西成「たちばな食堂」俺と美人の昼飲みデートを自慢してみる
──美人はいい。
何がいいって、美人と一緒にいるだけで他の男共より〝優越感〟に浸れる。そう、ブスはその逆だ。
♪どうせなら 西成くらい 綺麗な子と歩きたい
あれ、『街くらい』だったか……? そんな懐メロさえ口ずさむ、今日は私にとってレボリューションの日になるのだ。
「みろんくんお待たせ、寒いなぁ~」
デートである。
これから私は、あのやわらか美人こと『アミちゃん』とデートをするのである。
冬の大阪『西成』というロケーション。
綺麗、色白、清潔の『美人三冠王』で穢れを知らないこのアミちゃんを、あえてこの『西成』という町でデートに連れ出した理由──
「え? 手つないだ方がいいって? いやや(笑)」
「なぁなぁ、ここ誰か住んでんの? ……あっ!」
「この子! 家で飼ってるブリトニーにそっくりや~」
ク──ッ!!
この背徳感、
このインモラル、
最高だ……‼
そんな美人を連れて街を闊歩していると、そろそろランチタイムとなった。
「なぁここ何なん? 食べ物いっぱい飾ってんで~」
「ハハッ! アミちゃん、これはOHSと言ってだね……」
神戸在住のお嬢様であるアミちゃんは、もちろん大衆食堂など知らない。私は「あまり触らない方がいいよ」と、彼女にそっとハンカチを差し出すのだ。
《たちばな食堂》
「あたし、ここ入ってみたい」
「ハハッ! いいよ、アミちゃんが希望するならね」
好奇心いっぱいのアミちゃんの瞳は、まだまだ子供のようにあどけなさが残っている。
「このカーテンを開けて入るん?」
「ハハッ! アミちゃん、それは暖簾といって……」
「うそやで。それくらいはあたしも知ってるわ」
ちょっとちょっとぉ~! もう、お茶目さんなんだからっ!
しかしこの距離感、傍から見たら既に『恋人同士』にしか見えないだろうよ。
「はいらっしゃーい」
おぉ……さすが西成、ちょっと入った食堂でも良い雰囲気を醸し出しているじゃないか。早速、大衆酒場処女のアミちゃんをエスコートする。
「アミちゃん、ここのテーブルに座ろうか」
「うん。店の中はけっこう暑いんやな」
そう言って、おもむろにクリーム色の高級カシミヤコートを脱ぐアミちゃん。すると中からは、上品なタートルネックのセーターに……ひ、控えめな双丘がこんもりと現れた。同時に、過去この街では嗅いだことのない、甘ぁい色香が私の敏感な唾液腺をくすぐる。
さらに、ディープグリーンのスカートから延びる扇情的な黒ストッキング……思わず生唾をゴクリと飲……
「……飲むやろ?」
「飲……えっ⁉」
「お茶、飲むやろ?」
「えっ!? あ──、いや、お茶をね! 飲むよ!」
フ──ッ、あぶないあぶない。危うく変態だと思われるところだった。
そんなことはよそに、アミちゃんはお茶の入ったヤカンの黒くて一番ブッ太いところをしっかりと握りこみ、私の窪んだ椀にジョボジョボと黄色いお茶を注いでくれる。
しかし、ここは酒で彼女を酔わせたいところだな……
「アミちゃん、昼間だけどビール飲んじゃう?」
「ええのん? 怒られへん?」
怒られへん、怒られへん!!
ママが怒っても、俺は絶対怒らへん!!
すぐにスタッフへ瓶ビールを注文すると、同時にシュポっと栓を抜く音が鳴る。届けられた瓶ビールをお尺……いや、お酌してもらおうとグラスをアミちゃんに差し出す瞬間、
突然、塩辛声の関西弁が聴こえたのだ。
「美人のねーちゃん、ワシにもビールくれへんか」
……!?
いつから居たのだろうか……
アミちゃんの横には野球帽を被った肌の浅黒い、如何にも地元民らしきオッサンが座っていた。しかも、私のアミちゃんからビールを酌して貰おうとしているではないか……‼
「ええよ。グラス出しや~」
「ほんまか? えらいすんまへんなぁ!」
ちょっとちょっと、アミちゃん⁉
こんな得体のしれないオッサンにビールを注いであげるって……正気かい!?
「アヒャー! 美人ちゃんに酒注いでもろたわぁ!」
なんていう下品なオッサンなんだ!
アミちゃんもアミちゃんで、なんだってこんなオッサンに酒なんか……
「ほな、今度はワシが美人ちゃんに注いだるでぇ!」
「ほんま~? ありがと~」
おい、オッサン!
それは私がアミちゃんを酔わす為に用意した酒だぞ⁉ なに勝手にお酌しちゃってんだよ!?
「よっしゃ、美人ちゃん! そのまま飲んでまえ!」
「このまま? ほな、いただくわ~」
そう言ってアミちゃんはお嬢様らしく上品にグラスを両手で持ち、きゅっと脇を締めてグラスを傾け……
「ンク……」
「ンク……あ……ング……」
「ング……ああ……ァング……」
──カンッ
「プハァ! おいし♥」
おいぁぁしぁぁぁぁあぁぁッ!! アぁぁミぃぃいぃぃちゃぁぁあぁぁぁぁんッ!!
最高にして最高のビールごっくん、ご馳走様ぁぁッ!!
「アミちゃ──んッ!! チューさせ……」
「ガハハッ! 美人ちゃん、高倉健みたいやん!!」
だ──ぅるっせーなー!?
なんだこのオッサンは!?
完全に……完全に私たちのデートの邪魔をしていやがるな……
これはちょっと、席を変えてもらうか……
「おなか空いた~、あたしステーキ食べたいんやけど」
「ハハッ! ステーキね! ステ……えっ、ステーキだって!?」
ちょ……さすがに無理を言っちゃいけないよアミちゃん……ここは庶民の食堂、しかも特殊な地域にある大衆食堂なんだよ……?
「ご、ごめんよアミちゃん……ちょっとここには……」
「あるでぇ~、ステーキやろ?」
はぁ!? また何言ってんだこのオッサンは……
またもや、謎のオッサンが私たちの間に入ってくる。しかも、この食堂にステーキがあるだなんて言いはじめやがったぞ……
「おっちゃん、ほんま~?」
「ほんまやで。ほれ、ちょっと高いけどな」
オッサンはそう言うと、鼻をほじくっていた指で壁のメニュー札を指した。
「あの右のヤツや」
〝牛肉いため(¥1,000)〟
いや、ただの牛肉炒めじゃねーかよ!!
確かにまわりのメニューに比べたら桁違いに高額だが、それにしたって牛肉を全部ステーキだと思っているこのオッサンって一体……
「ほな、そのステーキ注文するわ~」
え──っ!?
本気かアミちゃん!? 牛肉ステーキじゃなく〝牛肉炒め〟だよ!?
「ええやろ、みろんくん?」
「えっ!? ハ、ハハッ! もちろんだよ、アミちゃん!」
《牛肉いため》
あれ? やはりステーキではないのだが……これはこれでウマそうじゃないか。牛肉のミルキーな香りと甘醤油の香りが食欲をそそる。
「な、おいしそやで~?」
「ア、アミちゃん先に食べなよ!(かっ、かわいい……)」
「ええのん? 食べちゃお~」
そう言って、ぎっちょ割箸を取り出し……
「んー、ええ匂いやな~」
「フー、フー」
「あ──……」
「ン! このステーキめっちゃおいしいで! みろんくんも食べや♥」
たべぁぁやぁぁぁぁあぁぁッ!! アぁぁミぃぃいぃぃぢゃぁぁあぁぁぁぁん”ッ!!
もう、合体しよ!? うちらもう合体しよう、ね、ね!?
「アミちゃんッ!! 挿れさせ……」
「ワシにも牛肉ステーキ、一枚くれへんかぁ!?」
ア”ぁぁあぁぁああああッ!!
オォォッサン……オォォオォォッサン邪魔すな────ッ!!
「ええで~、おっちゃんも食べや~」
「おおきに~」
クッ……!!
な……なんなんだ、一体……
アミちゃんも、なんだかんだでこのオッサンの絡みを楽しんでいる様にさえ思えてきた……
私はなんだかガックリと脱力し、おもむろに牛肉ステーキに箸を入れてひと口食べた。
……確かにンまい。
甘味の強めな醤油味には、牛肉と玉ねぎとの相性が抜群。それはまるで私とアミちゃんの様に相性抜群……にも似て……
『──2025年に大阪万博が決まり──』
テレビからは、2025年の大阪万博の開催が決まったニュースが流れる。それに勢いづいてオッサンも喋りが止まらない。
「ワシが子供の頃の万博にはな、こーんなデカいんがあってな……」
「ほんまに~?」
「ほんまやって! こーんなやでぇ!」
「あはは、すごいなぁ~」
わ──っ!!
既に私と話していた時より、アミちゃんは笑っている……!!
くやしいが、我が故郷の秋田県で過去に万博をやった経験などない。その代わりにこのオッサンを、こーんなデカい『かまくら』へブチ込んで上から崩して生き埋めにでもさせたい気分だ……
ちっきしょー!! 俺の女なのに!!
行かないでくれ、
アミちゃん!!
……アミちゃん!!
……アミちゃ──ん!!
「──味論、お前さっきから何しとんねん」
「えっ!? いや……別になんでも……」
「ほな、次の店に行くで」
酒場ナビメンバーのイカの塩辛声で、我に返った。
アミちゃんは怪訝そうな表情で私を見ている。
とっくにお気づきであろう。
最初からここの店へは、私、イカ、アミちゃんとの3人で来ていたのだ。
ちょっとだけ、
アミちゃんとの《妄想デート》を愉しんでいただけである。
……次こそはアミちゃんとのリアルデートを夢見て、
3人での西成はしご酒は、さらにつづく──
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たちばな食堂(たちばなしょくどう)
住所: | 大阪府大阪市西成区萩之茶屋1-8-15 |
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