんべえなら知らない者はいない、激安立ち飲み屋だ。あのメニューのラインアップだってそうだ。スマホで調べてみると、やはりマスターは晩杯屋の出身。そして、晩杯屋といったら〝揚げ物〟を頼まない手はない。
とりあえずのレバフライと迷ったが、ここは『メンチカツ』しよう。ほぉ、皿の柄まで晩杯屋っぽい。
揚げたてのザクッとした衣から、じゅんわりとミンチ肉の汁が最高。あとはキャベ千にブルドックソースをドックリかけて、それでチビチビ飲るのがいいのよ。
揚げ物をもう一発。この『ししゃもフライ』の見事なコンガリ具合。レモンをヂュッと絞って、マヨネーズにちょん。
頭から喰らうと、中からポコっとしたしゃしもの身が、ちょいとほろ苦さもあって堪んねぇ。
外の雨が少し……弱くなったか?
別にずっと見ていた訳ではないが、美人女子たちもまだまだ話足りないご様子。マスターはひとりで仕込みを始めている。晴耕雨讀……いや、晴耕雨酒とは言ったもの……この雨の昼下がり、独特な静けさの中で飲るっていいよね?って、誰かと共有したい(できれば窓際の女子たちと)
たまーに、この『ガリトマト』出す店がある。でもって、すごくシンプルな料理なのに、ガリの酸味とトマトの酸味が絶妙に混ざり合って、新しい酸味が生まれる。安くて、ウマくて、簡単。さすが名代の立ち飲み屋出身のマスター、いろいろ解ってらっしゃる。
いかにも立ち飲み屋らしい変わり種、『具がない焼きそば』がやってきた。〝具がない〟といっても、大体の店ではちょっとだけ肉やモヤシが入ってたりするが、ここは本当に具がないという潔さ。
自分で頼んでおいてなんだが〝こんなのおいしいのか……?〟と、訝しげにススってみてると……うん?……おっ?……あれ?……これが、ウマいんだなぁ! 具がない分、逆に舌が麺本来のおいしさを探すというべきか。貧乏学生の頃に、オカズなしで白米だけ食べていた時のソレとは全く違う。メニューに〝焼きそば〟とだけ書いていて、これが出てきたら「オイッ!」となるが、やはり料理とは色々な意味で〝発想〟が大切だ。
「いらっしゃいませ」
「えーっと、ホッピーください」
何人かの客が入ってきた。そろそろいい時間かと、外の様子をうかがうと、雨は完全に止んでいた。
そうなると、もうここで雨宿りする口実がないってことか……いや、雨が降ってなくても雨宿りを続けたっていいだろう。そうだとも、『具がない焼きそば』だって、具がなくても立派に焼きそばをしているのと同じだ。
訳の分からない理論でもう一杯頼みつつ、やはり梅雨はそこまで嫌いじゃないと思う、六月の雨の酒場でした。
【閉店】ろくふみ(ろくふみ)
住所: | 東京都板橋区大山東町23-6 |
---|---|
TEL: | 080-9649-5888 |
営業時間: | [月・火・水・木・金] 15:00~23:00 [土・日・祝] 13:00~23:00 |
定休日: | 不定休 |