物価高はどこ行った?激安で「ネギ」を堪能できる奇跡の店「御天 井草本店」
ふざけるな!
……と、思わず叫びたくなるのも仕方がない。だってね、あまりにも物価が高すぎるでしょう? 食料品から始まり、電化製品、光熱費、郵送料、銀行手数料、サイトのドメイン更新料……って、ドメイン更新料を上げるっておかしくない? それにしたって食料品に関しては、何とかならないものか。
食料品が値上がりすると一番打撃を受けるのは、そう、我々呑兵衛だ。毎晩の安酒場で、安いアテをチビチビ飲るのが唯一の楽しみなのに、その安いはずのアテが100円も200円も値上がったらたまったもんじゃない。家飲みも例外ではない。私は〝ネギ〟が大好物なので、家の冷蔵庫には必ずストックしている……はずだったのだが、その物価高でそうも言ってられない。長ネギ3本で198円だったのが、今は298円だ。たかが100円、されど100円。私は超ヘビースモーカーだったのだが、いつぞやのタバコの大幅値上げでスパッと辞めた。それも確か100円の値上げだったので、このままだとネギまで辞めなければいけない事態に陥っている。
そんな高価なネギを、酒場で思う存分堪能したい──過去の訪問から記憶を呼び起こしてみると……あったんですよ、これが。といっても、意外な酒場で実現することになる。
場所は西武新宿線の『下井草』。しもいぐさ……うーん、行かないですよねぇ。マイナー路線である西武線の中でもトップクラスのマイナー駅で、家賃お安めのザ・ベッドタウンだ。だからこそ、なのでしょう。今では高価なネギを、存分に味わえる酒場で在り続けられるのは。駅から歩いて10分ほどか……おっと、見えてきた。
出たっ!『御天 井草本店』!〝本店〟というからには支店もあるのだが、初めて訪れたのは『代々木店』だった。酒場ナビメンバーのイカに連れられて行ったのだが、ある意味〝衝撃的〟な出会いで、後日すぐにこの本店へ訪れたほどだった。
前置きはよしとして……まずは〝ここってラーメン屋じゃないの?〟と思った読者も多いだろう。確かに表向きはラーメン屋なのだが……それは後で説明しよう。
どこかのビッグなモーターなら除草されているだろう、店の看板を圧倒的に覆う街路樹。建物自体はちょっとお洒落な、一見してどこにでもあるような普通の外観。では、中へ入ろう。
「いらっしゃいませ~」
店内も外観と同じように綺麗で、L字のカウンターとテーブルが数席の至って普通のラーメン屋だが……うっ!キタキタキタッ!これだよこれ!
とにかく〝豚骨〟の香りが強い! 私は豚骨ラーメンが大好物だが、ここまで豚骨の香りが充満している店に出会ったことがない。おそらく、本場九州の豚骨ラーメン屋だと普通なのかもしれないが、これがもう何故だか病みつきになる不思議。因みに代々木店も漏れなく充満している。
カウンターに座り、さあ豚骨ラーメン……ではない。まずはメニューをご覧いただきたい。
つまみメニューが多い! 冷奴、マカロニサラダ、サバの塩焼き、ピリ辛ホルモン……ただ多いだけではなく、酒好きを魅了するラインアップなのだ。そう、このラーメン屋は〝ちゃんと飲れる〟ラーメン屋なのだ。さらに驚く勿れ、ここへ来た最大の理由は……その前に酒だ。
ラーメン屋はある意味〝町中華〟と同じ位置づけだ。そうなれば、まずは瓶ビール一択。
ごくんっ……ごてんっ……ごくんっ……、キ──ッ、う・ん・まっ!! ラーメン屋ではじめにラーメンを頼まない背徳感もいい。ゴテンでゴキゲンになったところで、いよいよ最大の理由のアイツらを頼みますか……!
ブハッ、『とり皮ボン酢』だ! 見て見て見て、この圧倒的ネギの量!このネギまみれ! そう、ここへ来た最大の理由は、この〝ネギ特化型つまみ〟が目当てだったのだ!
ワシャッと割り箸で掴んでも解るように、どこからどう見てもネギまみれのとり皮だ。いや……もはやこれはネギにとり皮がまみれているといっても過言ではない。大量ネギのシャキシャキ感と、しっかりと下処理された柔らかいとり皮の相性が抜群。しかも、これがたったの440円なんてあり得ない。実は普段、とり皮を頼むことはないのだが、これだけは絶対に外したくない逸品だ。
続いてやってきたのがネギの山……ではなく『あったかネギチャーシュー』である。でもこれって、ただの〝ネギ〟と言ってもよくないッスか? これの一体どこが〝チャーシュー〟というのか、箸をネギ山に差し込んでみると……
居た! やっとチャーシュー君が表に出てきてくれた。これもまた結構しっかりとしたチャーシューで、間違いなくおいしい色合いをしている。
チャーシューで目一杯ネギを包んでひと口……うんま──いっ! さすがラーメン屋のチャーシューだけあってクオリティが高く、トロリとしたバラ肉の旨味と鮮烈なネギの食感が完璧にマッチング。ニクいのがちょっぴりお酢が効いていて、これがまたサッパリと良いアクセントになっている。これも693円って……本当に、ここの物価高はどこに行ってしまったのか。
既に、ネギで身体も心も満たされてしまった……。そういえば、酒場ナビメンバーで飲む時も〝ネギをケチっているどうか〟が料理の評価になることが多い。メンバーのイカなんて、昔の『天下一品』はネギを盛り放題だったと、未だに恨めしそうに語る。彼らのここの〝ネギ評価〟はどうだろうか……訊くまでもないか。
さて、一旦ネギブレイクで『黒豚焼き餃子』を頂こう。アナタも素敵ですねぇ……〝清純派〟とでも形容したい、まったく穢れのないそのビジュアル。ただの焼き餃子ではなく〝黒豚〟ってのがグッと心を掴む。
ウ・マ・いっ!「誰が清純派だって?」と言わんばかりに、焼き目のワレメから大胆に肉汁が溢れる。ガツン!とした旨味のパンチ、ニラとニンニクの存在感も効いている。こいつはお見逸れいたしました。
もはやネギだけならず、肉汁もたっぷり大満足である。さぁ、このまま残ったネギたちを掻っ込んで、今夜はお終いにしよう。
……なんてワケにはいかない。ここはラーメン屋、ラーメンで〆ずに帰るのは罰が当たる。
豚骨ラーメン屋に来たら、必ず『キクラゲラーメン』を頼むのが私のポリシー。ただ、こちらのキクラゲラーメンをよくご覧ください。そう、キクラゲよりネギの方が目立ってるっていうね。これじゃあ、キクラゲを追加したのかネギを追加したのか分からないですよ。さすが御天ですよ。
よーい、丼! ズズッ、ズー、ズズズー……あ──もう、本当にウマい。本当にここの豚骨はウマ過ぎるんだよなぁ。スープの奥に何とも言えないほろ苦さがあって、これが啜る度に身体じゅうを巡るような、そんな深──いおいしさなのだ。
〝このスープを被りたいっ!〟とは言わないが〝このスープを点滴したいっ!〟とは本当に言える。
何にせよ……
ネギ、ネギ、ネギ……
ネギ、ネギ、ネギ、ネギ、ネギ、ネギ……!
つまみにしろラーメンにしろ、ここまでネギの満足度を満たしてくれるのは、やはりここだけだなと改めて実感するのだ。
残りのスープを点滴していると、中学生らしき女の子がひとりで店に入ってきた。おお……この独特な店の香りにも、眉ひとつ動かさないなんて。女の子はカウンターに座ると、慣れたようにラーメン〝カタめ〟をコール。間もなくして丼が届くと、静かに……そして甲斐甲斐しく麺とスープを啜り、あっという間に店を後にした。
年下先輩、カッコイイッス!
純粋に、このまま物価高でネギが少なくなり、ラーメンの値段が上がり、それを悲しむ年下先輩の姿を見たくないと思った。「物価高よ、速やかに止まってくれ!」と物価の神様に願いつつ、残りのネギたちを私も甲斐甲斐しく平らげたのである。
御天 井草本店(ごてん いぐさほんてん)
住所: | 東京都杉並区井草1-29-3 |
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TEL: | 03-3301-0311 |
営業時間: | [水~金]11:30~14:00/17:00~22:00[土日祝]11:30~22:00 |
定休日: | 月、火 |