野毛「大衆食堂2.0 とぽす」大衆食堂の最新バージョンが見つかりました 更新方法はこちらをお読みください
『大衆食堂』という酒場が大好きで、酒場探しでは特に意識している。大衆食堂といえば昼白色の蛍光灯にビニール丸イス、ハムエッグと焼き魚をつまみながらテレビを観て飲るのが醍醐味。真っ昼から飲っても〝食堂〟という肩書で昼飲みの背徳感もなく、しかも大抵どこの街にもひとつふたつはあるという安定感。呑み助にとって、こんな都合がいい酒場は他にないだろう。
もちろん大衆酒場と同じで名店も数多く、浅草『水口食堂』や三鷹『いしはら食堂』、赤羽『三忠食堂』に十条『天将』──都内だけでも数えだしたらキリがないほどあるのだ。
そんな素晴らしい酒場の大衆食堂。ある日、いつものようにそれを探していると〝なんだ、この食堂の名前は!?〟というのを発見した。
──横浜
思い立ったら即酒場、その〝ちょっと変な名前〟の大衆食堂を確かめるべく、横浜・桜木町駅に下りた。その大衆食堂は、酒場マニアなら誰もが知っている野毛の『ぴおシティ』にあるということなので、さらに興味が沸く。
エスカレーターを下ると、お馴染みの光景が広がる。さて、この中に件の大衆食堂があるはずなのだが……
おや?
『と』
『ぽ』
『す』
『大衆食堂2.0 とぽす』
出たっ!! これが探していた大衆食堂だ!!
まず、〝2.0〟ってなんだ?……それだけじゃない、この暖簾のデカさよ。〝やきとり〟とか〝やきとん〟とか何の店かを分かり易く大書するなら分かるが、〝とぽす〟という謎の言葉をこれでもかと強調するところが凄い。数ある暖簾の中でもトップクラスのインパクトだ。
とにかく、中に入ってみなければ何も分からない。いざ、そのデカ暖簾を引いて中へと入る。
えっ、食堂なのに立ち飲み!?
中に入ると立ち飲みカウンターがいくつも並び、そこで何人もの客が立ち飲んでいた……いや、大衆食堂だから正確には〝立ち食い〟になるのか……?
「いらっしゃいませ、立ち席にしますか、座り席にしますか?」
若い店員さんが話しかけてくると、立ち席か座り席かを訊かれる。よく見ると、奥にコの字カウンターにイスが並び、そこでも何人かが飲っていた。なるほど、両方から席を選べるらしい。私は迷わず〝立ち席〟を選び、壁際のカウンターに立った。
謎の〝2.0〟と立ち飲みスタイル、なんという斬新な大衆食堂──まてよ、そういえばこんな名前の大衆食堂があるというのを聞いたことがある。
『ネオ大衆食堂』
〝ネオ〟という言葉がなんだか『中二病』を感じなくはないが、そのネーミングを見たときにガッチリと脳に焼き付いた。なるほど、ここがその店だったのか……。酒の注文がてら、店員さんに店名の由来を訊ねてみると、昔野毛にあった〝トポス〟というスーパーマーケットから引き継いだとのこと。おそらくこの〝2.0〟とは、パソコンやスマホでよく見かけるシステムなどの〝バージョン〟的意味合いだと思われるが、さらに驚いたのだが、野毛の名店『もつ肉店』と『チャコールスタンド』の系列店であることだ。これは凄い大衆食堂だろうという予感がビンビンだ。興奮して喉が渇いたところに酒のメニューを見る。
男のハイボール、女のハイボール、道産子ハイボール、最近の若者のハイボール──想像もつかないネーミングに、またもや〝ネオ感〟を感じられずにはいられない。私もここはひとつ、ネオ酒を……
『酎ハイ』
未だ全国区になれないプレーンの酎ハイは、一周回ってもはやネオ酒な気がする。それはさておき、料理はもう少しネオってみようじゃないか。
『たたき(タレ)』
デカつくねやナンコツの入ったつくねはそう珍しくない。ここの〝たたき〟というつくねも、大きくてナンコツの入ったものだが、決定的に他とは味が違う。生姜……あと他にも独特な何かが効いているが、私の未熟な舌では分からない。とにかくウマくて不思議な味は、今までにない新しいつくねである。
『ささみのタタキ風』
ささみのタタキといえば『よね田』だったが、メニューから姿が消えて久しい。理由は大人の事情なのだろうが、ここは心機一転、これからささみのタタキを食べたくなったらここへ来ればいいのだ。湯通し具合も申し分なく、ワサビをたっぷり目がマスト。
『もつ肉豆腐』
まずこの配色とフォルム、こんな煮込みは見たことがない、これこそ完全なる〝ネオ〟な料理だ。それに流石の〝野毛もつ肉店系列〟だ。新鮮で柔らかいもつ肉単体も然る事ながら、生ニラをもつ肉と噛ませれば、ニラのシャキリと肉の甘柔らかい舌触りが絶妙にマッチ。
鮮烈な風味の『生姜みそ』を添えてくるところがネオイ。豆腐が見当たらなかったが、もつ肉の下に隠されているところもまたネオい。
「すいませーん、入れますか~?」
ネオな料理を堪能していると、店の外から客の声がした。さっきからひっきりなしに客が入ってくるが、この料理を知れば人気の訳も分か……
「8人なんですけど、入れますか?」
一瞬、飲んでいた酒を噴出しそうになった。立ち飲み……いや、大衆食堂の、しかも立ち食いに突然8人の来客だ。そんなもん、絶対に断られるかと思ったが、ここはさすがの〝ネオ〟だ、しっかりとOKして、その客らを外にはみ出した立ち席へと立たせた。
立ち飲みでこの人数を受け入れるなんて凄いな……と、興味津々で酒のつまみにしていると、何か不自然なことに気づく。8人中、女の子が1人……これはおそらく『オフ会』のようなもので、残り7名の若者から中年の男子がアイドルのように可愛い女の子を囲っていた。流行の〝呑ミドル〟のイベントだろう、1人の『姫』はまさに姫気分で男共を転がす。先日もある大衆食堂で飲っていると、部活帰りの中学生団体が入ってきたのだが、男子が10人くらいの中に1人の『姫』がチヤホヤと定食を食べていたのを思い出した。
あっという間に呑ミドルの8人は、10分もするとさっさと店を去っていった。オフ会でも中学生でも邪馬台国でも、『姫』という存在は強大であることに震えながら酒をゴクリ。それと同時に、ここが私の最も愛すべき酒場、〝大衆食堂〟であることも思い出す。
謎のバージョン2.0、
超絶インパクトのデカ暖簾、
斬新な料理と立ち飲んで、
オフ会だって吞吐こい。
これぞまさに次世代大衆食堂、『ネオ大衆食堂』だ。
〝昼白色の蛍光灯にパイプ椅子、ハムエッグと焼き魚をつまみながらテレビを観る〟──そんな大衆食堂の固定概念が気持ちよく崩れ去り、今度は私自身が〝ネオ〟になったようだ。
『大衆食堂30.0』のバージョン更新くらいまでは生きていられるだろう。それまで大衆食堂で酒を飲み続けると誓うのだ。
大衆食堂2.0 とぽす(とぽす)
住所: | 神奈川県横浜市中区桜木町1-1 ぴおシティ B2F |
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TEL: | 050-5596-7487 |
営業時間: | [月~木]15:00~21:30[金土祝]15:00〜22:00 |
定休日: | 日曜日 |