本厚木「三百文」立飲伝説!!初めての厚木に愛羅武勇,OK
私がよく行く『四文屋』という東京『新井薬師』に本店を構えながら、全国に40店舗に迫る店舗を持つ西東京を代表する酒場がある。
江戸時代の通貨の『文』が現代価値でおよそ1文=25円だとして〝四文〟は100円。名前の通り、店内の殆どの『やきとん』を1本100円で食べることが出来るという味、料金ともに『安定』の酒場なのだ。
****
若干、暖かさを感じてきた三月に私は初めての『厚木』へと来ていた。
『本厚木駅』
〝厚木〟のイメージ……
うーん……
ズバリ言うと『ヤンキー』である。
もちろん個人的なイメージではあるが……いや、北東北の端に住んでいた私でさえそのイメージがあるということは、全国的にも少なからずそのイメージはあるのではないだろうか……。
恐る恐る駅に降り立った私は、とにかく目的の酒場へと向けて、安全のために車で移動……いや、徒歩で向かったのだ。
『立ち飲み処 三百文』
前述通り、1文が約25円だから……7,500円!?
とまあ、きっとそういう意味で名付けたのではないと思うが、ジャイアント馬場でさえ16文であることを考えれば中々の『凄み』……さすがは厚木だと関心をする。
店の中からは漢達の気炎する声が轟いていたのですぐに帰ることにした……などということはなく、《サカバー》として責務を果たすべく暖簾をエイヤと引いたのだ。
「いらっしゃーい」
約4坪ほどの店内に『M字型』の立ち飲みカウンターがあり、数名のオールバックヘアやダブルのスーツなどを身に纏った少し〝やんちゃ〟そうな雰囲気の《センパイ》方々が酒を飲んでいた。
これは本当に〝押忍!!〟と挨拶をしておいた方がいいかも……と思いつつ、奥の空いている席に行こうとした瞬間、
「あー、お客さん」
「ハ、ハイッ!?」
「今、席片付けるんでちょっと待っててね」
と、店の主人から前客の残した料理の『下げ待ち』を言われたのだ。
こちとら、映画『ターミネーター2』の冒頭シーンで、シュワルツネッガーが全裸で入る怪しげなBARにでも訪れた気分だったのもあり、久しぶりに酔っ払う前から小便を漏らしそうになった。
「どうぞー」
片付けの終ったカウンターに向かおうとした瞬間、
「あー、お客さん」
「ヒャ、ヒャイィィッ!?」
またもや店主から声がかかる。今度こそ新参者への〝かわいがり〟を覚悟すると……
「券売機で飲食券を買ってね」
「え? 淫職権……?」
立ち飲み屋でのキャッシュオンはよくあるが、ここはラーメン屋の様に券売機で『飲食券』を購入して酒や料理と引き換えるシステムだったのだ。そんなシステムは初めてだったのでシステンションが上がるのだが……
「390円の食券が一枚のみ……」
殆どの客が何度も追加注文をするであろう立ち飲み屋で、キャッシュオンではなく390円オンリーの食券制にする必要が果たしてあるのだろうか……と、若干の疑問を抱きつつも《センパイ》方々に金を持っているところを悟られないように数枚の食券をササっと購入した。
早速、酎ハイと淫職権を引き換え、〝初厚木〟への《酒ゴング》を独りひっそりと鳴らした。
そして、壁のいい具合に茶染まったメニュー札を眺め、厚木は割と海が近いイメージだったので、あえて『海鮮縛りメニュー』を注文したのだ。
『ツブ貝刺身』
ブ厚木ぃ!!
料理の出発は、大胆厚めに〝切っつけ〟られたツブ貝からで、ブリッブリと音を立てて貝の旨みごと口の中へと特攻むのだ。私は刺身や寿司にワサビを多めに付けて食べるのだが、かなり多めにワサビを付けて食べてもツブ貝の存在は衰えることはなかった。
『鯨の刺身』
ブ厚木ぃ!!
一瞬『積み木』でも出されたのかと勘違いするほどブ厚い肉塊。無論、その味の主張も素晴らしく、生肉の脂味が噛めば噛むほど舌に浸透し、思わず〝生肉〟と〝踊〟っちまいそうだった……。
『ネギトロ』
出される前に調理場のまな板からは、『中おち』と『ネギ』を包丁でパンパンパンッと、まるで『直管マフラー』の単コロが吹かす様な音が聞こえていた。そんな『直管ネギトー』は、ねっとりと舌を絡めながら舌楽を誘い、そのままマー坊クンと〝B突提〟まで疾風りたい気分にさせるのだった──。
「ココの店、初めてなんスか?」
立ち飲み屋にしては、クオリティの高すぎる海鮮メニューを堪能していると、入店時から私の隣で立ち飲んでいた女性が声をかけてきた。
「あ、はい……厚木も初めてでして」
「そうなんスか、ドーデスか厚木は?」
……なんとも艶麗な容姿の女性。少し〝やんちゃ〟な香水の香りと、おそらく『元レディース』であろう独特の化粧と眉毛、そしてしゃべり方に一瞬怯んでしまった。
「そ、想像してたよりより大きな駅で驚きました」
「まぁ結構、ヒトが集まって来るスからね」
〝人が集まって来る〟……それって〝夜の集会〟にという事だろうか……?
いやいや、そんな事よりせっかく隣客に声をかけてもらったのだから写真を撮ってもらおう。
「あ、あの……ちょっと写真撮ってもらっていいですか!?」
「写真? ゼンゼンいいスよ」
快諾了承で写真を撮ってくれる〝ヤン姉さん〟は、何度も私がツブ貝をシャブっている姿を丁寧に撮ってくれたのだ。もちろん、その後に怖い兄ちゃんが入ってきて「オイコラ、ワシのヨメにナニしとんじゃい」などという『美人局』的な事になることはなく、料理のおすそ分けや他愛もない話で〝ダベって〟いると……
「アタシの知り合いが、ここでオトコと知り合って結婚したんスよ」
「えっ!? ここで出会ってですか!?」
なんと、ヤン姉さんの知人女性がこの立ち飲み屋で男性と知り合い、そのまま結婚をしたというのだ。
そんなヤン姉さんは、その〝事例〟を期待しつつ、たまにこうしてこの立ち飲み屋に来るのだという……。
よく見ると『七瀬千秋』にも似た〝マブイ〟ヤン姉さんの言う通り、たしかに《センパイ》方々の話を聞いていても、どうもお互い〝今夜知り合った〟ばかり同士のようだった。
〝立ち飲みの優れた点〟
そのひとつに、客同士の『距離感』というものがあり、座って呑む時にはない独特な〝近さ〟が相手との距離を埋め、その酒場時間をより一層愉しませてくれるのだ。
もちろん、それはこの『立ち飲み処 三百文』でも同じこと──
『オレ、子供の為ならなんでもデキるスよ』
『今日のシゴト、キッツかったスわー』
『じゃあ、ジブン先に返らせてもらいマース』
『あ!! 〇〇サンお疲れ様ッス!!』
酔っ払いつつも、客同士は礼儀正しく、むしろ若者だらけの下手な酒場より余程いい雰囲気……
それはもはや『怖い』などというイメージなど皆無で、久しぶりに自分好みの酒場を見つけたという瞬間であった。
押忍!!
次もまた『夜露死苦』お願いします!!
──因みに、
独身の私は、せっかく色恋の〝事例〟があるということだったので、帰り際『七瀬千秋』に〝声をかけて〟みた……が、
もちろん『厚木純愛組』に発展することはなかった──
立ち飲み処 三百文(さんびゃくもん)
住所: | 神奈川県厚木市中町4-2-9 |
---|---|
TEL: | 046-295-0667 |
営業時間: | 17:00~?? |
定休日: | 日曜日 |