イメージと違い過ぎ!名物「タワー硬焼きそば」が凄過ぎた… 川崎「太陸」
昔から抱いている〝イメージ〟というのは、中々変わることはない。40年以上生きているともなれば、それこそ顕著になる。何かされたわけでもないのに、私はヘビやカエルなどの爬虫類はダメ、ゼッタイ。そうかと思えば〝ゴキ〟が突然現れても何も思わない。イメージというのは、ある意味、独善的で人それぞれなのだ。
食べ物もイメージが強い。いわゆる〝食わず嫌い〟というやつがそうだ。グリンピース……私はこの文字を打つことすら毛嫌いする。そもそも食べた記憶がないし、味だって思い出せないが、ただただ、こいつのイメージが悪いのだ。シュウマイにめり込んでるヤツもあるでしょう? あれもダメ。「そんなの、取って食べたらいいじゃない?」と周りは言うが、よく見てくれ。ほじくり出した穴に、グリンピースの緑が移っているだろう。その時点でダメ。
ちょっと極端なところはあったが、あとは〝人〟に対するイメージというのも中々変わらないものだ。ほとんどは出会った時の印象で左右されやすいが、顔が生理的にダメとか、なんとなく怖そうとか……自分で抱いたイメージが、その後の人付き合いに大きく影響してくる。
ただし、逆も然りであることも忘れてはいけない。ずっと抱いていたイメージが、あるきっかけから突然ひっくり返ることだってある。
ある日、私は埼玉の大宮にある『武蔵一宮氷川神社』へお参りに訪れた。私は社寺が大好きで、初めて行く土地は必ず探して訪れることにしている。ここは関東近郊にある氷川神社の総本社といわれ、前々から是非とも行きたいと思っていたのだ。
あいにくの雨の中、日本一長いといわれる参道をひたすら歩くと、見えてきた。うっそうとした木々から見え隠れする楼門、その前には朱色の橋が架かる。既にすばらしい光景だ。
楼門を抜けると、広い境内の真ん中に立派な舞殿、奥に本殿がある。雨のフィルタを通して眺める境内が、たまらなく良い。これはずっと見ていられる。うん……やはり私は社寺が好きだな。理由などない、とにかく昔からイメージが良いのだ。
お参りに本殿へと向かい、前の参拝者が終わるまで傘を差して待つ……ふと、後ろを見た時だった。楼門からひとりの若い女の子の姿がやって来るのが見えた。いや、ただの若い女の子ではない。格好だ、その格好がかなり奇抜なのだ。
純白のヒラヒラがあちこちに付いた黒のワンピース、絶対領域甚だしいニーハイ、頭にはフリフリのヘッドドレス……完璧と呼ぶべき〝ゴスロリ〟がこちらへ向かって来るのだ。雨が降る中、傘も差さず真っすぐとこちらへ向かい、私の後ろにスッと並んだ。怖い……ただ、かなりの美女だ! しかし、ここは氷川神社の総本社だ、なぜこんなところにゴスロリ美女が……? もはや私の頭の中はそのことしかなく、お参りもそぞろに。拝み終わると、境内の端でゴスロリの様子を伺った。「パンッ、パンッ!!」と見事な柏手を打ち二礼、合掌。最後に一礼すると、踵を返して颯爽と帰って行ったのだ。
カ、カッコイイ──ッ!! 格式高い神社に、突然現れた異国人姿の美女。完璧な作法で風の様に去っていった。ゴスロリって、やはり一般人からしたら独特なイメージがある。ただ私は、この日からゴスロリのイメージがひっくり返ったのである。
話は打って変わって、今度は川崎にやってきた。川崎に来る理由はひとつ、酒を飲みに来たのだ。『丸大ホール』のような昼飲み食堂から、『三島商店』をはじめとする角打ち天国の街。
さて今日はどこから行こうか、ワクワクしかない。東口を出て仲見世通りを真っすぐ歩いていると、本日のお目当て酒場が見えてきた。
これぞ町中華のイメージ通り、『太陸』が現れた。朱色のテント看板には〝味の店〟と〝餃子〟の大書がいい。店先には立ち飲み用テーブルだろうか、ドラム缶が二つ並び、外売り用の小さなスペースもある。壺型の石がテトラポットのように並んでいるが、これは何だろう?
手入れの行き届いたショーケースもいいですねぇ。これが店先にあると、なぜだか安心する不思議。いよぉし、早速中へ入ろう。
「いらっしゃいませー!」
威勢の良い女将さんのお出迎え。テーブル5席の小ぢんまりとした店内は、タイル張りの床にサイン色紙だらけの壁。よくある町中華特有の油ギッシュさはなく、かなり爽やかな店内だ。うん、好き。
おほっ、早速やって来た『瓶ビール』ちゃん。そうそう、私はタンブラー型より首のあるT型ピルスナー型のグラスでビールを飲むのが好み。こっちの方が、冷えているイメージなのだ。グラスへ麦汁を注ぐと、真冬の窓の如し霜が降りたピルスナー。それでは、ひと口。
ヒヤァ……(グラスの冷たさが唇に伝わる音)……ごぐんっ……ごぐんっ……、最高最高最高最高旨味旨味旨味旨味最高最高最高最高!! 車屋のダメ倅も驚く抜群の喉越し。ああ……そういえばここは町中華だった。真実はいつもひとつ! 続いてコッテリ中華を頂きましょう。
きゃっ、完璧じゃん、この『焼き餃子』! 圧倒的手作り感の野趣あふれる形、照りつく焦げ目は強めでなんともウマそうだ。ズシリと箸先に重みを感じながらひと口。
ウマいっ!これぞ焼き餃子、おもしろいほど正解なおいしさだ。シットリした皮が破けると共に、中から肉汁、野菜の凝縮された旨味がジャブジャブ。変化球なしの極めて洗練された逸品だ。やはり焼き餃子はイメージ通りが一番いい。
ネーミングだけで即注文、『キクラゲねぎ炒め』のウマさそうなこと。思っていた1.5倍の大皿には、豚バラとネギ、そしてこの主役であるキクラゲだ。
コリッ、コリコリッと小気味よい歯触りのキクラゲが、柔らかい豚バラと混然一体。そこへシャクシャクとしたネギの食感がたまらない。見た目のパンチ力とは対照的に、どこか優しい味わいが何故だか安堵する。
よく見ると、店内の奥で私の同業者らしき方がGoPro撮影中。どなたかは存じ上げないが、実に楽しそうに撮影している。今後テレビ、YouTubeで私が映っているのを見つけた方、是非とも教えてください。このあとに出される料理で、私は盛大に驚いている姿が映っているはずだ。
「えっ、えっ、えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
「おまたせしました、『タワー硬焼きそば』です」
噂によると、この硬焼きそばがこの店一番の名物とのことだったので頼んでみたのだが、なんたる巨大さ! 高さにして20㎝はくだらないであろう、まさしくタワーな硬焼きそばがやってきたのだ。硬焼きそばだけでも相当な量なのだが、それに掛かる野菜の餡も大量。大皿からいつ零れ落ちるかハラハラする。
ザクッと店内に響き渡る、硬麺の痛快な音。パリパリとした歯ごたえと、トロリとした旨味たっぷりの餡がベストマッチ。こんなにウマい硬焼きそばは初めて食べた……いや、硬焼きそばを頼んだのはこれが初めてだ。
実は私、グリーンピースほどではないが硬焼きそばが少々苦手だ。そもそも、餡と硬い麺の組み合わせが、どうもしっくりこない。ただここの硬焼きそばだけは、全くイケる……いや、これは大好物の部類だ。とにかく、麺がおいしくてそのままでもポリポリいけてしまう。完全に硬焼きそばのイメージが、今日を以って覆ったのである。
が……、
「む、無理だ……」
硬焼きそばのイメージが覆ったのはいいが、ここで計算を見誤ったことに気づく。量が想像以上に多く、さらに残っている餃子とキクラゲねぎ炒めのことを考えると、どうやっても食べきれない。私は酒場で酒と料理を残したくない主義なので、何とか食べきりたいが、どう計算しても食いきれる量ではない。どうしよう……久しぶりのピンチ感で一杯になった時、ふと思いついた。
「はい、手提げに入れておきましたからね」
「あ、ありがとうございます……!」
テイクアウトがあったじゃないか!
女将さんにお願いすると、快くフードパックに入れてビニールの手提げにまで入れてくれたのだ。それでも普通の硬焼きそば一人前以上はあるだろう、改めて無謀な食べ方だったと実感するのだった。
これもまた、酒場での残りをテイクアウトというイメージが今までなかった。はしご酒をするとどうしても腹が一杯になるから、今後はこの方法を採用しよう。気が楽になったので、瓶ビールをもう一本追加だ。
出来立てほどではないが、持って帰ってきた崩壊したタワー硬焼きそばも、おいしく頂きました。
太陸(たいりく)
住所: | 神奈川県川崎市川崎区東田町1-12 |
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TEL: | 044-222-7484 |
営業時間: | [月~木]11:00~14:00×17:00~023:30[金土]11:00~14:00×17:00~01:30 |
定休日: | 日、祝 |