「松ちゃん」この名前の酒場はぜったいに名店!…っていう私的ジンクス
「う~ん……あっ、わかった。松ちゃんだ!」
飲み会や合コンをしている時に〝誰に似ているか〟という話題になったことがあるだろう。私も今までに何度かその話題に出くわしたことがあるのだが、そこで一番言われるのがダウンタウンの松本人志、松ちゃんである。自分では「似てるかなぁ?」としっくりはきていないものの、あまりに言われるので芸能人の誰に似ているのかをAIが判別するスマホのアプリで診てもらったところ、三回やって三回ともそっくり度90%以上だった。
こうなれば認めざるを得ないのだが、ここにひとつの〝ジンクス〟を思い出した。合コンでこれを言ってきた女子とは、その後〝ごっつええ感じ〟になることが何故か多いのだ。たまたまなのかもしれないが、それこそ的中率は90%以上である。
さらにもう一つのジンクスがあるのだが……いや、こちらの方がよっぽど大事だ。それは〝まっちゃん〟という名前の酒場は、名店ばかりだということ。これも実際に私自身が体験したことで、例えば亀戸の「松ちゃん」は、とにかく料理がおいしい。半生の『皮なし焼売』や肝をまるごと添えた『イカ刺し』は絶品だ。国立の『まっちゃん』はやきとんの名店で、鮮度抜群の肉と芳醇な旨味たっぷりのタレがすばらしい。それに、店の雰囲気もかなりいい。この二店だけでも相当お気に入りで、正直なところ教えたくないほどなのだが、さらにもう一つ、これまた良い〝まっちゃん〟を見つけまして……
亀戸、国立と総武線が続いたが、こちらもまた総武線の平井駅。かつては『平井三業地』という花街だっただけに、古い町並みが結構残っている。残っているということは、古き名酒場も残っているということ。駅から酒に向かって歩いていると、見えてきましたよ。
いいですねぇ、平井の『松ちゃん』である。レンガ調の比較的新しい建物に対して、褪せまくった紺暖簾のコントラストがステキ。昔の割烹にあるような、店先のショーケースに並ぶ日本酒瓶がいい味を出している。
宵闇の背景に、ぼんやりと灯る赤提灯の美しきことよ。もう、外観だけで満足してしまいそうなので、さっそく中へと入る。
「いらっしゃいませ~」
うっひゃおぉぉぉぉ、こりゃ絶景だ! 中へ入って奥に広がる小上がり、この鶯色の壁のセンスよ。こんな壁の色は初めてで、そこへ〝実家の客間系〟重厚テーブルが不揃いに並んでいる。この重厚テーブルは、爆弾を落としても壊れないほど硬く安心感がある。畳のクッションに座ったとたん「お・ち・つ・く」と、図らずも声が漏れる。
もはや注文なんかせずに、このままのんびりとテレビでも……というわけにはならない。大衆酒場の雰囲気に似つかわしくない、注文用タブレットをピポパと押す。
まずは〝他人グラス〟でコンニチハ。サッポロの赤星を、アサヒの小グラスへ並々と注ぐ背徳感よ。
ゴクンッ……ダイゴロウ……キャシイ……、ウマインジャイ、松ちゃん最高! やはり瓶ビールは、畳の上で胡坐をかいて飲るのが至高だ。この体制のまま、早くアテを頂きたいものです。
まずは『アジ姿フライ』だ。〝姿〟という文字を足すだけで、どんだけウマそうに聞こえるんだ。そびえ立つ二棟のフライにたっぷりのソースを垂らし、ガリサクの衣にかぶりつくと、中からは新鮮とろふわのアジがとろりと溢れる。
ネタの良さも然ることながら、とにかく揚げ方が抜群にいい。「アジフライのおいしい店は?」と訊かれたら、間違いなくここだと答えるだろう。
エキセントリック!『赤貝ヒモ』をグランドメニューに置いてある酒場は間違いない。しかもコリンカリンと新鮮な歯ざわりで、スイカの様な爽やかな風味がたまらない。私は女性に、できれば吉岡里帆似の美人に、赤貝ヒモで編んだマフラーをプレゼントしてもらうのが夢なのだ。
MR. BATER、出たー『キンミヤ&タンサン』のセット! 周りの先輩方がみんな飲んでいたので、思わず頼んだが大正解だ。飲んだら胃に穴が空くんじゃないかほどの強タンサンが、見るからに呑欲を誘う。こいつにキンミヤを入れたグラスへバチバチと音を立たせながら注ぎ、一気に飲み込む──ジュワラジュワの喉越しと、まろやかなキンミヤとの相性はやはり抜群でしかない。
バッキバキの酒には、このよく太った『ハツ刺し』がいいに決まっている。信じられないくらいの重厚な切り身は、赤々と輝きを放っている。
見たまえ、この新鮮なるしずる。ニンニクをたっぷり目に付けて思わず食らいつくと、ン──ッ、なんて肉々しい味わいなんでしょう。プツンプツとした歯触りから、新鮮な臓器の旨味が弾ける。嗚呼……レバ刺しを思い出させるこの感じ、これはハツ刺しの中でも間違いなくトップレベルだ。
さあ、メインディッシュのお出ましだ。名物『松ちゃん鍋』は、キャベツ、豚肉、モツ、ニラのピリ辛煮込みだ。レンゲで大きく掴み取って、小皿にワンバン、一気に口へインサート。
しょうた!ウマいっ! シャグシャグのキャベツ、モチチンの豚肉、スープをバシャバシャに吸ったニラのおいしさ。辛すぎず甘すぎずの絶妙なるスープは、このままセブンイレブンで全国販売すべきである。
「あ”ぁ~さいこぉ~!」と、後ろに寄りかかると、背後の地袋には謎のプリンター。「それねぇ、お父さんが通販でパソコンと一緒に買ったんだけど、全然使わないのよ」と、どこからともなくお母ちゃんの愚痴が聞こえてきそうな、この店の家庭的な雰囲気が、何より和んで飲り勝手がいい。
──ほらね、〝松ちゃんジンクス〟は、やはりここも的中してしまったようだ。酒と料理が抜群にウマくて、店の雰囲気もいい、百戦錬磨だ。まいったなぁ、これからも店名に〝まっちゃん〟とあるものは、必ず立ち寄ることになってしまった。
ちなみに、私が〝誰に似ているか〟の二番目に多いのは〝ラクダ〟である。こちらの方が、自分的にしっくりときているから腹立たしい。でもそうか、今までのジンクスを信じれば〝ラクダ〟という名前の酒場を探してみれば、ひょっとすると……? んなあほな、あほあほマン。
松ちゃん(まっちゃん)
住所: | 東京都江戸川区平井3-26-4 |
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TEL: | 03-3638-1682 |
営業時間: | 火水木日祝 17:00〜23:00 金土 17:00〜24:00 |
定休日: | 月曜日 |