【台湾】龍山寺「天天来海鮮」台湾酒場でも発見!特殊先輩の謎行動を追跡せよ
「外国の酒場ってどんなだろう……?」
純粋に酒場というものに興味を持ち、東に名酒場があれば趣き、西に珍酒肴があれば馳せ参じる──。そんな事ばかりをしていれば〝外の酒場〟が気になってくるのは、《サカバー》として自然の理である。
5年ほど前に『台湾』へ観光旅行に行ったのだが、当時の私は酒場に興味はなく、首都『台北』周辺のベタな観光地をぐるりと一周したくらいで、台湾酒場など行くことはなかったのだ。今の私からすれば〝なんて勿体ない〟という後悔の念があり、ここ数年、もう一度台湾へ行って台湾酒場を体験したいと思っていた。
そして今年、その想いを叶えるべく台湾行きの航空チケットを握り締め成田から飛んだ。
旧正月の2月だったが、さすが南国、空港に降りるとモワッとした熱気に包まれた。フリープランのツアー旅行だったので、空港からは各ツアー客らと共に混載車のリムジンバスへ乗り、それぞれの宿泊ホテルへ送ってもらう予定だ。到着ロビーを出ると旅行会社の現地案内人が待っていた。
「ドウモ、コンニチハー」
申込んでいる旅行会社名の書かれたプレートを持つ青年が、流暢な日本語であいさつをしてきた。名前は『陳さん』といい、かなりのイケメンだ。
「よろしくお願いします。今からバスに乗るんですよね?」
「ソウデス。デモ、今日ハ普通の車で送リマス」
「あ、バスじゃないんですね?」
「ハイ。今日ノオ客サンハ、アナタダケデスノデ」
そうか、客は私だけなのか……と、陳さんに案内されながら空港の外へ出ると真っ黒のセダンが止まっており、中からサングラスをかけた強面のおじさんが出てきた。
「コンニチワー」
「ホテルマデ、彼ガ運転手シマス」
「は、はぁ……どうも」
あれ、これ大丈夫か……? ツアー旅行ではよくあることなのかもしれないが、海外旅行など殆どしたことがない私は、たちまち不安になった。本当に……いや、かなり不安だったが、断れる雰囲気でもない。スキをついて逃げることも想定しつつ、車の後部座席に乗り込んだ。陳さんが助手席に乗ると、車はすぐに走り出した。
「1時間クライデ、ホテル着キマス」
「は、はい……ワカタヨ」
本当はホテルじゃなく、どこかの山奥なんじゃないのか……? 緊張していた私は、きっと陳さんより下手な日本語で返事をしていたに違いない。すると突然、陳さんがこんな話をしてきた。
「僕ハ、ワーキングホリデーデ、日本ニ住ンデマシタ」
「は、はい……えっ、そうなんですか!?」
実は陳さん、日本人の私にこの話をしたくてしょうがなかった様子で、後部座席へ身を乗り出して日本でのワーキングホリデーの話を始めたのだ。日本のあるホテルのベルボーイとして働いた陳さんは、ある日、連絡のつかなくなった部屋へ様子を伺いに行ったのだ。何度インターホンやノックを鳴らしても、やはり中からの反応はなく、止むを得ずマスターキーを使って部屋のドアを開けた。
「まさか、人が死んでとか……?」
「イイエ! オジサンガ、オチ○チ○出シテマシタ! ビックリシタ!」
部屋の中では、泥酔した全裸のオッサンが椅子に座り、東北訛りで奇声をあげていたのだという。事件などではなかったものの、陳さんの「日本デ、一番ノ思イ出デス!」という満面の笑顔を見ると、同じ日本人のオッサンとして恥ずかしくなるばかり。
とにかく、日本が大好きだという陳さんの話は他にも続き、車内は笑いに包まれたまま宿泊先のホテルへ到着した。
「何カ困ッタ事ガアレバ、イツデモ電話クダサイ!」
陳さんはそう言って連絡先が書かれた紙をくれると、深くお辞儀をして去っていった。〝山奥に連れていかれるんじゃないか……〟などと、私はとんでもなく失礼なことを思ってしまった。陳さんと運転手のおじさん、ごめんなさい。そして、ありがとうございました(謝謝)
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さて、本題の台湾酒場だ。陳さんのおかげで幸先がいい酒場めぐりとなりそうだ。まずはホテルから歩いて行ける観光スポット『龍山寺』へと目指した。
豪華絢爛な龍山寺で、素敵な台湾酒場との出会いを祈願。それから、寺の周辺をあてもなく歩いていると、台湾名物『夜市』に出くわした。
ビッビー! ビー!ビー! ビ────ッ!
狭い通りを人と混じって〝轢かれる方が悪い〟と言わんばかりの車やスクーターが行き来する。それが台湾の夜市なのだ。何度かスクーターと接触ながら必死に進むと、青地に赤が映える看板が目に入った。
『天天来海鮮』
てんてん……らい……看板は何と読むのかは分からないが、外と中にテーブル席が合わせて10ほどと、店先には若干グロテスクとさえ思える魚介類が所狭しと並び、店員のおじさんが威勢よく客寄せの声を上げていた。席も空いているので、台湾酒場の一軒目はここに決めた。
周りの客をみていると、店先の魚介類から好きなものを選び、それを店員がその場で調理してから客のテーブルに持ってきてくれるシムテムのようだ。調理方法を伝えれば、その通りに作ってくれるみたいだが、台湾語をしゃべれる訳もなく、食べたい魚に指だけ差して伝えると空いているテーブル席に座った。
『台湾ビール』
緑の瓶にシンプルなラベル、台湾のビールといったらやはりこれだ。苦味を抑えたスッキリ味。因みに台湾酒場では、酒の入った冷蔵庫から自分で酒を取ってきて飲むというスタイルがほとんどだ。
『茹で海老』
日本のどこにでもある、茹でただけの海老なのだが食べさせ方は少し違う。刺身のようにワサビ付きの醤油で食べるのだが、これが意外とイケる。私は海老を殻ごとバリボリと食べるタイプで、それをワサビ醤油と合わせても何の問題もなくおいしく……ん?
ふと、私の横に謎の爺さんが立っていることに気が付いた。その風貌は、日本でいう……いや、酒場ナビでいう《特殊先輩》そのものだった。横にただ立っているだけと思ったが、よく見ると微妙に震えながら少しずつ店の奥へと進んでいる。本当にゆっくりと進んでいるので、はじめは足が悪いのかと思ったのだが、それからさらに前へ進むと普通に歩きだし、何事もなかったように店の奥のトイレへ入っていった。
『タラコの生姜炒め』
ンまい!! ぶつ切りのタラコを生姜醤油で炒めたものだが、濃い目の味付けがスッキリ台湾ビールとよく合う。アクセントにあるエスニック風味の葉野菜が、これまた食欲をそそって……
まただ。また横に『バイブ先輩』が立っている……いや、やはりバイブのように小刻みに震えながら、少しずつ前に進んでるのだ。
そして、ある程度進むと普通に歩きだし、トイレに入ってからすぐに出て来ると、スタスタと機敏に歩いて店の外へ出て行った。
『牡蠣のうま煮』
台湾はとにかく牡蠣料理が盛んで、日本とは違う小ぶりの身が主流。小ぶりといっても侮るなかれ、シジミのように旨味が凝縮されており、非常に滋味深い味わいなのだ。滴る牡蠣エキスが、いつまでも舌に……舌に……
おい、ちょっと爺さんっ!!
一体なんだっていうんだ……これで3往復目だぞ? 私の横だけゆっくり『バイブ歩き』をしてはトイレに入り、すぐに店の外へ出て行くことを何度も繰り返すバイブ先輩。
流石にこれは何か変だ。私は外に出て行ったバイブ先輩を目で追い、じっくりと観察することにした。
バイブ先輩は店の外にあるテーブル席で、酒も飲まずにひとり座っていた。何もしないまま暫くすると、バイブ先輩は立ち上がり、また私のいる店内へと歩き出した。この時点ではまだ普通に歩いているが、やがて私の横まで来ると……
ブルルルル──!!
出た!! バイブ歩きだ!! しかも、今回が最大級の振動の為か、手足の残像さえ見える。ますます謎が深まるばかりだ。なぜ、私の横に立った時だけバイブ歩きになるのか……
ん!?
バイブ先輩の顔をよく見ると、ある方向をジッと見つめているではないか。そして、その視線を辿っていくと……
『お尻』である。
その視線の先には、私の前のテーブルに座っている女の子のスキニーパンツから露になっている『お尻』があったのだ。バイブ先輩はそれをギリギリまで長く見ていたいが為に、お尻が拝める区間だけを〝超低速〟で歩いていただけなのだ。おそらく、バイブ動作は足が悪いというカモフラージュであろう。
バイブ先輩は、ギリギリまで女の子のお尻を見たあと、また機敏な歩きでトイレへと入っていった。もはや、その背中からは『お尻職人』としての風格すら漂っている。
私はバイブ先輩がトイレから戻ってくるまでに、スマホの台湾語の辞書アプリで〝ある単語〟を調べた。
『スケベ』と『仲間』
である。
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天天来海鮮(天天来海鮮)
住所: | 台湾台北市萬華區梧州街39-41號 |
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