オレンジ色を目指せ!横須賀の無人島帰りに「天国」への招待
酒場ナビなんてものを始める前は、酒に興味はあっても酒場自体にはそれほど拘りがなかった。とりあえず大勢で集まって、ガヤガヤやれればそれでヨシ。よく言えば、店の雰囲気や料理より〝人〟で酒を飲むことに重きを置いていたのだ。
いざ飲るとなれば、だいたい大勢になるのでBBQをすることが多かった。といっても、今流行っているような本格的な道具を揃えるなんて拘りはない。機器は現地でレンタルして、地元のスーパーで好きな食材と酒を持ち寄り、後はひたすらに呑む、呑む……これで問題ない。その後、男女で恋愛に発展する場合もあったが、私には関係がない(いや、これは問題だ)
お台場、秋川渓谷、昭和記念公園をメインに、雨だろうが雪だろうがよくやっていたが、夏のBBQで楽しみといえば、やはり横須賀にある『猿島』だ。
東京湾唯一の無人島として有名だが、何より横須賀という場所がいい。都心からわずか一時間も電車に乗れば、歴史と異文化を手軽に体験できるのだ。記念艦『三笠』が鎮座する三笠桟橋から船に乗ること10分で島に上陸。そこはもう、小さなビーチと緑が生い茂る無人島だ。
元は首都防衛拠点だっただけに、島内には地下塹壕や砲台跡など軍事施設マニア垂涎の史跡がいたるところに存在する。
BBQをした後は、探検気分で島内をひと通り回って海水浴や釣りを愉しむのだが、最近は釣りが出来る場所が減り、海水浴も出来なくなっているのが少々残念。
とまあ、15時を過ぎれば撤収し、帰りの船に乗り込む。程よく疲れた身体と遠ざかる島を見ると、毎回さびしい気分になるが、本土に戻って「ハイ、サヨナラ」とはならない。なんてったって、ここは横須賀だ。
続いてBBQの〝打ち上げ〟をすべく、酒場へ歩いて向かう。島で残った酒を片手に10分も歩けば……ほら、ありましたよ。100m手前からでも見える、いつもの〝オレンジ色〟が。
島から戻ったら必ず寄る……というか、この『天国』へ寄らなかったことはないかもしれない。天国と書いて〝てんくに〟と、なぜか重箱読み。でも実際は、島帰りには間違いなく天国な酒場なのだ。
オレンジ色の巨大テント看板に縄暖簾のデュアル出入口、暖簾の間には〝天国〟の赤提灯が祀られている。目を瞑ってでも絵が描けるほど見慣れた外観なのに、なぜか酒場ナビで紹介されていないことに驚く。横須賀中央には他にもたくさんの昼飲み酒場があるのだが、猿島の直後にはここ以外身体が受け付けない。もう我慢できない、早く入ろう。
「いらっしゃいませ~」
相変わらず、良いですねぇ……左の出入口から入るとすぐに長い〝しの字〟カウンター、右の出入口からはテーブル席が奥に続く。カウンターは、早くも横須賀の先輩らで埋まっているのが心強い。何人かいる女将さんの一人に、テーブル席へと案内された。
と、ここで「あれ?」と思ったアナタ、なかなかの酒場ツウとお見受けする。そう、右の出入口のテーブル席は元々小上がりを改装したもの。正直、前の傾きかけた小上がりの方がBBQ後にはラクだったのだが、これはこれでいい。これからはお行儀よく飲ろうではないか。ではまず、お行儀よく酒から始めよう。
またお会いしましたね、私の相棒『ホッピー』ちゃん。興奮しているのか、瓶もジョッキもたっぷり霜をかいてらっしゃる。島帰りには〝とりあえずビール〟でもなく、酎ハイでもない。やっぱりコイツからお相手しよう。
ゴギュンッ……ゴギュンッ……ゴギュンッ……、くぅぅぅぅヘヴィンリィ!! 日焼けで火照った身体にツィンキィンのホッピーがジジジと効きやがらぁ。やっとノドボトケがシャキッとしたところで、お馴染みのヨコスカ・テンクニの料理と参ろう。
まずは、天国名物『もつ煮込』から。モツと根菜系をしっかりと煮込み上げ、その上からネギをパサリ。お汁がいい色してます。
味も濃からず薄からず、でも旨味はしっかりと凝縮されている。BBQ後に食べるにはもったいない、ただただ丁寧な仕上がり。
横須賀のある三浦半島といったらマグロ、それなら『マグロブツ』は欠かせない。小碗の中でブツ同士がお互いネットリと重なり合い、見るからにウマそうだ。その一番下で圧縮されたブツを引っ張り出し、ひと口……うんまぁい。サクリとした食感からマグロのおいしい脂が滲み出ては舌に蕩ける。このブツは全部私のモノ、誰にもあげない。
おしぼり袋にも記してあるのだが、ここは横浜関内のローカルチェーン『中央立花』の系列店である。伊勢佐木町や八王子の『和来』や日ノ出町店の『亀松』も、相当居心地が好い。大手のチェーンのことはあまり知らないが、ローカルチェーンというものは、どこもポテンシャルが高いことは間違いない。
大好物の『シュウマイ』がやってきた。横浜寄りの酒場は、シュウマイを出すところが多いのでうれしい。ムチムチとコンパクトに包まれたシュウマイにサラダ添え、良い意味であまり凝っていないのが好み。
肉々しい挽肉から溢れる肉汁、皮もウマい。文句なしに好みのシュウマイだ。因みに、私はシュウマイに醤油を付けない派である。
「唐揚げ、お待たせしました~」
出たっ、『若鶏もも唐揚げ』の登場だ! 煮込みと同じくここの名物が『手羽の唐揚げ』なのだが、私はだんぜんコッチ。揚げたての油煙に辛抱タマラン。レモン無用、そのままアッツアツのところを喰らい付けば……
──カリッ!
衣が圧倒的にウマい! 白みがかったサックサクの衣はほんのりと醤油味で、出来たての煎餅の様な香ばしさ。中からはもも肉のはち切れんばかりの弾力と旨味が溢れ、熱さとウマさで病みつきになってしまう。専門店レベル……いや、そこら辺のから揚げ屋よりは間違いなくウマいと言い切ってやろう。
お台場BBQの後でいうところの渋谷『多古菊』、秋川渓谷の後でいうところの立川『玉河』で、猿島BBQ後はやはりここだ。ちょうどいい時間、ちょうどいい場所にある昼酒場。もしかすると……ここがあるからこそ、猿島に集まるのかもしれない。
「あー、疲れたね~」
「早くビール飲もうよ!」
なんとなく、猿島で見かけたような女子たちが天国へ入ってきた。うんうん、分かってらっしゃる。そのまま汗に滴る彼女たちの輪の中に入ってやろうかしらと思ったが……ここは天国、はしたないマネは止めよう。
もしも死んだら天国へ逝きたい……いや、天国へ逝きたい、と言えばちょっぴりオーバーかもしれないが、少なくとも私は来年の夏も猿島の後に、このオレンジ色を目指すだろう。
天国 横須賀中央店(てんくに)
住所: | 神奈川県横須賀市若松町1-14 |
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TEL: | 046-823-7286 |
営業時間: | 12:00~23:00 |
定休日: | 無 |