所沢「百味 所沢プロペ店」酒場ブロガーが合コンしたらこうなった
早いもので『酒場ナビ』を開設してから約1年半ほど経つのだが、仕事でも趣味でもこれくらいの年月を経験すると、所謂『職業病』みたいなものが養われる。
例えば酒場に行って《無意識》で料理の写真を撮ったり、《無意識》で気づいたことをメモしたり……1年半前までは〝男で料理の写真を撮る〟などオカマがすることだと思っていたのに、今では写真どころか〝玉まで切除る〟ほどすっかり『性転換』するレベルにまでなってしまった。
これが、酒場ナビのメンバーと一緒ならともかく、普通の友人や初めて会う相手が一緒だと、もはや自分でも気がつかないうちに『悲惨』な状況に陥ることがあるのだ──。
「え? 合コン?」
「そうそう、まぁ合コンって言うほどでもないんだけどな。味論も入れて男3、女3でちょっと遠出してさぁ」
ある日、友人男性から『合コン』の誘いがあった。
それも、よくある夜の居酒屋から始まり二次会はカラオケ……などではなく、昼からちょっとした『観光地』に集まり〝観光しながら親睦を深める〟という趣旨のものだったのだが私はそんな合コンなどしたことがない。
「都内からも近い川越駅に集まろうかと思ってるんだけど、夜にそっちの方で良い居酒屋ないか?」
「川越の方か……」
「だってお前、居酒屋ブログみたいなのやってんだろ?」
「うーん……まぁな」
「じゃあ、店選びは任せたぜー」
一応言っておくが私以外の男2人というのは、メンバーのイカとカリスマジュンヤではない。
あの2人と合コンだなんて……考えただけでも恐ろしくなる。
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──1月末の正午。
予定通り、私を含めた男女6人は川越に集合した。
『川越』は埼玉県の南西部にあり、都心からも1時間かからずと行ける『小江戸』として有名な観光地で、休日ともなれば町中が観光客でごったがえすのだ。
そんな『小江戸』を、色気づいた男女6名が挨拶もそこそこに街へと繰り出す。
有名な洋風建築の『りそな銀行』
川越のシンボル『時の鐘』
蔵造りの街並みを堪能しつつ、『菓子屋横丁』で食べ歩きなどをする。
なるほど、こうして〝観るもの〟があれば、初めて同士でも話のネタが出来て割とすぐに距離が縮まるものなのだな。
これはこれで、読者にもお勧めしたい。
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そんなこんなで、男女の青春時間というものはあっという間に過ぎ、日が傾き始めると友人男性は言った。
「なあ味論、そろそろ居酒屋に行きたいんだけど」
「居酒屋……ていうか〝酒場〟な」
「は? どっちだっていいだろ(苦笑)」
「……まぁ、目ぼしいところは調べておいたけど」
基本的に酒場ナビでは呑み屋のことを『居酒屋』とは呼ばず、『酒場』と呼ぶ〝こだわり〟があるのだが、周りの女子たちからは少し笑われているのが気にかかった。
「……じゃあ、これから電車で『所沢駅』に向かいます」
「えっ? あれ、川越に居酒屋はないのかよ?」
「あるんだけど、俺が行きたいのは所沢の……酒場なんだよ」
あからさまに〝面倒くさい〟といった表情になった友人男性だが、さすがの女の子達が気を利かせる。
「まあ、味論くんがせっかく探してくれたんだからみんなで行こうよ~」
「そうだね、ここからもそこまで遠くないし、じゃあ電車乗ろっか!」
友人男性は〝しらけるなぁ〟みたいな顔をしながら電車に乗り込んだが、そんなことより、実はずっと行きたかった酒場に行けると、私の方はテンションが上がっていた。
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所沢駅に着くころには完全に日が落ち、所沢駅前の商店街がネオンに染まっていた。私もほとんど来たことがない所沢で『Google Map』を頼りに、店まで男女5人を牽引する。
「みんな着いたよー」
「えっ……!? ここなの!?」
『百味 プロぺ店』
この〝プロぺ〟とは『プロペラ』のことで、実は日本の航空発祥の地である所沢に因んで『所沢プロぺ商店街』というものがあり、その通り沿いにあるのでプロぺ店というのだ。
因みにここは、『メンバーに行って欲しい酒場』に読者の『SIM犬』さんという方から依頼があった酒場でもある。
「なんか、ずいぶん大衆感があるな……」
「え……大衆酒場はだめかよ?」
「いや……まぁ別にいいけどさぁ」
あからさまな〝躊躇顔〟の男女5人。おいおい、この居酒屋ブロガーに高層ビルの夜景が見えるラウンジでも期待していたのか?……そんなことはお構いなしで私は誰よりも先に入口のある地下へ下った。
わ──っ!!
広──いっ!!
噂通りの〝超大箱〟だ!!
どちらかというと、私は狭い店より広い食堂感のある雰囲気の酒場が好きなので、きっとこの超箱にはみんなも興奮する……はずもなく、続く5人が『お化け屋敷』にでも入るかの様な面持ちで店に入ると、店員女性が席へと案内をしてくれた。
「奥の〝小上がり〟の席どうぞ~」
「ねぇ味論くん、小上がりって何……?」
「ははは、きみ小上がりも知らんのかい?」
「え……うん、ごめん知らない……」
あまりの〝酒場素人〟な発言に、思わず女の子を嘲笑しまったが……まぁいいだろう。
男女が入り混じる様に小上がりの席へ座り、各々がビールやらレモンサワーやらを注文した。
「よーし! 女の子たち、ちゃんとお酒持ってる!?」
「はーい!!」
まさに〝合コン〟らしい雰囲気。
友人男性が酒場恒例の〝儀式〟を始める……が、
「じゃあ、今日の出会いに乾……」
「酒ゴングっ!!」
「って……はぁあ!? ゴング……?が、何だって味論?」
「何って……飲み始めは酒ゴングだろ?」
「酒……ゴング……?」
〝何言ってんだコイツ〟という5人の視線がバチバチと私に向けられる。ここにきて本格的に自分はちょっと〝浮いてる〟のかもしれない……と思い始めるが、《サカバー》としてそんな事を気にしてなどいられず、そのままサカバーとしての〝職務〟を続けるのだった。
「みんな悪いんだけど、もう一回グラス同士をくっつけてくれる?」
「え……? あ、写真撮るんだー?」
「ごめんねー、味論てなんか居酒屋のブログやってるみたいでさぁ」
「えーそうなんだ? じゃあどっかいいお店教え……」
「……よし撮った、みんなもう飲んでいいよ」
「……」
……5人の冷ややかな視線を感じたが、それ以上によく冷えた酎ハイもそれはそれはでウマかった。
女性店員が料理の注文を促す。
「ねぇねぇ、みんな食べ物どれにする~?」
「あーちょっと! それはもう俺が決めてるから」
「えっ? 決めてるって……味論くんが料理を?」
「そりゃ決めてくるでしょ、えっと、ハムカツと刺身と……」
「あ! あたしサラダも欲……」
「それはまた今度ね、あ、あと鉄火巻きと……」
「……」
〝シーン〟って音を、こんなにはっきりと聞いたのは初めてだ。だが、ここで酒場ナビのサカバーとしてそんな事を気にする訳にも行かず、そのまま女性店員に注文を続けた。
『刺身盛り合わせ』
「わぁ!! 超おいしそ~! いただk……」
「ちょっと待った! それを〝持ってるところ〟の写真撮らしてよ」
「え……持ってる……とこの?」
私は既に箸を構えていた5人を制止して、いつもの料理撮影を始めた。
「こ……これでいいかな?」
「いやいや、もっとお皿をこっちに向けないと」
「こ……こう?」
「おい……もういいだろ味論」
「はいオッケー! いいね、ワサビもいい〝勃ち具合〟だよ!」
『……ナンカ……アノヒト……』
なんだか……ひそひそと声が聞こえ始める。これはあれだ、私が中学生の頃に『サバイバルゲーム』に耽溺していた頃、上下迷彩服で街中を傲然と歩き回っていた時に辺りから聞こえてきた『声』、そのものだ。
いやよかった……その時に〝打たれ強さ〟を養っておいて。
『鉄火巻き』
これも子供の頃、家で誕生日会をした時に『お母さん』が作ってくれた様な、〝良い意味〟で少し歪んだ味わいのある巻き具合だ。これも女の子に持ってもらう他あるまい。
「あの……これはこんな感じでいいの?」
「上手っ! きみは鉄火巻きをお母さんの様に持つね~!!」
「お、お母さん……?」
「おい味論、そろそろいい加減にしろよな!!」
「はいはい、さぁお母さんの鉄火巻きを食べようぜ」
『ハムカツ』
まるでハムカツの〝模範例〟といっても過言ではない見事な仕上がりだ。こんな『美ムカツ』には、もちろん女の子にソースをかけてもらう『画』が欲しくなるのは当然のことだ。
「え、え? あたし、ただソースをかければいいんだよね……?」
「そうすそうす、じゃあかけてみようか」
「……こう?」
「いやもっと……もっとハムカツのワレメに……!!」
「ワ、ワレメ……? って、ココのこと?」
「ああ……いいよいいよぉ、もっと……もっといっぱいかけて!!」
「ちょ……ちょっと、何なのコレ!?」
「うっわ、めっちゃエロっ、うわめっちゃエ……」
「味論!! テメーいい加減にしろよっ!!」
……ハッ!?
友人男性の『一喝』で我に返るも、もはや〝ヒソヒソ〟なんてレベルではない、ただの〝苦言〟である。
もし、ここでこの女の子に「このおじさん、変なんです!」と言われ、友人男性にも「何だキミは!?」などと言われたら間違いなく「何だチミはってか? そうです、私が変なおじさんです!」と言う自信があった──。
心身ともに距離を置かれた私は、その後同じ空間に居させて頂きつつ、しばらくは同じテーブルで酒を飲むものの、その後も5人との距離も縮まることはなく……
「じゃ味論、今日はおひらきで~♪」
と、言った友人男性の目には『解散』の二文字など微塵もなく、おそらく……これから私以外の〝5人〟で、合コンらしくカラオケにでも行くのだろうと察するばかりであった。
夜の8時か……
さーて、
イカとカリスマジュンヤと飲みに行こっと──
百味 所沢プロペ店(ひゃくみ ところざわぷろぺてん)
住所: | 埼玉県所沢市日吉町4-3 |
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TEL: | 04-2921-0100 |
営業時間: | 11:00~22:30 |
定休日: | 無休 |