西永福「武蔵野園」#釣り #昼飲み #うまい #全部ある #そんな酒場と繋がりたい
最近はめっきりと行かなくなってしまったのだが、魚釣りに行って糸と垂らしていると、必ず思うことがあった。
「酒が、飲みてえな……」
まぁ、思うだけではなく実際には缶酎ハイを片手に飲みながら釣っていたのだが(安全柵あり)、つまるところ、釣り場でする釣りというのはそれに集中する場所なわけで、酒を飲むと何か半端な感じになる。酒の方に集中しようものなら、酔っ払ってそれこそ釣りにならない。私は釣りも酒も両方が好きなので、水面のウキを見ながらいつも想うことは〝釣り場に酒場があればいいな〟といことだ。
何処ぞの飲み屋では、自分の席から目の前の『生け簀』に竿を出し、釣れたものを料理してくれるサービスがあるらしいが、私の思い描く釣り酒場とはそういう作り上げたものではない。もっと自然体な〝釣りができる酒場〟なのだ。
釣りが出来て、酒が飲めて、ちゃんとつまみもあって、でもちゃんと温かい料理で、もちろんおいしくて……さらに、昼からそれが出来たら最高だ。
そんな酒場、あるわけが──、
あるんですよ。
『武蔵野園』
東京杉並にある『和田堀公園』という閑静な公園内にあるのだが、その外壁を張り巡らす赤い柵がひと際目立つ。何本ものノボリ、ガチャガチャにポップコーン自販機……よく見ると普通の家のようにも見えるこんなところで、そもそも〝釣り〟ができる場所などあるのか──、
あるんですよ。
『コイ・フナ釣り場』
建物に入り奥へ進むと、広い野外釣り堀があるのだ。大人1人30分500円から釣りが出来て、いつ行っても人がほとんどいないから釣りやすい。さっそく釣座を決め、糸を垂らしてみる。
釣りの初心者がよく言うのが「釣り堀なんて、絶対釣れるんでしょ?」だ。馬鹿を言ってはいけない。確かにこの堀の中には魚が必ず居るのだが、コイツらは〝釣られ慣れ〟している奴らばかりで、どうすれば釣り針を掻い潜ってエサだけを取るかを知っている〝エサ取りのプロ〟だ。人間と魚の知恵比べが勝敗の決め手で、海釣りよりはるかに難しく、スポーツ的な要素もかなり高い。
プロアングラーの高橋哲也ばりに何度もアワセるが、まったくヒットせず……。最近釣りをやらなくなったのは、私には酒場の神様はついていても『釣り神様』がついていないことに気が付いたからである。
アタリがなく30分も経つと、やはり酒が欲しくなってきた。釣り場の釣りであれば、片道何分もかけてコンビニへ行って、酒を買って、戻ってやっと飲れる……これが面倒臭いのだ。竿を置いて、すぐに酒を飲める場所があればな──、
あるんですよ。
『酒場』
釣り堀の中に併設された巨大なビニールハウス。そこにはテーブルが何席もある、大箱の『酒場』の光景が広がる。高い天井、透明ビニールで囲われているだけなので解放感も半端ではない。
今度はこのフィールドで酒座を決める。食堂のような雰囲気だから、瓶ビールくらいはあるだろう。いや、酒場と言わしめるならば自分が好きな酒を飲みたい……そうだな、ホッピーが飲みたいな。しかし、さすがに釣り堀でホッピーなんかあるわけが──、
あるんですよ。
『ホッピー』
しかも、めちゃめちゃ冷えてるッ!! ビニールハウスなので冬でもちょっと暑いくらいなのだが、これなら具合がいい。
ツイー……と、口を潤すと今度はアテが欲しくなる。濃い目のホッピーなんかを挿れてしまったから、枝豆や塩辛みたいな軽食では酒心を納得させられない。今、アテたいのは何だ……そうだなぁ、鶏がいいな。砂肝で軽く飲りたい。しかし、普通の酒場でも扱っていないところもある砂肝などあるわけが──、
あるんですよ。
『砂肝』
なんというボリューム! センキャベとオレンジの輪切りもうれしい。コリシコの歯ごたえに、黒コショウがピリリと効いてウマい。かなり気に入ってしまい、これだけ食べに来てもいいかもしれない。そういえば、料理が目当てで行こうと思う酒場なんて数少なく、静岡で食べた『おでん』ならそれ目当てで行っても……ん? おでんか……ここにあるかな──、
あるんですよ。
『おでん』
自家製おでんではないと思うが、ちゃんと土鍋で出してくれるのが素晴らしい。釣り施設の休憩場にも、大概おでんを置いているが、基本的にプラカップなので味気がない。私は、コンビニおでんも必ず器に入れ替えて食べるので……と、そんなことはどうでもいい。今はこの土鍋の温かいおでんを、チビチビとアテられたら満足なのだ。
5人の子供連れ家族が入ってきた。小学校くらいの男の子と女の子、平日の昼間に学校はどうしたのだろうか。お父さんとお母さんはビール、おじいちゃんは緑茶割りを飲っている。子供たちがおいしそうに食べはじめたのは……あれは、オムライスか?……いや、そんなものが釣り堀にあるわけが──、
あるんですよ。
『オムライス』
めちゃめちゃ、ンまそうっ!! お洒落すぎず、家庭的すぎずの絶妙なビジュアル。マッタリと垂れ広がった、真っ赤なケチャップがなんとも色っぽい。このオムライスは、きっと〝メス〟だな。
そうなるとパッカリと股を広げたくなるのが〝オス〟の性というもの。大胆にスプーンで股のチキンライスをすくい上げ、そのままムシャブリつく──、ンまいッ!! ふうわり玉子と洋食風味のチキンライスを、キュンと甘酸っぱいケチャップソースが包み込む、安定かつ完璧な味わい。加えて今、釣り堀でオムライスを食べているのだという、不思議な隠し味。これは家庭では出せない……いや、普通の酒場でも出せない──そう、この釣り堀でなければ出せない味なのだ。
〝なんでもある釣り堀〟
いやまて、もしあれがあったら今の言葉を出すことにしよう。あれとは、『鍋』だ。鍋なんかが釣り堀で食べられたら凄いことだぞ。いや、さすがに無理だろう。だってここは、釣り堀なのだから──
『寄せ鍋』
あった……つーか、本当にあるのかよ!! 季節限定メニューらしいが、これはさすがに驚いた。しかも、はじめから煮込み切った一番おいしくなった状態で出されるのだ。あっさり醤油ベースのスープには、豚肉、豆腐、白菜、ネギがその名の通り、身を寄せ合って煮込まれ、どれも温かくやさしい味。隠れキャラのツミレがブリンブリンの食感で、これがいいアクセントになっている。
釣りが出来て、酒が飲めて、ちゃんとつまみもあって、でもちゃんと温かい料理で、もちろんおいしくて……さらに、昼からそれが出来たら最高だ。
そんな酒場、あるわけが──、
あるんですよ、完璧に。
もしも、あるいは奇跡が起こって私が結婚できたとしよう。確実に、結婚式の披露宴をここでやりたい。高砂席からの光景は、スーツ姿の男子らが釣り堀でフナ釣り、ドレス姿の女性陣がビニールハウスで寄せ鍋とケーキ、子供たちはオムライスを頬張っている──そんな披露宴、最高じゃないか。
さて、そろそろ釣りを再開しようか。次は絶対に釣ってやる。まぁ、そんなヤル気を出しても、しばらくすればまた酒のことを想うのだろう。
次の休憩の時は、そうだな……晩飯ついでに『丼』でビールなんかがいいな。
そうなると、親子丼だろうな。でも、親子丼なんてあるわけが──、
武蔵野園(むさしのえん)
住所: | 東京都杉並区大宮2-22-3 和田掘公園 |
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TEL: | 03-3312-2723 |
営業時間: | 9:00~17:00 |
定休日: | 火 |