西成「ナカジマ酒店」美人と缶詰と銃声と流血、そして元気
〝西成は、元気がなくなった〟
これで3度目の大阪西成の訪問となるのだが、思い返せば行く酒場先々ではそんな言葉ばかりを耳にしていた。
しかし……果たして、本当にそうなのか?
秋田県出身の控え目な私からしたら、十分に〝スリリングかつ、エキサイティングな街〟ではあるのだが……一度くらい「西成は、元気やで!」という言葉も聞きたいところでもある。
さて、酒場ナビメンバーのイカ、神戸在住の美人お嬢様『アミちゃん』との3人で西成はしご酒をしているのだが、次で4軒目となる。そろそろお疲れであろうお姫様のアミちゃんを月へお返しすべく、下界最後の酒場へとお連れするのだった。
『ナカジマ酒店』
三角公園(萩之茶屋南公園)、あいりん労働福祉センター、飛田新地に囲まれた西成一等地に、見事な渋暖簾が待ち構える。
もちろん、3人ともはじめて訪れる酒場であり、立地的にさすがの緊張感を感じるが、ここは何も知らないお嬢様に《暖簾引き》をさせて、背徳感をシコシコと愉しみながら中へと入った。
ガラガラ
「いらっしゃい」
細いっ!!
外観からもおよそ想像はしていたが、中は一筋のカウンターとアルミ引き戸の間に数個の丸イスがキッチキチに並んでいる。そして、カウンターの中には若いマスターと若い男性店員の2人がいた。
「お客さん、10円足らんでー」
先にいた先輩客が会計をしているのだが、どうやら10円足りないようだ。渋る表情をした先輩は、上着のポケットを何度も探り、やっと10円玉を見つけると震えながらそれをマスターに差し出して言った。
「もう、年越しでけへん……」
年の瀬は間近──先輩は店を出ると、鉛色の空の下をとぼとぼと商店街の方へ消えていった……そんな姿をなんともいえない表情で見送る3人。
〝こんな西成の先輩、沢山いたなぁ……〟
しみじみと、今回訪れた『あいりん福祉センター』、『たちばな食堂』、『小島商店』を思い返し、今回の西成はしご酒最後の《酒ゴング》を鳴らす。そしていざ、肴。
『ハムステーキ』
「ステーキ? あたし、このステーキ食べたい!」
お嬢様のアミちゃんはそろそろ金持ちの舌が疼いたのか、目の前のクーラーケースにあったステーキを所望するが、ステーキはステーキでもこちらは『ハムステーキ』である。どこをどうしようが〝庶民の味〟そのものなのだが……
「ハモハモ♪ ハムハム♪」
「ア、アミちゃん……」
見る限り、初の西成はしご酒を経験したアミちゃんは、良くも悪くも西成酒場の……いや、『酒場ナビ』との呑み方を分かりはじめたようだ。
『サバカレー缶』
左党の私は、その肴に多種多様な缶詰を食べてきたが、これは初めて見る缶詰だ。注文すると、マスターは缶からサバカレーを皿に取り出しレンジで温めてくれた。
チーン!
「ん~! これめっちゃおいしい~♪」
スプーンですくったカレーを、小動物のような小さなお口でチュパチュパと頬張るアミちゃん。しかし、その背後からは肉食動物が獲物を狙っていた──
「アミちゃん! ここ窮屈やから、そのままワイに食べさせてーな!」
ハハッ!! バカな、お嬢様のアミちゃんがそんなことしてくれる、訳が……
「はい、あ──ん」
「はぁぁあぁぁんんっっ❤」
な、んだと……!? 簡単に食べさせてくれた……!?
それを黙って見ている美人好きの私ではない。透かさず私は、
「アミちゃん! 俺にも食べさせ……」
「イヤや。味論くん、きしょいもん」
と言って、自分でカレーをパクリ……どうやら、ここの前に訪れた『小島商店』で最後にした〝変態行為〟が原因のようだ……。その様子を、背後から小憎らしい笑顔の肉欲動物が賞賛しやがる。
「これ、よかったらどうぞ」
「えっ⁉ ありがとうございます!!」
そんなことをしていると、突然、マスターが『うなぎパイ』を私たちにくれたのだ。
こんなことが起こると話は早い。それを合図に酒場と客との距離はグッと縮まり、酒場ならではの楽しい時間が始まるのだ。
そして、ここは『西成』である──
「悪いモンは、なんでもありましたよ」
そう語るのは、この店の三代目という優しい雰囲気のマスター。生粋の西成っ子ではあるが、子供の頃はさすがに怖い街だったと述懐する。
当時、家の裏には本職の方の家があり〝発砲事件〟は当たり前、銃声の朝には自分の家の窓に『弾痕』があったという、およそ普通の幼少期の生活では体験できない環境で育ったマスター。店に出入りするような年頃になるとさらに過激で、客同士がビール瓶で殴り合いを始め、頭から大量出血する客に救急車を呼ぼうとすると、なぜか「絶対に呼んだら、アカン!!」と必死で断られるのだというから、昔の西成の闇は相当深かったようだ。
「堺に西成ナンバーの原チャリで行くと、地元ヤンキーがビビってな」
「そのナンバーを売ってくれって言うヤツもおったわ」
「暴動? あー、ガス抜きみたいな感じちゃいます?」
「そういや、飛田新地の呼び込みのおばちゃんが、友達のオカンだったことあるわ」
マスターらの話に私たちは〝うそ!? ほんとに!?〟の連発であったが、それ以上に2人の掛け合いが、なんとも心地よいのだ。
恐ろしいけれども、どこか笑える話に気がつけば2杯、3杯と酒を進めていた。
「ただ、西成は駅が多いし住みやすい場所ですよ」
〝ぜんぜん説得力ないわっ!!〟と、皆で笑ったところで、またもやあの言葉を思い出す。
〝西成は、元気がなくなった〟
──いや、
もう疑わない。
『そんなことはない』のだと。
3度目の大阪西成の訪問で、本当に笑い、一番印象に残った酒場かもしれない──いや、きっとそうなのだ。
そして、
こんなに若い人らが笑って、楽しそうに地元の話をする姿をみていると、
〝西成は、元気やで!〟
と、なんだか……
やっと『その言葉』が聞けた様な気がするのだ。
まだまだここでは書けない〝ヤバい話〟を2人に伺ったが、それは心の中で留めておこう。
そんな『元気な西成』のはしご酒を、これからも楽しみに想いながら──
「……あれ? あたしのスプーン、どこいったん?」
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ナカジマ酒店(なかじまさけてん)
住所: | 大阪府大阪市西成区山王2-8-13 |
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TEL: | 06-6641-8622 |
営業時間: | 9:00〜11:00 19:00〜22:00 祝日は営業 |
定休日: | 日曜日・水曜日 |