淡路「ヤマナ酒店」持ち込み自由!?そんな酒場へ母親の愛情を持ち込んでみた
酒場ナビでは《メンバーに行ってほしい酒場》という読者が酒場ナビメンバーに行ってほしい酒場を依頼する企画があるのだが、さすが酒場ナビを酔読しているだけあって、依頼される酒場はどれもインパクトのあるものばかりだ。
〝この店構え、渋すぎるだろ!!〟
〝西成にまだこんな酒場があったのか!!〟
〝この爆盛り酒場は、カリスマジュンヤ好みだな……〟
そんな酒場ばかりの中、ある角打ちへの依頼に目が止まった。
店名『ヤマナ酒店』(大阪府)
酒屋の角打ちです。
あては乾き物のみですが、持ち込みは自由な様です。
特殊先輩はおらず、働いてる人ばかりですが強烈です。
酒場ナビで紹介されてる関西の立ち飲みは、ほぼ行ってますが、ここは格別でした。
特殊先輩ではない、飲み助というか凄い人達が集います。
普通ではない会話が魅力的です。
新参者にも優しく接してくれます^ ^シンヤ レイジ さん
『持ち込みは自由』
角打ちで持ち込み自由って……儲ける気あるのか!? もしかして高額な〝持ち込み代〟を取るのか……いや、酒の値段が異常に高いとか? 都心の激安居酒屋などで〝ビール100円〟と謳っておいて、料理がとんでもなく高いというのはあるが、この店だと金を抜くところがさすがに無さ過ぎる。
確かめに、行くか──
丁度この依頼があった数日後、酒場ナビメンバーのイカと関西へ酒場めぐりをする予定があったので、この依頼の話をイカにしてみたのだ。
「──という酒場らしい」
「何でも持ち込んでえんやろか?」
「うーむ、わからん」
関西っぽい食べ物か、それとも何か珍しい食べ物を探してみるか……? 実際に持ち込んでみたら「それはアカン」ということもあり得るだろう。せっかくの読者からの依頼だ、ここは大事に臨んでみることにした。
****
──数日後の朝。
予定通り、2人でイカの実家に訪れ一泊した翌朝、関西はしご酒に備え準備をしていたのだが、そろそろ出発する時間になっても、未だ『ヤマナ酒店』へ持っていくつまみを決め悩んでいた。
そんな時、イカとイカのお母さんの母子喧嘩が始まっていた。
「お弁当作ったんやから持っていき!!」
「だから、いらんゆーてるやん!!」
また、始まったか……
前回、イカの実家でお世話になった時にもこの母子喧嘩があったのだ。イカのお母さんが私たちに〝昼食用〟の弁当を用意してくれたのだが、私たちは朝から晩まで十数軒はしご酒をしなくてはならず、とても弁当を入れる胃の隙間はない。それをあまり理解してもらえないお母さんとの押し問答は、もはや恒例になりつつある。
「おいしく作ってん、あったら食べんねんて!!」
「食わんて!! もう何回言わす……あっ!!」
「!!……そうだ、イカさん!!」
私とイカは同時に、あることを思いついた。
〝ヤマナ酒店にお母さんの弁当を持っていこう〟
これはナイスアイデアだ。メンバーの母親手作り弁当が酒のつまみという斬新さ、さらにお母さんの機嫌も直り一石二鳥だ。イカはお母さんから弁当の入った大きな紙袋を、今度は奪うように受け取った。
「デザートも入れといたで」
「おかん、おおきにやで」
「お母さん、ありがとうございます」
さっきまでの険悪な雰囲気が嘘のように晴れ、皆が笑顔のままイカ家を後にした。
『淡路駅』
ひとつだけ不安だったのが、今回の依頼は『食べログ』や『ぐるなび』などの大手飲食系サイトに載っておらず、外観や営業時間などイマイチ分からないことだ。
〝当たって砕けろ〟で淡路駅に降り、住所だけを頼りにしばらく歩くとそれらしい佇まいが現れた。
『ヤマナ酒店』
ここで、合ってるよなぁ……?
建物の脇に酒のケースが並んではいるが、看板や暖簾がまったく出ていない。しかし、周りには民家と駐車場があるのみで、ここ以外考えられないのだ。
イカが《エア暖簾引き》をして中の様子を伺う。
「たぶん、ここやと思う」
薄暗いが、中には酒の入った冷蔵庫が見えたという。ここは一か酒か、中へ入ってみたのだ。
「いらっしゃい」
奥にはおそらくマスターと思われる男性が、一人でパソコンを弄っていた。「いらっしゃい」と言うのだから、ここがなんらかの店であることは間違いないようだ。
「すみません、ここって酒屋さんですか?」
「はい、そうですー」
店の真ん中には常連客が飲み残したであろう、酒が並ぶ大きなテーブルと不揃いなイスが乱雑に並び、それを囲むように酒の入った冷蔵庫があった。
「角打ちが出来ると聞いて来たんですが……」
「できますよー。冷蔵庫から好きなの選んで飲んでや」
角打ちもできることが分かりひと安心。まずは無事に読者おすすめの酒場と出会えたことを祝うべく、瓶ビールを冷蔵庫から拝借。さらに様々な形のグラスまで貸してくれた。
《酒ゴング》を済ませると、あとは〝つまみの持ち込み〟が可能かどうかの確認だけだ。
「あの、おつまみの持ち込みもいいですか……?」
「あー、全然かめへんよ」
やはり、本当だった……!
これはすごい角打ちだ。いや、しかしこうなるとやはり気になるのは〝持ち込み代〟である。
「──ただ、すんまへんけど〝持ち込み代〟は貰ってますねん」
まさにそんなことを気にかけていると、それについてマスターが言及した。まさか千円、二千円取るとは思わないが、『お母さんの弁当』を大きな紙袋で持ち込むのだ……ある程度覚悟はしておこう。
「おひとり百円、いただいてますわ」
「……は? ひゃく……」
百円である。たった百円で自由に酒のつまみを持ち込んでよいのだ──驚くべき大阪角打ち……!! まぁ、さすがに鍋やBBQなどはNGだろうが……いや、この気さくなマスターならOKしてくれるかもしれない。
衝撃と安堵の後、いよいよ今回の主役である弁当の登場である。
「おかん、何の弁当作ったんやろか」
「そういえばイカさんのお母さん、前は寿司折を持たせようとしてたよね」
弁当の内容を聞かずに受け取ったが、前回イカのお母さんは弁当として、なぜか『寿司折』を持たせようとした経歴があった。
「せやったなぁ、……もしかして今回も寿司かもしれへんぞ?」
「おぉ、だったら最高だなぁ」
期待を胸に、さっそく弁当の入った紙袋に手を入れるとプラ容器の感触があった。まずは一番上にあるそれを取り出すと……
『からあげ』
寿司ではなかったが、これはこれでアタリだ。しっとりとした衣には、ほんのりと醤油の味が染み、作りたてというのもあり温かくジューシーでウマい。これぞ本物の〝お袋の味〟で酒を飲めるというのは、なんという幸せなことだろうかと噛みしめる。
続けて紙袋へ手を入れ2つめの弁当に手をかけると──ズッシリとした〝お米〟の感覚。
こ、これはまさか……寿司!?
「やった! イカさんのお母さん、マジで寿司折を持たせてくれたかもしれ……」
『焼きそば弁当』
「うわぁぁぁ!? なんじゃこりゃ!?」
出た、『炭水化物 with 炭水化物』
かなり昔の話なのだが、イカと〝関西人はお好み焼きをオカズに白飯を食べる〟という話をしたことがあった。その時にイカが、「焼きそばも白飯で食うで」という衝撃的な発言をしたのだが、当時も今も、少なくとも東北人である私にはまったく理解できない食べ方なのだ。まさか、こんな酒店でそれに出くわそうとは……
「食うてみいや」
「いやいやいや!! 焼きそばと白飯って絶対ありえねーから!!」
まぁ、焼きそばと白飯を別々に食べればいい話なのだが……まっさらな白飯に、ソース味の焼きそばがグチャグチャと口の中で混ざったのを想像するだけで、「ウッ」と込み上げてくるモノがある、しかし……
『味論さんと、一緒に食べるんやで』
……せっかく、私たちのためにと朝早くから作ってくれた手作り弁当。食べないわけには、いかないよなぁ……
うーむ、お母さんの為に、食べてみるか……
「焼きそばと白飯、一緒に食べるんやで」
「わ、わかってるって」
まずは、オカズと呼ばれる焼きそばから……ここまではよいのだ。
そして、焼きそばがまだ口にあるうちに、白飯を……ウッ!!
ウ……ウ、ウ──……
ウマいッ……!?
これ、うまいじゃないか!! なるほど……理由はこの太めの麺だ。甘辛濃味ソースとたっぷり絡んだこの麺が、まるで佃煮や珍味と同じく白飯の〝オカズ〟として成立しているのだ。慣れ親しんだ細縮れ麺の焼きそばではこうはいかない。そして何より、ビールとの相性も抜群だ。
手作りのからあげ、焼きそば弁当……酒に囲まれながら、好きな肴で安く呑む──なんというか、この酒場こそが酒呑みの夢がすべて叶う『天国酒場』なんじゃないかとさえ思えてくる。
「そういえばオカン、食後のデザートも入れといた言うてたな」
おぉ……このタイミング、《酒休め》には丁度いいなぁ。みかんの寒天、葡萄ゼリー、シンプルにイチゴ……弁当のデザートなんて何年振りだろうか。やはり、いくつになろうが母親にとって子供は『子供』なのだな。なんだかちょっぴり郷愁気分を味わいつつ、最後のおつまみデザートを取り出してみた。
カパッ
「……ん? なんだこれ?」
『干し柿』
お母さん……
戦時中のデザートですか……
シンヤ レイジ さん、酒場情報をありがとうございました。
あと、お母さんもお弁当おいしかったです!!
『行って欲しい酒場』へのご依頼はこちら
ヤマナ酒店(やまなさけてん)
住所: | 大阪府大阪市東淀川区淡路3丁目20−10 |
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TEL: | 06-6323-0305 |