「岩田屋酒店」西成ドリームガード下トリニティー
『西成ドリームガード下』をご存知であろうか?
え? 知っている……?
いや、そんな筈はない。
なぜなら『西成ドリームガード下』とは酒場ナビメンバーで勝手にそう言っているだけの〝造語〟なのだから。
私たちが言うその『西成ドリームガード下』とは、大阪府西成にある『新今宮駅』の高架下のことで、そこには『権兵衛』『いわたや食堂』、そして『岩田屋酒店』という呑み助の大好きな焼きそば屋、食堂、立ち飲み屋が《三位一体》として揃う、まさに〝夢〟のようなガード下なのだ。
実は、酒場ナビメンバーのイカとこの3店舗すべての店を体験しており、既に『権兵衛』『いわたや食堂』の記事はイカが公開しているので是非みていただきたい。
そんな『西成ドリームガード下』最後の砦である『岩田屋酒店』は、他の2店に負けず劣らずの外観をした立ち飲み屋である。
『岩田屋酒店』
紫の下地に〝酒〟と潔く書かれた暖簾がまた堪らない。関西の酒場ではよく見られる〝低く〟掲げられた暖簾を《内暖簾引き》で中へと入った。
意外にも……いや、思った通り、西成らしい小綺麗な店内には、数組の《先輩》方が酒を愉しんでいた。
店の壁には、所狭しと黄色いメニュー札が貼られているが、西成の酒場で〝色褪せた〟訳ではない黄色いメニュー札を見たのは初めてかもしれない。
まずは『西成ドリームガード下』の制覇に、瓶ビールの《酒ゴング》で祝砲を鳴らす。
「あっ!! よく見たらOHSがあるで味論!」
《OHS》……これまでに何度も説明しているが、(O)おかずの(H)入った(S)ショーケースの略であり、アホらしいとは思うが、もはやこの呼び名以外で他の呼び方がわからない程、酒場ナビでは浸透しているのだ。
「OHSはワイに任せときや!」
メンバーの中でも特にOHS好きのイカが、浮き足で料理を選びはじめる。
颯爽と戻ってきたイカは、年中日焼けしている黒顔で選んだ子たちをドヤ黒顔で紹介する。
『かまぼこ』
普通よりピンク率の高いものと、表面を軽く焼いた2種類のかまぼこ。普段、家で酒を飲む時にあまりかまぼこを食べることはないのだが、外で酒を飲む時にはついつい頼んでしまうという妙。まぁ、結果的にウマいからいいのだが。
『カツオの刺身』
少し痩せた切り身ではあるが、その分添えられた薬味やツマたちが華やかであった。中でも薬味の『もみじおろし』と思いきや、大根おろしではなくニンニクと唐辛子を下ろしたものが秀逸で、醤油に溶かすと何とも絶妙な〝甘じょっぱ辛さ〟が《三味一体》となり、イカと2人で「コレは凄くうまい」と舌鼓した。
ふと、店の奥に備え付けられたテレビを見ると、当時、連日のように報道されていた『貴乃花親方』対『相撲協会』の〝バトル〟が放送されていた。
それを観たイカが、
「親方が犯罪者みたいに映されてるやん!!」
と、テレビに向かっていつもの大声を出した。
すると、
「ほんまやな! かわいそうやなぁ!」
と、間髪入れずに先輩方のひとりがそれに相槌をしたのだ。
『もう慣れた』……とはいえ、この関西人特有のコミュニケーション能力の高さというか、人と人との〝距離の近さ〟にはやはり驚かされる。
続けて先輩がイカに言う。
「兄ちゃん、今後親方どないなると思う?」
「せやなぁ~、結局は──」
イカはその先輩の絡みを能弁と返していたが、野球狂いのイカは相撲のことなど何ひとつ知らない。だが、そのまま会話し続けるという〝話術〟と〝度胸〟だけのみは感心せざるを得ない。
「いや~ん! ハイカラやんかいさ~!」
「ん~? これでっかぁ?」
突然、店の女将さんが追い打ちをかけるかの様に私たちへ話しかけてきた。
〝ハイカラやんかいさ〟
イメージ的に一番近いのが、お笑いコンビの『いくよくるよ』の〝どやさぁ~〟と言うときの口調に最も近く、以前にも鶴橋の「いか焼 牧野」の女将さんも言っていたのだが、ざっくりと言えば〝お洒落だね〟という意味の関西方言らしい。
「どれやどれや、あーほんまやなぁ」
何人かの先輩方も興味本位で見にきたのだが、その〝ハイカラやんかいさ〟とはイカがいつも履いている〝左右色違い〟の靴のことである。
イカのトレードマークとなりつつある靴の履き方ではあるが、私の地元の秋田にいる婆さんがこれを見たら、間違いなく『あい~、みっどもねぇなぁ~!』と呆れられると思うが、そんな婆さんは最近、裸足で深夜徘徊をするほど痴呆が進んでいるという〝ハイカイやんかいさ〟でもあるのだ。
「せやねん、もう今年で50年や」
創業は1967年8月13日、女将さんの親兄弟が始めた店で、開店当初からずっと立ち飲み屋で営業してきたのだという。創業50年という偉烈をあっさり言ってのける女将さんだったが、まさにこの酒場自体が〝西成の生き字引〟と言っても過言ではない。
同じく西成で古くから営業している『難波屋』や『但馬屋酒店』の女将さんらは、〝西成は元気がなくなった〟と嘆息していたが、ここの女将さんは少し違った。
「西成は、遠慮のいらない裸の街や」
関西人は標準語や他の方言の人間に敏感な気がする。
この時も、女将さんは私のことをすぐに〝この土地の人間ではない〟と気づいていたのだろう、私にはそんな風に言ってきたのだ。
それを横で聞いていた先輩方は、『あほか』と少し笑っていたい様に見えたが、それ以上に直接的ではない女将さんの〝西成愛〟に、私は大いに笑った。
『岩田屋酒店』
これからも、『権兵衛』『いわたや食堂』と共に、『西成ドリームガード下』のひとつとして暖簾を出し続けて欲しいものだ。
岩田屋酒店(いわたやさけてん)
住所: | 大阪府大阪市西成区萩之茶屋1-1-11 |
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TEL: | 06-6632-4541 |
営業時間: | 9:00~14:00 16:00~20:30 |
定休日: | 日曜日 |