門前仲町「折原商店」おつかい角打ちノミタルジー
酒屋の一角で酒が飲める『角打ち』の魅力とは、やはり〝手軽〟で〝安い〟ことが一番の理由なのだと思うが、私が思う角打ちの魅力とは、それに加えて店に漂う独特な〝雰囲気〟というものがある。
下町の薄暗くて煤汚れた定番の角打ちから、閑静なベッドタウンにある明るい雑貨商店、有形文化財モノの趣がある店構え……どれも普通の酒場にはない、独自の雰囲気が角打ちの魅力ではないだろうか。
小学生の頃、よく父親にマイルドセブンを買いに行かされていて、そのおつかい先が家からすぐにあった『川口商店』という角打ちだった。子供ながらタダでマイルドセブンを買いに行くほどお人好しではなく、駄賃として100円を貰い、マイルドセブンと一緒に駄菓子やアイスを買って帰ってくるのだ。だいたい夕方に店へ行くと、店の隅でヤニ臭いオッサンが丸イスに座って飲っていた。アイスの製氷機の横で飲っているので、アイスを選んでいると必ずニヤニヤして絡んでくるのがとても嫌だった。だがその少年も30年後、全国にいるそんなオッサン達と混じり、酒を飲むことになるのだ……。
今では子供に煙草を買いに行かせる親は居ないだろうが、当時見ていた川口商店での光景は今でも鮮明に覚えている。
それから時は経ち、だいぶ大人になった私は、とある〝商店〟へと訪れていた。
『折原商店』
門前仲町にあるこの角打ちには、いつかの大晦日に酒場ナビメンバーのイカと訪れたことがあった。イカは当時からこういった酒場が好きで、その時もイカが行こうと言い出した記憶がある。それからは訪れる機会がなく、今日で2度目。妙に懐かしい気分でひとり足を踏み入れた。
入口に駄菓子コーナーがあるなんて、前に来た時は気が付かなかった。まぁ、角打ち自体が『大人の駄菓子屋』みたいなものなのだから違和感はない。口開けの店内には客はいないようだ。この状況で中へ入らなければ、近くに鎮座する門仲の八幡さまに怒られてしまう。急いで店の奥へと進む。
「いらっしゃいませー」
かなり暑い日だったので、まずは『赤星』でゴキュリ、んまいッ!! つまみのメニューをみると、角打ちの割には手の込んだアテが揃っていたので『駄菓子屋』にいる子供らしく、目移りしながら選んでみる。
『干しホタルイカ』
これだよこれ、これが大好きなんだよね。普通のスルメはあまり食べないのだが、このホタルイカのスルメは見つけたら必ず注文する。ワタのところに苦味があり、噛めば噛むほどその味は濃くなっていく。奥歯で〝噛み仕上げた〟ところを酒で流し込むのが最高。マヨネーズを添えてくれるのも、よく分かっていらっしゃる。
『おでん』
レジの横にあるおでん槽から、自分で好きなタネを選んで器に入れていく。これもまた駄菓子屋感があっていい。シュンデルガンモにシュンデルチクワ、続けてシュンデルたまご……いや待て、こいつらを赤星だけで終らせるのは勿体ない。ここはヤツの出番だ。
ドンッ!!
『純米吟醸原酒 山本』
やはりおでんには日本酒だろう。ここのマスターが秋田贔屓なのか、我が秋田の銘酒『山本』をはじめとする秋田の日本酒がズラリ。注文は、店の冷蔵庫から自分でその酒瓶を取り出し、レジで注いでもらうという趣向だ。自分の立ち席に戻ると、ひと口……
ツイー……キリリとうまし! 原酒の野趣あふれる男の酒だ。
待たせておいたシュンデルおでん達をカジり、またひと口……やはりうまいっ!!
『純米吟醸生酒 山本』
秋田贔屓ついでに、同じく『山本』をチョイス。冷蔵庫から一升瓶の首を握ってレジへ向かうときの喉の高鳴りようといったらない。今度は淡い濁りが美しい生酒。先ほどの男酒とは反対にラベルも女らしくピンクで可愛い。
ツイー……フレッシュな甘みがよし! その味わいたるや、まだ男を知らない生娘の如し。
そこへ一緒に貰っていた秋田の代名詞『いぶりがっこ』と合わせる。生娘に交わる、いぶり婆の対比がまたイイでねぇが。よーし、次の日本酒はと……。
居心地の良さと、酒肴のうまさでついつい飲み過ぎてしまう。日本酒ばかりで流石にベロベロだが、やはり角打ちというものはいい……この店も〝雰囲気〟で呑ませてくれる。
ふと、入口の駄菓子コーナーを見ると、小学校低学年くらいの子供たちが駄菓子を選んでいた。いっちょまえに10円、20円の駄菓子をあーでもない、こーでもないと吟味している様子が可愛らしく、ついニヤニヤと口元が緩む。
ん……? この光景どこかで覚えがあるような……
「はい、おつり」
子供たちは軽く頭を下げて、駄菓子を抱えながら店を出て行った。そのいじらしさに、どれだけこのオッサンが駄菓子を買ってあげたかったことか……あぁ、なるほどな。
幼き私に絡んできた川口商店のオッサンも、きっとこんな気持ちだったのかもしれない。そう思うと、なんだか随分歳をとったように思えた。
この子供たちも、将来のどこかで今日の光景を思い出すのだろうか……と、また空いた杯に酒を注ぐのであった。
折原商店(おりはらしょうてん)
住所: | 東京都江東区富岡1-13-11 |
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TEL: | 03-5639-9447 |
営業時間: | 10:30~22:00 |
定休日: | 無休 |