門前仲町「だるま」酒場とセーターとだるま男
「お前、〝だるま〟に似てるよな」
──誰がこんなことを言い出したのか覚えていないが、気が付けば「だるま、たるま」と言われて何年も経つ。ギョロリとした目、平たく大きな鼻、への字口……確かに私はその要素は持ち合わせているが……〝だるま〟に似ていていると言われても嬉しくはない。
そういえば、『酒場ナビ物語』という過去に公開した酒場ナビの記事を漫画家の『廣瀬瞳』にコミカライズしてもらっているのだが、私をイメージしたというキャラクターをはじめて描いて見せてもらった時、既に〝だるま〟だったことには驚いた。
そんな『だるま男』にオススメという酒場を教えてもらい、ある夜に『門前仲町』の酒場へと訪れたのだ。
『門前仲町駅』を降りて数分も歩くと、『令和』という新時代が始まるにも関わらず、2世代も3世代も前の街並みが悠然と構えている。すぐ近くにある永代通りの喧騒が嘘のように、静寂の闇に浮かぶ灯は看板と提灯くらいで、寺町独特の飲み屋街情緒を味わうことが出来る。
そんな灯の中にある、ひとつの提灯に私は呼び止められた。
『だるま』
暗闇で真っ赤に光る提灯が、それこそだるまが浮かんでいるように様に見える。なんだか妙な親近感が芽生え……いや、芽生えたくはないのだが、この酒場こそが今回の目的の場所であった。さっそく私は、だるまの戸を引いた──
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パァァッと、トンネルを潜り抜けたかのような眩しさの後には、赤青黄緑の極彩色と人々の声が押し寄せた。15人ほどが座れるカウンターにはビッシリと客が並び、それぞれ酒を飲っている。
「いらっしゃい、ひとり?」
「えっと、あの……はいっ!!」
店の喧騒を潜り、女将さんらしき女性が迎えてくれたのだが……この方がとんでもなく美人!! アナウンサーの『平井理央』が、もう少し熟したような美貌で、思わず背筋が伸びてしまう。
「角のところ、いま空いたからどうぞ~」
「は、はいっ!!」
女将さんの指示に従い、客と壁の狭い間を進むと奥にある角の席へと座った。
(うーん、女将さんのいるところと少し離れてしまったか……)と、少し残念に思いつつも、よく見ると店員は女性ばかり……いや、6人いる店員すべてが女性だったのだ。上は女将さんの御婦人年代を筆頭に、下は二十代前半くらいと選り取り見取り──
よぉし、酒を飲もうぞ!!
ビール、日本酒、ホッピー、ワイン……あとは酎ハイだけとシンプルなラインナップ。その中から酎ハイを選び、パーカーを着た若手の女子店員を呼んだ。
「酎ハイひとつください」
「は~い、酎ハイ一発!!」
エッ⁉ イッパツ!?
花も恥じらう乙女が……一発だって!? 後で分かったのだが、この店では客からの注文を「〇〇一発!!」と繰り返すのだという。若くて可愛らしい女性たちが大声で〝一発〟……なんとウレシイ掛け声なのだ!!
『酎ハイ』
さて、じゃあ一発飲むか……ん? なんだこれ。
よく見ると、どの席にもレモンとライムのシロップが入ったボトルが並び、酎ハイを飲んでいる客らは皆それを入れて飲んでいる。
「あのー、このシロップ使っていいんですか?」
「はいどうぞ~」
明らかに〝使っていい〟という雰囲気だったので確認する必要などなかったのだが、ぴっちりセーターでバストを強調したお姉さん店員が近くを通ったので、思わず声を掛けてしまった。うーむ、このスケベだるまめっ!!
そのスケベだるまは、ライムシロップを選び〝だるま流酎ハイ〟を完成させると、ひとくちゴクリ──うまいっ!!
こうなると、このライム酎ハイに合う料理を選ぶことになる。この爽やかさに合うといったら……これだ。
『アジフライ』
デカい! しかも、ちょっと『ハート型』にもみえるではないか……!!
これを持ってきてくれたセーターのお姉さんは、きっと私に好意があるのだ! と妄想しつつ、タップリとそれにソースをカケてあげる。サクッとした歯ざわりと、大きくて柔らかい白身がまるでセーターのお姉さんのオッp……おっと、またスケベだるまになるところだった……いやいや、ふわりとした白身と丁寧に揚げられたサックリ衣が相まって本当においしい。付け添えの野菜が大盛りなのもまた嬉しい。
さて次に何を頼もうか……おっと、そうだった!
目の前にある大鍋の煮込みがあったことを忘れていた。スケベだるまなんかをやっている場合じゃない、《ニコミスト》としてこいつを注文しなくてはならない。
「すみません、この煮込みください」
「は~い、煮込み一発!!」
はい、また出た〝一発〟……!! くぅ~、堪らないね!!
しかし、本当の堪らないのこれではなかった。この大鍋の角の席は、もっとタマラナイ『特等席』だったのだ。
セーターのお姉さんは〝煮込み一発〟と言った後、
大鍋のオタマに手をかけると、
握ったオタマで煮込みをすくい、
まずはそれを〝一発〟、小皿にポン。
それから二発目、三発目と小皿にポン&パイ、
その中の一発が、私の元へやってきたのだ……!!
ふぅ……食べてもないのに、もう〝ご馳走様〟という気分だ。
どの部分かはお分かりだと思うが、こんな『特等席』のある酒場は他にない。そのあと私がこの目の前に広がる絶景を、およそ一時間……十発以上をオカズ……酒のオカズにしたのは言うまでもない。
『牛もつ煮込み』
ンまいッ!! モツは蕩けるように柔らかいのに対して、野菜はある程度の食感を残すという手の込んだ味わい。やはり今までの経験上、女性だけで快活に切り盛りしている酒場の料理は、必ずおいしいということがまた証明された。
酒も料理も、そして女性たちも最高だ。これは、恐ろしいくらい長居してしまう酒場だ……
店内のいたるところに、女将さんとその妹さんの写真が飾られている。
そういえば何かの酒場本で、ここは女将が『美人姉妹』で有名な酒場だと紹介していた。この時も、妹さんは奥の厨房に出て働いており、これがまた女将さんとは違うタイプの美人だ。この美人姉妹については、調べたらいくらでも出てくるのだろうが、それはあなたのスケベ心にお任せしたい。とにかく、あなた以上にスケベな私は、
〝生ビール頼んだら「生一発!!」って言うのかな!?〟
〝逆にこっちから「一発ください❤」って言ってみる!?〟
〝「シロップ一発!!」もなかなかいいぞ〟
などと股間……妄想を膨らませ、もはやスケベだるまどころか『変態だるま』になりつつあった。でも、これだけ美人揃いの酒場だ、今夜くらい変態といわれてもいい。
それにしても、美人たちにも酒にも酔っぱらったなぁ。
どれどれ、帰る前にもう〝一発〟女子たちを拝んでいこうか──
だるまに似てるのは嫌だけれども、
こんなだるまだったら、毎日でもいいなぁ……
画・廣瀬瞳
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だるま(だるま)
住所: | 東京都江東区門前仲町2-7-3 |
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TEL: | 03-3643-4489 |
営業時間: | 平日 16:30~23:00 土日 16:30~22:00 |
定休日: | 不定休(正月、GW、お盆) |