〝ここでしか食べられない〟横須賀中央「酒蔵お太幸」の限定品を食べ尽くしたい!
〝限定品〟とか〝レアアイテム〟とか、特に男ってのはこんなフレーズに弱い。遡れば小学生くらいから傾向は始まっていて、懸賞で当たると貰える金色のファミコンカセットやプラモデル、第一世代のビックリマンのヘッドは圧倒的な特別感があり、当時の私を含めた子供たちは狂ったように〝蒐集〟していた。
大人になればある程度収まるのかといえば全くそうではなく、下手に小銭が手に入るもんだから歯止めがない。同い年友人でエンジェルス『大谷翔平』狂いがいて、彼の家に行くとその自慢が始まる。何百枚もある野球カードは一枚一枚丁寧に専用のケースに入れられており、高いものだとウン万円するらしい。特に大事にしているのが大谷翔平のユニフォーム。本当かどうかは知らないが、現在100万円以上の価値があるそうだ。
我らが酒場ナビメンバーのイカの蒐集癖も半端ではない。彼の記事の中でもちょいちょい出てくるのだが、とにかく色々な〝グッズ〟を集めている。野球グッズからはじまり、酒場の酒器、昭和のポスター、Tシャツ、ムック本……なんと言えばいいのか、ビレッジヴァンガードのもっとマニアックにしたような部屋に住んでいるのだ。「どこでこんなモンを手に入れたのか……?」というものも数多くあり、そのうちのいくつかは、きっと〝呪い〟がかかっていると思う。是非とも、彼の家を訪れてみて欲しい。
彼らを掻き立てるものはひとつ、〝限定〟という他ならないのである。さて自分はといったら、ここまでのことはないが、やはり酒場に関する〝アレ〟があると、毎回ビクッと反応してしまう。
先日、東京湾唯一の無人島『猿島』帰りには、必ず立ち寄る『天国』の記事を書いた。
もちろん、横須賀まで来て一軒で終わるヤワな肝臓ではない。もう二、三軒は飲りたいところ。大概は駅近の『中央酒場』か、それかその〝お隣〟の酒場になることが多い。
『天国』もそうだが、この『酒蔵お太幸』もド派手なオレンジ色が目玉にガツンとクる。横に長い看板、テイクアウト用の窓。ショーケースと純白の暖簾が相変わらずステキな雰囲気を醸し出している。
それに、昼の三時から営ってるのが抜かりない。横須賀のはしご酒には欠かせない店だ。
看板が横に長ければ、店内も横に長い! いつも「何字?」と観察してみるものの、結局わからない〝ぐにゃ字カウンター〟が、店の真ん中に張り巡らされている。そしていつもどこに座ろうかと、ワクワクするのだ。今日は店に入ってすぐ目の前、店内がすべて眺めることが出来る酒座に決めた。ここほど、座る場所によって眺めが変わるカウンターはないだろう。さあ、この景色から飲む酒は如何なものか。
チィンチィンに冷え倒した『ホッピーセット』が目の前にやってきた。その冷気で唇が凍りそうだ。ジョッキには半分の焼酎、瓶から黄金液を注ぎましょう。
トットットッ(焼酎と黄金液が合わさる音)……こくんっ……こくんっ……、うまっ!いつも絶対にウマいじゃないかキミは! 二軒、三軒とはしご酒しても、キミはいつも一杯目で喉をリセットしてくれる。と思ったら、お腹も空いてくる。そしてお太幸といえば、ちょっと〝捻った料理〟に定評アリだ。
お太幸名物のひとつめは『うな玉』だ。なんですの、この美しい円形は? その名の通り、ウナギを玉子でとじたものだが、ヴィジュアルがとにかくいい。ドュルッとした半熟玉子に混ざって、照り焼き輝くウナギの影。
箸で持ち上げてみると、大振りのウナギが迫力のお目見え。メニューの説明にもあるが〝ホワ〜っと美味しそうな湯気〟が立ち上がり、吸い込むように口へ。ウマいなぁ……食べ応えのあるウナギとトロトロ玉子が絶妙なハーモニー、そこへ山椒のピリ辛が際立つ。あぁ……横須賀のお太幸が始まったって感じ。
続いて『トン玉団子串』だ。まず、ネーミングがいい。〝トン〟が何とも良いフレーズ。それで食ってみると、決して〝豚〟が主役じゃないところがニクらしい。
トン以外のウマい何かが隠れていると思ったら……ホタテさんだ。肉団子にホタテが仕込まれているのだ。食感も然ることながら、噛み締める度に肉の旨味、貝の旨味が合わさり、さらに隠れていた大葉の香気が口中を駆け巡る。
ウ~ム、これも傑作。『うな玉』と同じく、このお太幸でしか味わえない逸品だ。
勘のいい呑兵衛読者ならお気づきかと思うが、冒頭で言っていた〝アレ〟とはコレのことだ。その酒場でしか味わうことのできない〝限定料理〟こそ、今の私が狂ったように蒐集しているものなのだ。
それを食べるためなら、日本全国に赴く。〝自家製塩辛〟や店名の入った酒なんか、頼まない手はない。絶対においしいに決まっているし、やはり〝限定感〟がくすぐられるじゃないか。
それこそ頼まないワケにはいかない『名物 お太幸の焼売』。色褪せたセイロが、人気料理ということを伺わせる。見た目は小粒なのだが、箸で持ってみるとズシリと重い。
弾力はあるのに柔らかく餡がたっぷりなので、小籠包の如くジュワジュワと肉汁が溢れて仕方がない。無駄なところが一切ない、完成された焼売だと断言できる。
『軟骨入り洋風揚げまん』なんて、普通の酒場じゃ絶対にお目にかかれない! 揚げパンのようなツヤツヤとキツネ色に光る饅頭。揚げたての香りがタマリマセーン。
「ハムッ!」と食らいつくと、中からは宣言通りの軟骨のソース。これは、ウマい!ピザソース的なイタリーな味わいと、軟骨のプツプツとした食感が最高。ちょっと……これは、本当に買って帰りたい。というか、セブンイレブンで扱って欲しい。そうだ、嘆願書を送ってみようかしら。
うーむ、限定料理が止まらない。揚げまんで終わっておきたいが、今回はじめて頼んだ料理をもう一発紹介したい。だってね、これもここでしか食べられそうにないんだもの……!
それが『ロールキャベツ ホワイトソース煮』ですよ。おでんのタネでロールキャベツはよくあるが、ホワイトソースですって。しかも煮込んじゃったっていう。
ホワイトソースは、とろ〜り優しいグランマの味。ロールキャベツもしっかりと煮込まれており、前歯でザクッと千切れる。中にはこれまたムッチリとした挽肉、ソースと完璧にマリアージュしている。
ここ……ほんとに大衆酒場ですよね? こんなに素晴らしい限定品ばかりの大衆酒場があっていいんですか……?
他に『こまい 氷下魚』や『激辛手羽揚げ』、『海老カリプリ揚げ』や『四種餃子天ぷら』などなど、マニア心をくすぐるメニューの数々。この酒場にしかない限定品は、まだまだ終わりそうにない。
因みにここは二階に座敷があるが、まだ訪れたことがない。さらに、コース料理だってあるらしい。どんな座敷で、どんなコース料理が出てくるのか……これもある意味、ここの限定品といってもいいだろう。
ああっ!もっと……もっとお太幸を集めたい、揃えたい! 100万円だろうが、数百円だろうが、世の男たちは〝限定〟を止めることは出来ないのだ。
そう思うと、世にあるすべての酒場自体が限定と言ってもいいのかもしれない。金も時間もかかるが……それが蒐集の魅力ってことだ。
酒蔵お太幸(さかぐらおたこう)
住所: | 神奈川県横須賀市若松町2-7 |
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TEL: | 0468-25-9407 |
営業時間: | [月~木 ] 15:00~22:00 [金土祝前] 15:00~22:30 [日祝 1階] 13:00~22:00 [日祝 2階] 15:00~22:00 |
定休日: | 12月24日、12月31日~1月2日 |